移動
「わからないが、大陸全土を霧が覆っているわけじゃないだろう。その境から見ればわかることもあるんじゃないか?」
それか日の出を待つか……と、ハンクは最後に小声で付け加えた。
「でもね、朝に霧っていうのもあるし。朝になれば解決ってことにもならないかもしれないわよ?」
「だが、明かりがあれば見えていないものも見えてくる。たとえば、蔦は日の光を受けてさらに成長するのかしないのか、などな。そっちの優先順位は?」
「私としてはあなたたちふたりの安全確保、そして行きたい場所に行かせてあげること、で、私も同行ってとこかしら? 情報部としては鉄道会社からの依頼の遂行。汽車は発見できたし、乗客の状況も把握した。操縦車両の点検等をし、動かせるようならこの場から離脱させる。邪魔をする蔦の排除ってところかしら。少佐は?」
「こちらは異常現象の捜査できているからな。この濃霧と蔦の解明と抹殺だ。民間人の救出は済んでいるから、解明が優先。解明できないときは抹殺だ」
「蔦の排除は俺も賛成だ」
「はい。決まり。となれば作戦と行動ね」
クロードとハンクの目的が同じであることが確認できたことに、ライザは満面の笑みを浮かべた。
しかしその瞳の奥は決して笑ってはいない。
シャールは改めてライザを敵に回すのは危険であり自殺行為であると認識した。
「ライザさんはなにか考えがあるんですか?」
ライザの言動を見ている限り、どうにかして蔦を撤去したいということだとシャールは感じた。
極々普通の至って普通の蔦ならさほど問題でもないが、今回の蔦は触手のような蔦。
簡単なことではない。
「あら~、それがあるならこんな面倒な面々と共闘しようなんて思わないわよ~」
とケラケラ笑いながらクロードを見る。
クロードとハンクは相性が悪い。
いや、正しくはクロードの方がハンクを一方的に敵視しているのだ、擬神兵という理由で。
もっと柔軟に、臨機応変に対処してしまえば難しいことではないのに……とシャールは思う。
そして表面は笑いながらも、やはりライザの目は笑っていない。
彼女はクロードのように引きずるタイプではないが、どうもなにかが引っかかっているらしい。
クロードの決断に納得していない、そんなところだろうか。
だから言われたクロードも小さく舌打ちはするものの、ライザの嫌味をあえて受け止め聞き流す。
そして聞こえていないという態度を示しつつ、見解を述べる。
「だが……まったくないわけではない。元を断つ。てはじめに根本から焼いてみるとするか」
「できるんですか?」
「ああ。擬神兵討伐を目的としている我々の装備を使えば問題はない」
クロードの提案を受けライザがハンクの顔を伺う。
とくに意見はなさそうだと判断すると、
「それじゃあ、まずはそれで試しましょうか。ということで、よろしくお願いします。ウィザース少佐」
といって、軽くウインクをした。
「なに? まさか、手伝わない気か?」
「次の手だても考えないといけませんし」
「……ッチ。わかった。だが、次の手など考える必要もないと思うがな。どんなバケモノでも植物には変わりはない。焼いてしまえば終わりだ」
勝ち誇ったように言い方をしながら、部下を引き連れ外に出て行くクロードを見ながら、ハンクは「だといいがな」と囁いた。
「さて……と、私たちも外にでましょうか」
ライザがふたりを外へと連れだそうとする。
「ここよりは安全だし。それに根本から焼き尽くすっていっているから、汽車の中にいるのは危険よ。一応、無事な客室車両から後方部分の連結を解いて引き離すけれど」
「そんなこと、できるんですか?」
「ええ。かなり強引だけどね。その作業もあるから、外にでましょう」
※※※
ライザの指示で外にでることになったハンクとシャールは、霧がたちこめる地上にその一歩を踏み出した。
先導するようにライザが先、続いてハンクが続き、あたりを警戒しながらシャールの下車に手を貸した。
駅のホームではないので、車体と陸との間に落差がある。
飛び降りれない高さではないが、降り立つ地面すらも肉眼で確認できないほどの濃霧。
わずかに戸惑ったシャールを気遣ってのことだった。
「この霧だから、見失わないようにね」
ライザがシャールに手を差し伸べる。
ハンクと手繋ぎはさすがにちょっと……と思っていたので、正直、ライザの方から手を差し伸べてくれたのは嬉しい。
シャールがライザと手を繋ぐと、片手に持っていた荷物をハンクが持つ。
「ありがとうございます」
「気にするな。それより前だけを見てライザの手だけは離すなよ」
「……はい」
目指すは点々と等間隔に並んでいる明かりである。
そのあたりに軍が待機しているのだという。
ケガ人や生存者も軍の用意した医療テントや休息用のテントに避難をしている。
ライザはそこにふたりを連れて行く予定だった。
だが……
「なあ、ライザ。一向に近づいてないようだが?」
結構な距離を歩いているはずである。
時間もそれなりにかかっていると感じているが、なかなか距離が縮まらない。
それか日の出を待つか……と、ハンクは最後に小声で付け加えた。
「でもね、朝に霧っていうのもあるし。朝になれば解決ってことにもならないかもしれないわよ?」
「だが、明かりがあれば見えていないものも見えてくる。たとえば、蔦は日の光を受けてさらに成長するのかしないのか、などな。そっちの優先順位は?」
「私としてはあなたたちふたりの安全確保、そして行きたい場所に行かせてあげること、で、私も同行ってとこかしら? 情報部としては鉄道会社からの依頼の遂行。汽車は発見できたし、乗客の状況も把握した。操縦車両の点検等をし、動かせるようならこの場から離脱させる。邪魔をする蔦の排除ってところかしら。少佐は?」
「こちらは異常現象の捜査できているからな。この濃霧と蔦の解明と抹殺だ。民間人の救出は済んでいるから、解明が優先。解明できないときは抹殺だ」
「蔦の排除は俺も賛成だ」
「はい。決まり。となれば作戦と行動ね」
クロードとハンクの目的が同じであることが確認できたことに、ライザは満面の笑みを浮かべた。
しかしその瞳の奥は決して笑ってはいない。
シャールは改めてライザを敵に回すのは危険であり自殺行為であると認識した。
「ライザさんはなにか考えがあるんですか?」
ライザの言動を見ている限り、どうにかして蔦を撤去したいということだとシャールは感じた。
極々普通の至って普通の蔦ならさほど問題でもないが、今回の蔦は触手のような蔦。
簡単なことではない。
「あら~、それがあるならこんな面倒な面々と共闘しようなんて思わないわよ~」
とケラケラ笑いながらクロードを見る。
クロードとハンクは相性が悪い。
いや、正しくはクロードの方がハンクを一方的に敵視しているのだ、擬神兵という理由で。
もっと柔軟に、臨機応変に対処してしまえば難しいことではないのに……とシャールは思う。
そして表面は笑いながらも、やはりライザの目は笑っていない。
彼女はクロードのように引きずるタイプではないが、どうもなにかが引っかかっているらしい。
クロードの決断に納得していない、そんなところだろうか。
だから言われたクロードも小さく舌打ちはするものの、ライザの嫌味をあえて受け止め聞き流す。
そして聞こえていないという態度を示しつつ、見解を述べる。
「だが……まったくないわけではない。元を断つ。てはじめに根本から焼いてみるとするか」
「できるんですか?」
「ああ。擬神兵討伐を目的としている我々の装備を使えば問題はない」
クロードの提案を受けライザがハンクの顔を伺う。
とくに意見はなさそうだと判断すると、
「それじゃあ、まずはそれで試しましょうか。ということで、よろしくお願いします。ウィザース少佐」
といって、軽くウインクをした。
「なに? まさか、手伝わない気か?」
「次の手だても考えないといけませんし」
「……ッチ。わかった。だが、次の手など考える必要もないと思うがな。どんなバケモノでも植物には変わりはない。焼いてしまえば終わりだ」
勝ち誇ったように言い方をしながら、部下を引き連れ外に出て行くクロードを見ながら、ハンクは「だといいがな」と囁いた。
「さて……と、私たちも外にでましょうか」
ライザがふたりを外へと連れだそうとする。
「ここよりは安全だし。それに根本から焼き尽くすっていっているから、汽車の中にいるのは危険よ。一応、無事な客室車両から後方部分の連結を解いて引き離すけれど」
「そんなこと、できるんですか?」
「ええ。かなり強引だけどね。その作業もあるから、外にでましょう」
※※※
ライザの指示で外にでることになったハンクとシャールは、霧がたちこめる地上にその一歩を踏み出した。
先導するようにライザが先、続いてハンクが続き、あたりを警戒しながらシャールの下車に手を貸した。
駅のホームではないので、車体と陸との間に落差がある。
飛び降りれない高さではないが、降り立つ地面すらも肉眼で確認できないほどの濃霧。
わずかに戸惑ったシャールを気遣ってのことだった。
「この霧だから、見失わないようにね」
ライザがシャールに手を差し伸べる。
ハンクと手繋ぎはさすがにちょっと……と思っていたので、正直、ライザの方から手を差し伸べてくれたのは嬉しい。
シャールがライザと手を繋ぐと、片手に持っていた荷物をハンクが持つ。
「ありがとうございます」
「気にするな。それより前だけを見てライザの手だけは離すなよ」
「……はい」
目指すは点々と等間隔に並んでいる明かりである。
そのあたりに軍が待機しているのだという。
ケガ人や生存者も軍の用意した医療テントや休息用のテントに避難をしている。
ライザはそこにふたりを連れて行く予定だった。
だが……
「なあ、ライザ。一向に近づいてないようだが?」
結構な距離を歩いているはずである。
時間もそれなりにかかっていると感じているが、なかなか距離が縮まらない。
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