第01話「穂乃果、アイドルになりたい!」
突然だが、俺――琴奈竜(ことな りゅう)は今日から東京の神田にある老舗和菓子屋「穂むら」に居候することになった。
経緯は割愛するとして、とりあえず穂むらの看板娘で幼馴染の高坂穂乃果と仲が良かったという縁で起きたことだ。
居候するからには食っちゃ寝のニートみたいな生活を送るわけではなく、ちゃんと仕事もする。
仕事内容は、和菓子作りとか接客……ではなく、穂乃果の母親の代わりに家事や買い物をすること。
そうして始まった新生活に異変が起きたのは、居候を初めて数ヶ月立った頃――4月のことだった。
高校2年の穂乃果は始業式を終えて帰宅してきたのだが、なぜか号泣していたのだ。
「穂乃果、何があったんだ!?」
あまりの異変に仰天した俺はすぐさま穂乃果に問う。
「聞いてよ竜くん! 音ノ木坂が……」
「音ノ木坂が?」
「音ノ木坂が廃校になっちゃうんだよ!」
「なんだって……!?」
穂乃果の言葉に俺は絶句した。廃校ってなんだ。
ちなみに、穂乃果の通う高校である音ノ木坂学院は歴史ある由緒正しい"国立"高校だ。
国立ということはそれなりに認知度や資金も豊富でそう簡単に潰れるはずはない。大体の場合がそうだ。
だからこそ穂乃果の発言には驚いてしまった。
「そんなまさか……」
「そのまさかが起きちゃったの!!」
「残念だね……」
「って、そういう話じゃないよ!」
「と、いうと?」
穂乃果は話を変えようとする。どうやら、廃校になったことを憂いているというわけではないようだ。
「廃校を阻止したいの! 私と海未ちゃんとことりちゃんで!」
「海未ちゃんとことりちゃん……穂乃果の友達か」
海未ちゃん――園田海未。ことりちゃん――南ことり。
よくは覚えていないが、穂乃果との会話の中でよく出てくる人物だったような気がする。
おそらく大の友達なんだろう。
「そうだよ! って、竜くん海未ちゃんとことりちゃんに会ったことあるよね? 幼馴染だし」
「あれ、そうだっけ? ……それはともかく、阻止ってどうするのさ」
「それを考え中なんだ……」
穂乃果はえらく悩んでいたようだった。
俺はとりあえずなにか助けになればと意見を提案してみた。
「じゃあ他の高校のやり方とかを参考にしてみたら?」
「他の高校?」
「そう、例えば……」
「例えば?」
俺は高校生ではない。その上ここの地理に詳しいわけじゃない。
故に高校の名前なんてぽんと出てくるわけないのだ。
「……思い付かない」
「……」
沈黙が流れる。穂乃果、ごめん。
そんな時、遠くから声がした。
「UTXは?」
この声は確か……。
「雪穂っ!」
雪穂――高坂雪穂。穂乃果の妹だ。
「UTXって何?」
俺はすかさず聞いてみる。
「UTXはね、今入学希望者数がナンバーワンの大人気高校なんだよ! 今度私も受験するんだっ!」
なるほどなるほど。それはいいことを聞いた。
その学校を参考にすれば音ノ木坂学院も……。
「へぇ……って、雪穂ちゃん今なんて?」
「UTXを受験したいって……」
UTXを受験したい。そうか雪穂ちゃんはUTXに……人気あるもんね。
「なんで!? 雪穂音ノ木坂受けないのっ!?」
雪穂の発言に驚いた穂乃果は突っかかる。
「だって音ノ木坂なくなるんでしょ!?」
雪穂はそう強く言い返す。
「なくならないよ!」
穂乃果も負けじと言い返す。
姉妹喧嘩を見るのもアレなので、俺は会話に割って入ることにした。
「……とりあえず、穂乃果が友達と協力してなんとかするんだってさ」
「は、はぁ!?」
雪穂は信じられないような顔で俺を見る。何かそんなに変だったかな?
「どうしたの?」
思わず俺は聞く。
「いや……これって、お姉ちゃんだけでどうにかできる問題じゃないと思うよ」
「うっ!」
図星だったのか、穂乃果の動きが固まる。
「何かするにしても、そもそもお姉ちゃん三日坊主じゃん」
「ううっ!」
これも図星だったらしい。穂乃果の胸にぐさりと言葉が刺さる。
「中途半端だし」
「はうぅっ!」
雪穂は容赦ない。3回も穂乃果に言葉を刺した。
「それに……仕方のないことかもしれないよ」
「……」
雪穂の言い分は分かる。確かに廃校阻止なんて大きな問題は大人がなんとかするもの。
だから、子供である穂乃果がなんとかしようとしたって無謀。
穂乃果はその言葉に強い苛立ちを覚えたようだ。
「できるもん……なんとかできるもんっ!」
そう言った後、穂乃果はその場を後にした。
俺と雪穂は唖然とその場を見つめていた。
「それにしても雪穂ちゃん。さっきのは言いすぎだったんじゃないの?」
俺は話を切り出す。いくらなんでもあれは言いすぎである。そう注意しようと思ったのだが。
「そう見えたなら大成功ですね」
雪穂はそう舌をペロッと出して微笑む。
「え……?」
「本気でああ思ってる訳じゃありません。ただ、お姉ちゃんを怒らせてファイトを湧き上がらせただけですよ」
この子策士だ。俺はその言葉に呆然とするしかなかった。
「え……」
「だって、音ノ木坂がなくなるのは私も嫌ですから」
「……ノセられちゃったね」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌日、学校から帰ってきた穂乃果はスクールアイドルを始めると宣言した。
スクールアイドルとは、女子高生が学校の部活として活動するアイドルのことらしい。
なんでも、人気の高校の大半はスクールアイドルをやっており、これに目をつけた穂乃果は早速ことりと海未を仲間にしてチームを結成したのだ。
「それにしても、穂乃果にアイドルなんてできるのか?」
「出来るよっ! 穂乃果をナメないでよねっ!」
しかし、俺はとても不安になった。今までアイドルのアの字も発さなかったような人がいきなりアイドル? そんな突然なことあるか?
俺はついついダメ出しをしてしまう。
「確かに穂乃果は可愛いしアイドル向きのルックスだとは思うがさ……歌ったり踊ったりするんだろ? その辺りはどうなのさ?」
「だ、大丈夫だよっ!」
穂乃果は焦りながら答える。
「その受け答えだと不安しか感じないんだけど」
「なんとかなるよ! 絶対大丈夫だよ!」
ちょっと心配になってきた。
俺は、ガッツに燃えている穂乃果に向けて提案する。
「あ、そうだ。何かあったら俺も手伝うからさ。スクールアイドル、頑張れよっ!」
「うん!」
穂乃果は精一杯の笑顔を見せた。
アイドルっぽい、そんな笑顔だった。
経緯は割愛するとして、とりあえず穂むらの看板娘で幼馴染の高坂穂乃果と仲が良かったという縁で起きたことだ。
居候するからには食っちゃ寝のニートみたいな生活を送るわけではなく、ちゃんと仕事もする。
仕事内容は、和菓子作りとか接客……ではなく、穂乃果の母親の代わりに家事や買い物をすること。
そうして始まった新生活に異変が起きたのは、居候を初めて数ヶ月立った頃――4月のことだった。
高校2年の穂乃果は始業式を終えて帰宅してきたのだが、なぜか号泣していたのだ。
「穂乃果、何があったんだ!?」
あまりの異変に仰天した俺はすぐさま穂乃果に問う。
「聞いてよ竜くん! 音ノ木坂が……」
「音ノ木坂が?」
「音ノ木坂が廃校になっちゃうんだよ!」
「なんだって……!?」
穂乃果の言葉に俺は絶句した。廃校ってなんだ。
ちなみに、穂乃果の通う高校である音ノ木坂学院は歴史ある由緒正しい"国立"高校だ。
国立ということはそれなりに認知度や資金も豊富でそう簡単に潰れるはずはない。大体の場合がそうだ。
だからこそ穂乃果の発言には驚いてしまった。
「そんなまさか……」
「そのまさかが起きちゃったの!!」
「残念だね……」
「って、そういう話じゃないよ!」
「と、いうと?」
穂乃果は話を変えようとする。どうやら、廃校になったことを憂いているというわけではないようだ。
「廃校を阻止したいの! 私と海未ちゃんとことりちゃんで!」
「海未ちゃんとことりちゃん……穂乃果の友達か」
海未ちゃん――園田海未。ことりちゃん――南ことり。
よくは覚えていないが、穂乃果との会話の中でよく出てくる人物だったような気がする。
おそらく大の友達なんだろう。
「そうだよ! って、竜くん海未ちゃんとことりちゃんに会ったことあるよね? 幼馴染だし」
「あれ、そうだっけ? ……それはともかく、阻止ってどうするのさ」
「それを考え中なんだ……」
穂乃果はえらく悩んでいたようだった。
俺はとりあえずなにか助けになればと意見を提案してみた。
「じゃあ他の高校のやり方とかを参考にしてみたら?」
「他の高校?」
「そう、例えば……」
「例えば?」
俺は高校生ではない。その上ここの地理に詳しいわけじゃない。
故に高校の名前なんてぽんと出てくるわけないのだ。
「……思い付かない」
「……」
沈黙が流れる。穂乃果、ごめん。
そんな時、遠くから声がした。
「UTXは?」
この声は確か……。
「雪穂っ!」
雪穂――高坂雪穂。穂乃果の妹だ。
「UTXって何?」
俺はすかさず聞いてみる。
「UTXはね、今入学希望者数がナンバーワンの大人気高校なんだよ! 今度私も受験するんだっ!」
なるほどなるほど。それはいいことを聞いた。
その学校を参考にすれば音ノ木坂学院も……。
「へぇ……って、雪穂ちゃん今なんて?」
「UTXを受験したいって……」
UTXを受験したい。そうか雪穂ちゃんはUTXに……人気あるもんね。
「なんで!? 雪穂音ノ木坂受けないのっ!?」
雪穂の発言に驚いた穂乃果は突っかかる。
「だって音ノ木坂なくなるんでしょ!?」
雪穂はそう強く言い返す。
「なくならないよ!」
穂乃果も負けじと言い返す。
姉妹喧嘩を見るのもアレなので、俺は会話に割って入ることにした。
「……とりあえず、穂乃果が友達と協力してなんとかするんだってさ」
「は、はぁ!?」
雪穂は信じられないような顔で俺を見る。何かそんなに変だったかな?
「どうしたの?」
思わず俺は聞く。
「いや……これって、お姉ちゃんだけでどうにかできる問題じゃないと思うよ」
「うっ!」
図星だったのか、穂乃果の動きが固まる。
「何かするにしても、そもそもお姉ちゃん三日坊主じゃん」
「ううっ!」
これも図星だったらしい。穂乃果の胸にぐさりと言葉が刺さる。
「中途半端だし」
「はうぅっ!」
雪穂は容赦ない。3回も穂乃果に言葉を刺した。
「それに……仕方のないことかもしれないよ」
「……」
雪穂の言い分は分かる。確かに廃校阻止なんて大きな問題は大人がなんとかするもの。
だから、子供である穂乃果がなんとかしようとしたって無謀。
穂乃果はその言葉に強い苛立ちを覚えたようだ。
「できるもん……なんとかできるもんっ!」
そう言った後、穂乃果はその場を後にした。
俺と雪穂は唖然とその場を見つめていた。
「それにしても雪穂ちゃん。さっきのは言いすぎだったんじゃないの?」
俺は話を切り出す。いくらなんでもあれは言いすぎである。そう注意しようと思ったのだが。
「そう見えたなら大成功ですね」
雪穂はそう舌をペロッと出して微笑む。
「え……?」
「本気でああ思ってる訳じゃありません。ただ、お姉ちゃんを怒らせてファイトを湧き上がらせただけですよ」
この子策士だ。俺はその言葉に呆然とするしかなかった。
「え……」
「だって、音ノ木坂がなくなるのは私も嫌ですから」
「……ノセられちゃったね」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌日、学校から帰ってきた穂乃果はスクールアイドルを始めると宣言した。
スクールアイドルとは、女子高生が学校の部活として活動するアイドルのことらしい。
なんでも、人気の高校の大半はスクールアイドルをやっており、これに目をつけた穂乃果は早速ことりと海未を仲間にしてチームを結成したのだ。
「それにしても、穂乃果にアイドルなんてできるのか?」
「出来るよっ! 穂乃果をナメないでよねっ!」
しかし、俺はとても不安になった。今までアイドルのアの字も発さなかったような人がいきなりアイドル? そんな突然なことあるか?
俺はついついダメ出しをしてしまう。
「確かに穂乃果は可愛いしアイドル向きのルックスだとは思うがさ……歌ったり踊ったりするんだろ? その辺りはどうなのさ?」
「だ、大丈夫だよっ!」
穂乃果は焦りながら答える。
「その受け答えだと不安しか感じないんだけど」
「なんとかなるよ! 絶対大丈夫だよ!」
ちょっと心配になってきた。
俺は、ガッツに燃えている穂乃果に向けて提案する。
「あ、そうだ。何かあったら俺も手伝うからさ。スクールアイドル、頑張れよっ!」
「うん!」
穂乃果は精一杯の笑顔を見せた。
アイドルっぽい、そんな笑顔だった。
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