三度、地下室
「……はい。信じてくださり、ありがとうございます」
※※※
「いや~、さすがシャールちゃん。やっぱ、人選に間違いはなかったね」とマックス(仮名)。
あまりにもチャラい、ヘラヘラして信用に欠ける雰囲気である。
ジェラルドは眉にしわを寄せ、疑心に満ちた視線で彼のことを見た。
「あ……いや。参ったな。そんな目で見ないでくださいよ、ジェラルド軍曹。知らない仲でもないんだし」
かつての上官に向かってこの態度。
よくいえば親しみやすいともいうのだろうが、相手がジェラルドであると不敬でしかない。
「失礼だが、面識はないように思えるが?」
「ああ、そうか。この姿じゃなかったですからね。こうだとわかります?」
マックス(仮名)は当時、軍人として潜りこんでいた時の顔を見せた。
まるで瞬間芸ともいえる技に、目を丸くするジェラルド。
「これはいったい。たしかに、その顔には見覚えがある。他人の履歴で入隊をしたマックスか!」
「はい。当たりです」
「貴様!」
ジェラルドの怒号が響いた。
まあ、正常な反応といえよう。
この件の重要参考人として名が出ていたのだから。
胸ぐらを掴み、今にでも拳が振り下ろされそうな勢いに、シャールが全身でそれを阻止した。
「待って、待ってください!」
「なぜかね? 主犯を捕まえたと言っていたのはきみじゃないか」
「そうです。でも、彼は協力者です。犯人ではありません」
「……どういうことか、説明を求めても?」
「当然です。彼はマックス(仮名)という名前で、こちらの世界で情報収集をしている、その人外。擬神兵ケインのオリジナルではないかと言われている一族の方です。彼は一族の組織から派遣され、ケインを追っている方です。少佐とケインが兄弟と知り、近づくために……でも、この事件を起こしたのは、彼になりすました別の人物なのです」
「理屈としては通る筋書きではあるが。人外……本当にそのような存在が?」
「まあ、わかりますよ、そう思いたい気持ちは」とマックス(仮名)。
続けて。
「あなた方人間は意図的に人外を作り出しましたよね? 擬神兵という名の。想像上の存在を現実に実体化させる。できないことはないと思うけど、でも突然変異というには突拍子すぎる。むしろ、錬金術でキメラを錬金したとでも説明された方が納得できるというものです」
マックス(仮名)の説明に、ジェラルドは「たしかに」と納得できる部分もあると頷く。
「ああも短期間に擬神兵の量産……量産といえるかわからないが、命ある者を作り出せるとなると、カラクリがあってしかるべきと考えられるが」
「世界は広いですからね。知らないことの方が圧倒的に多い。そして、知らないでいた方が幸せということも多々ある。俺たちの存在は、その類と思ってください」
「……わかった。ここはそういうことにしておこう。今は少佐と不明のライザ少尉の件が先だ」
「その判断に感謝いたします。では、我々の世界に行きましょうか。ああ、そう。このキツネのお面をしている彼のことは、キツネくんとでも呼んでください。こちらにもいろいろ都合があり、顔や名を晒せないものでして。つまり、俺のマックスも偽名。なのでマックス(仮名)とでも思ってください」
たしかに、この場にキツネの面を付けているってどういうことか……とジェラルドも思わなかったわけではない。
だが、それほど重要でもないと自己判断をしていた。
※※※
霧が五人を包むと、地下室に移動した。
霧がたちこめ、そして晴れると別の場所にいる。
ジェラルドほどの経験があっても、簡単には受け入れ難いことなのだろう。
しばし、体が硬直しているように見えた。
さらに、目の前には見知らぬ人物がいる。
その人物はマックス(仮名)と親しく話し、そしてシャールやハンクとも話をしている。
彼らが協力者の全貌なのかもしれない、ジェラルドはそう推測した。
そして人の姿と変わらないが、自分と同じ人間ではない。
この目まぐるしく変化していく過程を、ハンクたちは瞬時に受け入れ理解して順応した。
若さというものなのだろうか……
だが、今は細かいことを突き詰めていられる時ではない。
少佐と少尉のことがある。
ジェラルドは気持ちを入れ替え、頭の中にある思いこみなどを振り払った。
「お初にお目にかかる。私はジェラルド。階級は軍曹であります。この者たち(ハンクとシャールを指して)から、粗方のことは伺いました。こちらの件でご協力をいただいていたとのこと、感謝いたします。それで、早速ですが、少佐の安否確認をしたいのですが」
するとアストレイ(仮名)は一歩前に出て、
「代表が不在のため、代理を務めさせてもらっている、アストレイ(仮名)と名乗っております。少佐のこと、さぞご心配のことでしょう。すぐにご案内いたします」
と手短に用件だけを口にした。
そして霧がたちこめ、晴れると、医療施設のような場所に出た。
瞬間移動、空想の創作物では時折、そのような描写はあるが、まさか自分が体験しているとは……ジェラルドは驚きを隠せない。
※※※
「いや~、さすがシャールちゃん。やっぱ、人選に間違いはなかったね」とマックス(仮名)。
あまりにもチャラい、ヘラヘラして信用に欠ける雰囲気である。
ジェラルドは眉にしわを寄せ、疑心に満ちた視線で彼のことを見た。
「あ……いや。参ったな。そんな目で見ないでくださいよ、ジェラルド軍曹。知らない仲でもないんだし」
かつての上官に向かってこの態度。
よくいえば親しみやすいともいうのだろうが、相手がジェラルドであると不敬でしかない。
「失礼だが、面識はないように思えるが?」
「ああ、そうか。この姿じゃなかったですからね。こうだとわかります?」
マックス(仮名)は当時、軍人として潜りこんでいた時の顔を見せた。
まるで瞬間芸ともいえる技に、目を丸くするジェラルド。
「これはいったい。たしかに、その顔には見覚えがある。他人の履歴で入隊をしたマックスか!」
「はい。当たりです」
「貴様!」
ジェラルドの怒号が響いた。
まあ、正常な反応といえよう。
この件の重要参考人として名が出ていたのだから。
胸ぐらを掴み、今にでも拳が振り下ろされそうな勢いに、シャールが全身でそれを阻止した。
「待って、待ってください!」
「なぜかね? 主犯を捕まえたと言っていたのはきみじゃないか」
「そうです。でも、彼は協力者です。犯人ではありません」
「……どういうことか、説明を求めても?」
「当然です。彼はマックス(仮名)という名前で、こちらの世界で情報収集をしている、その人外。擬神兵ケインのオリジナルではないかと言われている一族の方です。彼は一族の組織から派遣され、ケインを追っている方です。少佐とケインが兄弟と知り、近づくために……でも、この事件を起こしたのは、彼になりすました別の人物なのです」
「理屈としては通る筋書きではあるが。人外……本当にそのような存在が?」
「まあ、わかりますよ、そう思いたい気持ちは」とマックス(仮名)。
続けて。
「あなた方人間は意図的に人外を作り出しましたよね? 擬神兵という名の。想像上の存在を現実に実体化させる。できないことはないと思うけど、でも突然変異というには突拍子すぎる。むしろ、錬金術でキメラを錬金したとでも説明された方が納得できるというものです」
マックス(仮名)の説明に、ジェラルドは「たしかに」と納得できる部分もあると頷く。
「ああも短期間に擬神兵の量産……量産といえるかわからないが、命ある者を作り出せるとなると、カラクリがあってしかるべきと考えられるが」
「世界は広いですからね。知らないことの方が圧倒的に多い。そして、知らないでいた方が幸せということも多々ある。俺たちの存在は、その類と思ってください」
「……わかった。ここはそういうことにしておこう。今は少佐と不明のライザ少尉の件が先だ」
「その判断に感謝いたします。では、我々の世界に行きましょうか。ああ、そう。このキツネのお面をしている彼のことは、キツネくんとでも呼んでください。こちらにもいろいろ都合があり、顔や名を晒せないものでして。つまり、俺のマックスも偽名。なのでマックス(仮名)とでも思ってください」
たしかに、この場にキツネの面を付けているってどういうことか……とジェラルドも思わなかったわけではない。
だが、それほど重要でもないと自己判断をしていた。
※※※
霧が五人を包むと、地下室に移動した。
霧がたちこめ、そして晴れると別の場所にいる。
ジェラルドほどの経験があっても、簡単には受け入れ難いことなのだろう。
しばし、体が硬直しているように見えた。
さらに、目の前には見知らぬ人物がいる。
その人物はマックス(仮名)と親しく話し、そしてシャールやハンクとも話をしている。
彼らが協力者の全貌なのかもしれない、ジェラルドはそう推測した。
そして人の姿と変わらないが、自分と同じ人間ではない。
この目まぐるしく変化していく過程を、ハンクたちは瞬時に受け入れ理解して順応した。
若さというものなのだろうか……
だが、今は細かいことを突き詰めていられる時ではない。
少佐と少尉のことがある。
ジェラルドは気持ちを入れ替え、頭の中にある思いこみなどを振り払った。
「お初にお目にかかる。私はジェラルド。階級は軍曹であります。この者たち(ハンクとシャールを指して)から、粗方のことは伺いました。こちらの件でご協力をいただいていたとのこと、感謝いたします。それで、早速ですが、少佐の安否確認をしたいのですが」
するとアストレイ(仮名)は一歩前に出て、
「代表が不在のため、代理を務めさせてもらっている、アストレイ(仮名)と名乗っております。少佐のこと、さぞご心配のことでしょう。すぐにご案内いたします」
と手短に用件だけを口にした。
そして霧がたちこめ、晴れると、医療施設のような場所に出た。
瞬間移動、空想の創作物では時折、そのような描写はあるが、まさか自分が体験しているとは……ジェラルドは驚きを隠せない。
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