第五十六話 睡眠欲求
城ヶ崎シャーロットに続いて、城ヶ崎家を出た。エレベーターを使って、地上まで降りる。エレベーターを使っていると、蓮とモルガナは何となく、天井を見つめてしまった。
「……どしたの、二人とも?」
『さっき、エレベーターの天井裏に乗ったからかな』
「何となく、裏側が気になる」
「エレベーターの裏側に乗ったの?……スゴい。ワクワクな体験だよね、それ。アクション映画みたいだもん……あるいは、ホラーだと死体が隠されていたりとか……」
『やめろよ。ついさっき怪談話の幽霊たちと会ったばかりだぜ?』
「そ、そうだね……自重します。自分で言ってて、ちょっと怖くなったし…………」
ちょっとでもないようだ。城ヶ崎シャーロットの顔がどんどん青くなってしまう。
「……レンレン」
「なんだ?」
「ちょっと、掴まっててもいいでしょうか……?」
「いいぞ」
「で、では、ちょっとだけ、レンレンの上着を持っておくね」
小さな白い指が蓮の上着を掴んだ。城ヶ崎シャーロットは、それで少しホッとしたような顔をするが―――エレベーターはすぐに地上に着いていた。
「着いたぞ」
『早いな。さっきは十分ぐらい乗っていたんだが……』
「そんなに高層マンションじゃないよー」
「あっちの世界では、そうなっていた」
「そうなんだ。不思議な世界だよね……って、閉じちゃう」
城ヶ崎が『開』のボタンを押して、閉じようとしていたドアの動きを止めていた。
そのまま城ヶ崎シャーロットに上着を掴まれた状態で、蓮たちはマンションの外へと出た。四月の夜風は、かなり冷たい……だが、そのおかげで眠気が薄らぎもする。
そのまま自転車置き場へと移動した。城ヶ崎シャーロットの赤い自転車を見つける。モルガナは自転車の前方にあるカゴに跳び乗り、蓮はサドルに、城ヶ崎シャーロットは荷台に座る。
「私がこいだ方が良くないかな?」
『朝、それやって転けたドジはどこにいったんだ?』
「う。そ、そーか。そうだね」
「バランスを崩さないように、しがみついていろ」
「わ、わかったよ。シャーさん……レンレンに身を委ねるね」
『言い方がな……まあ、いい。出発しようぜ、蓮!』
「ああ」
夜の市街地を自転車で移動し始める。風が、かなり冷たいが……問題はない。五分もすれば、蓮の自宅へと移動は完了していた。
『着いたな。警察とかに見つからなくて良かったぜ。警官の妹が補導されたりすると、城ヶ崎姉に迷惑をかけるところだった』
「そ、そーだね。なんだか、今の私、家出娘さんみたいだもん。レンレンのお家にお泊まりに行くだけで……って、なんか、それもエッチな響きが……でも、マンションで寝るの怖すぎだから、レンレンのお家でオッケーだー。レンレンは、紳士だもんね?」
「まあな」
『……ふう。とにかく、もう深夜だ。さっさと休めよ。明日も遅刻すれば、神代殿も大目に見てはくれないだろう。それに、蓮と我が輩は調査がある』
「調査?」
「七不思議について調べるんだ」
「なるほど。でも、なんで?」
『……状況を解決したいからだ。今夜は逃げることが出来た。だが、次は?』
「つ、次もあるかなー」
「あったとしてもおかしくはない」
「だ、だよねー……」
『とにかく、解決しなければならない。我が輩たちなら、おそらくあの幽霊を倒すことも出来る。力尽くでな……だが、それはあくまでも最終手段だ』
「……七不思議についての情報を集めて、解決の手がかりを探す」
「そっか。じゃあ、私もお手伝いしちゃうね!」
『城ヶ崎?』
「いいのか?怖くないのか?」
「そ、そりゃあ、怖いですけど?……でも、私が襲われたわけだし。私だって、この状況をどうにか解決したいって思うよ。レンレンたちばかりに、頼るのって、何か違うかもって思うし」
『……そうか。じゃあ、協力してもらおうぜ。我が輩たちは、あの学園のことを何も知らない。仲間がネットで情報を集めてくれてはいるが、それだけでは足りないこともある』
「城ヶ崎、頼むぞ」
「おっけー。任されたぞー…………って、ふわああ。さすがに、眠くなって来たね」
「ああ、同感だ……客間がある。畳の部屋に、布団を敷いてやるから、そこで眠れるな?」
「う、うん。それで大丈夫だと思います」
「……一応、モルガナを護衛につけようか」
『ああ。そうだな。城ヶ崎、我が輩が同じ部屋で寝てやる』
「ほんと?……でも、モルガナも男の子だしなー」
『う。それはそうだが……じゃあ、とりあえず、ふすまの外で寝ておく。何か異常があればすぐに飛び起きて、お前を守ってやる。それでいいか?』
「うん。それならオッケーだね」
「……じゃあ、そうしよう」
いい加減、まぶたが重たくなって来ている。久しぶりの異世界は、体力を消耗して来ている……明日も遅刻してしまいそうだ。少なくとも、弁当にチャレンジするための時間は無さそうだ……。
蓮はそんなことを考えながら、客間に城ヶ崎シャーロットのために布団を敷いてやる。城ヶ崎シャーロットは畳の上に布団というシチュエーションで寝るのは、初めてだから寝れるかなー?……とつぶやいていたが、布団に入れば、30秒もしないうちに寝息を立て始めていた。
『早いな。よほど、眠たかったようだ……まあ、それは我が輩たちも同じだな。じゃあ、蓮……お休み。目覚ましをしっかりとかけておけよ?』
「わかっている。じゃあ、お休み、モルガナ」
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