第四十九話 勝利と悲しみと
魔術の使用者の戦意が消失し、『マハエイガオン』の黒い津波が消失していく。格上の術と競り合っていたモナは、体力と精神力を疲弊して、ふらふらし、その場に片膝を突いてしまう。
だが、最も多くの経験値を持つ最古株の怪盗は、心身ともに限界を迎えていようとも戦いの場では気を抜かない。
『ヨシツネ』の斬撃の嵐を浴びた『骨の怪物/スケルトン・ジャイアント』を睨みつける。あちこちをバラバラにされて、崩れ落ちているが……まだだ。まだ、ヤツの仮面は砕けちゃいない!!
『ジョーカー、トドメを刺しちまえッ!!』
「了解だ!!残りの弾、全て、貴様にくれてやるッ!!」
仮面の下で獣の貌で笑いながら、狩猟の本能に衝動されたジョーカーが、二丁拳銃に残されていた四つの弾丸を、亀裂が走った『骨の怪物/スケルトン・ジャイアント』の巨大な仮面に、至近距離から連射するッ!!
バンバンバンバキュウウンンッ!!
硝煙と赤熱の輝きを銃口に残しながら、四つの弾丸が『骨の怪物/スケルトン・ジャイアント』の破砕寸前だった仮面に向けて叩き込まれていた!!
弾丸の一発一発が、その仮面を撃ち抜きながら、その奥にある巨大な頭蓋骨まで撃ち抜いていく。
仮面の欠片と、骨の破片が、戦い場の宙に舞い散っていきながら……『骨の怪物/スケルトン・ジャイアント』の断末魔の叫びが、それらと混じって空に轟音を響かせていた。
『ぎゃがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああんんんんッッッ!!!』
呪われた骨が、砕け散っていく。内部から、光をあふれさせながら、その呪われた怨霊は、この世の楔から解放されて、天国か地獄へと向かうことになるのだろう。
砕けて消えて行く悪霊を見つめながら、ジョーカーは残弾ゼロとなった二丁拳銃をホルダーへとしまい込んだ。
「……なかなか楽しませてくれた」
そんなつぶやきを吐きつつ、疲労困憊状態のモナの元へと歩いて行く。モナは、片膝状態からゆっくりと両足立ちへと戻ってみせた。
『へへへ。さすが、我が輩たちのリーダーだぜ、ジョーカー。やるじゃねえか』
「当然だ。モナの助けも大きかった。城ヶ崎も、大丈夫そうだ」
『……ホントだ』
非常階段の近くから、こちらを心配そうに見つめているパジャマ美少女がいた。
『……ふう。一安心だぜ……アレだけの大物は、そういやしないだろ……?』
「そのはずだ」
『まったく。我が輩の術が力負けしかけたぞ……生身のヒトが生み出した敵じゃない……もしかしたら、アレも、七不思議の幽霊なんだろうか……?』
「……城ヶ崎が、何かそんなことを言っていたような気がする」
『……七不思議。一体、何なんだろうな……ただの都市伝説とか、ウワサって雰囲気じゃなさそうだぜ……こんなの、我が輩たちじゃなければ、死んじまってるところだ』
「たしかにな……だが、大物は片付けた…………?」
『ん。どうかしたか、ジョーカー?』
「……ヤツは……このマンションの『主』じゃないのかもしれない。倒したのに、何も変化が起きないぞ」
『……っ!!そ、そうだな。パレスだったら、崩壊が始まってしまう頃だろうに……まったくもって、変化が起きていない……アイツは、大ボスじゃなかったらしいな』
「……ここの『主』は、『吉永比奈子』なんだろうか……」
『……分からない。我が輩たちは、いくらなんでも、知っていることが少なすぎるからな……城ヶ崎にも聞いてみるか?……我が輩たちよりは、事情を知っているのは確かだぜ』
「そうだな―――」
「―――きゃあああああああああああああああああああああああッッッ!!?」
『え!?』
「城ヶ崎!?」
ジョーカーとモナは、悲鳴を上げた城ヶ崎シャーロットがいる場所目掛けて、走り始めていた。
城ヶ崎シャーロットは、泣き叫んでいる。
「こ、来ないで!!ひ、引っ張らないでえええ!!?」
屋上の床に身を伏せて、必死にこちらへと向かってこようとしている……彼女の脚には、ガリガリに痩せた細身の少女がしがみついている。
しがみついているだけにしか見えないというのに、少女は城ヶ崎シャーロットを屋上の端へと引きずろうとしているのだ。
『マズいぞ!!アイツが、本命だったのか!?』
「くそッ!!」
「助けて!!助けて、レンレン!!」
「城ヶ崎!!」
ジョーカーが城ヶ崎シャーロットの伸ばした腕をつかむ。踏ん張る……だが、少女はすさまじい力と重みで、ジョーカーごと城ヶ崎シャーロットを引きずっていく。
「だ、だめ。こ、このままじゃ、レンレンごと落ちちゃうよ!?れ、レンレン、離して、二人して、落ちちゃうことないよ!?」
「……離してたまるか」
「っ。れ、レンレン……っ」
『そうだ。離すんじゃないぜ、ジョーカー!!……この子は、我が輩に任せろ』
モナは、覚悟を込めた声音でそうつぶやきながら、得意の剣を振り抜いていた。
城ヶ崎シャーロットの脚に絡みついて、枯れ枝のような細腕が、その斬撃の前に断ち斬られていたのである―――。
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