第五話「永遠」
トイレで頭を冷やしてからホールに戻ると、鷹野はしらっとした顔で既に戻っていた。
同じく事務所から戻って来たのであろう講師に何やら説明されている。
「……」
俺は自分の存在が見つからないようそーっと気配を消して、忍び足で中へと入って行った。
「あ、伊月君」
「!!」
「聞いてた? このプロジェクト中止だから」
「え……」
「二人を主役にしても良いんだけど、今話したら鷹野君はやらないって言うからね」
「……」
鷹野を見ると、何事もないように横顔を向けている。
けれどその顔はもう無表情には見えなかった。
「鷹野……」
声をかけようとすると、鷹野はさっさと脇においてある荷物を取って立ち去ろうとした。
「鷹野!!」
× × ×
外に出て、遠ざかるように歩いて行く鷹野を追いかけて、俺は叫んだ。
「待てよ鷹野! お前がいなくなったらどうすんだよ!」
「……」
「オヤジさん見返したいんだろ!?」
俺は鷹野の肩に手をかける。
「まさか、俺が拒否したこと……」
そう言って振り返らせた鷹野の顔は、今にも泣き出しそうに赤くなっていた。
「! 鷹野……」
「俺が馬鹿だった、全て忘れろ」
「! 待てって!!」
立ち去ろうとした手を取ると、思いのほか汗をかいた掌が熱い。
「……もしかして、本気だった?」
「……」
「俺のこと好きなの?」
鷹野がばっと手を払いのける。
「よく分からないけど、俺だって鷹野のこと好きだよ。憧れるし、もっと一緒に居たいし……」
「……」
「……トモダチじゃ、駄目なのか?」
鷹野が再び立ち去ろうとするので、また腕を取ろうとすると、逆にドン! と傍の電柱に追いやられた。
「!!」
「お前変わったな」
「な、なに……」
「ヒトに意見なんてしやがって」
「た、鷹野だって変わっただろ!」
「とにかくもうここでサヨナラだ」
「……待てよ!!」
俺は一気にその場で息を吸い込む。こうなったらもうヤケだ。
「俺が好きになればお前はそれでいいのか!? 俺から一生離れないのか!?」
鷹野がゆっくりと振り返った。
俺は腹をくくって息を吐く。
「……ホテル、行こう」
× × ×
「……なあ、無理するなよ」
上半身裸で鷹野に覆い被さっている俺を、鷹野は下から見上げて呆れ顔をしていた。
「む、無理なんかしてない」
「だいたい何でお前が上なワケ」
「えっ……だって」
やるの俺の方だし……と言いかけたら、くるりと腕を引っ張られて、あっさりと押し倒された。
「やるのは俺の方だろ」
俺の横に手をついて責めるように見下ろす。
首筋から耳にキスをして、裸になった乳首をクリクリといじる。
「あっ……」
「緊張するなよ、もう三度目だ」
「あう……」
下着の上から股間を撫でられるが、緊張してうまく集中出来ない。
「感じないか?」
「う……う……」
「大丈夫、すぐに良くしてやるから」
俺の下半身に屈み込んだ鷹野は俺のパンツを脱がせて、まだ縮こまっている“それ”を口に含んだ。
「あっ……や!」
「イイだろ?」
「うう……それヤダ……」
抵抗しようにも力が入らなくて、俺は段々とカタくなっていく“それ”を自身で感じていた。
「なあ伊月」
「……ん」
「愛してる」
「――!!」
俺は鷹野を見上げた。
「愛してるよ」
「愛してるってそんな」
出会ってまだ二日目なのに。
「本当は、俺はずっと誰かに愛されたかっただけなんだ」
「けっ、けど……」
「なあ……俺じゃダメ?」
そう言って優しくしごかれるそれに、俺は一気に上り詰めていく。
「あっ……あっ」
「俺のこと好き?」
「わ、わからな……」
先端からどんどん液が溢れてきて、ヌルヌルと上下されるそれに、俺はもう抗いようがなかった。
「あっ……あっ……」
「もっと声だしなよ」
「やっ、やあ……もうイッちゃう」
「イっていいよ。今日は挿れないから」
伊月……と口で先っぽを吸われながら、今度は激しくしごかれて、俺は結局イってしまった。
「ねえ伊月……」
鷹野は俺の頭を撫でながら切なげに目を細めた。
「俺の事好きになって」
「……」
「……お願い……」
× × ×
――帰り際。
ホテルの会計を済ませて立ち去ろうとする鷹野を、俺は呼び止めた。
「なあ鷹野」
鷹野が足を止める。
「俺は優柔不断だけど。お前のために今はっきり言っておく」
「……」
「お前を好きにはなれない……恋愛対象としては」
「……」
「だけど一生離れない」
「……」
「だってそうだろ? 恋愛って、いつかは別れなきゃいけない。ウチの両親も実は再婚なんだ。だから家を出たくて早く自立したかった。オーディション受けたのもそんな理由で……」
「……」
「とにかく、俺はお前と一生一緒に居たいんだ。だから……俺を友達としても好きになってくれないか」
「友達として ‴も‴ ?」
「え?」
鷹野が挑発的に笑う。その瞳に切なさは無かった。
「俺、諦めないから――俺の特技覚えてる?」
俺の元につかつかと歩いてきて、鷹野は俺の耳を強く引っ張る。
「『ヒトを打ち負かすこと』だよ、ウサギちゃん」
晴れ晴れとした笑みで笑って、鷹野は俺に背を向けた。
「一生あれば、お前のこと落とすなんてたやすいさ」
後ろ手にバイバイすると、夕日が照らして二人の別れを際立たせていく。
もう会えないかもな、と思うのと同時に、
また必ず会えるんだろうな、とも思った。
――三年後、とある遊園地で行われたヒーローショーで、ヒーロースーツに身を包んだ俺と、役者として現れた鷹野が再会するのは、運命というより必然だった。
というか、ずっと心は繋がっていた。
(おわり)
同じく事務所から戻って来たのであろう講師に何やら説明されている。
「……」
俺は自分の存在が見つからないようそーっと気配を消して、忍び足で中へと入って行った。
「あ、伊月君」
「!!」
「聞いてた? このプロジェクト中止だから」
「え……」
「二人を主役にしても良いんだけど、今話したら鷹野君はやらないって言うからね」
「……」
鷹野を見ると、何事もないように横顔を向けている。
けれどその顔はもう無表情には見えなかった。
「鷹野……」
声をかけようとすると、鷹野はさっさと脇においてある荷物を取って立ち去ろうとした。
「鷹野!!」
× × ×
外に出て、遠ざかるように歩いて行く鷹野を追いかけて、俺は叫んだ。
「待てよ鷹野! お前がいなくなったらどうすんだよ!」
「……」
「オヤジさん見返したいんだろ!?」
俺は鷹野の肩に手をかける。
「まさか、俺が拒否したこと……」
そう言って振り返らせた鷹野の顔は、今にも泣き出しそうに赤くなっていた。
「! 鷹野……」
「俺が馬鹿だった、全て忘れろ」
「! 待てって!!」
立ち去ろうとした手を取ると、思いのほか汗をかいた掌が熱い。
「……もしかして、本気だった?」
「……」
「俺のこと好きなの?」
鷹野がばっと手を払いのける。
「よく分からないけど、俺だって鷹野のこと好きだよ。憧れるし、もっと一緒に居たいし……」
「……」
「……トモダチじゃ、駄目なのか?」
鷹野が再び立ち去ろうとするので、また腕を取ろうとすると、逆にドン! と傍の電柱に追いやられた。
「!!」
「お前変わったな」
「な、なに……」
「ヒトに意見なんてしやがって」
「た、鷹野だって変わっただろ!」
「とにかくもうここでサヨナラだ」
「……待てよ!!」
俺は一気にその場で息を吸い込む。こうなったらもうヤケだ。
「俺が好きになればお前はそれでいいのか!? 俺から一生離れないのか!?」
鷹野がゆっくりと振り返った。
俺は腹をくくって息を吐く。
「……ホテル、行こう」
× × ×
「……なあ、無理するなよ」
上半身裸で鷹野に覆い被さっている俺を、鷹野は下から見上げて呆れ顔をしていた。
「む、無理なんかしてない」
「だいたい何でお前が上なワケ」
「えっ……だって」
やるの俺の方だし……と言いかけたら、くるりと腕を引っ張られて、あっさりと押し倒された。
「やるのは俺の方だろ」
俺の横に手をついて責めるように見下ろす。
首筋から耳にキスをして、裸になった乳首をクリクリといじる。
「あっ……」
「緊張するなよ、もう三度目だ」
「あう……」
下着の上から股間を撫でられるが、緊張してうまく集中出来ない。
「感じないか?」
「う……う……」
「大丈夫、すぐに良くしてやるから」
俺の下半身に屈み込んだ鷹野は俺のパンツを脱がせて、まだ縮こまっている“それ”を口に含んだ。
「あっ……や!」
「イイだろ?」
「うう……それヤダ……」
抵抗しようにも力が入らなくて、俺は段々とカタくなっていく“それ”を自身で感じていた。
「なあ伊月」
「……ん」
「愛してる」
「――!!」
俺は鷹野を見上げた。
「愛してるよ」
「愛してるってそんな」
出会ってまだ二日目なのに。
「本当は、俺はずっと誰かに愛されたかっただけなんだ」
「けっ、けど……」
「なあ……俺じゃダメ?」
そう言って優しくしごかれるそれに、俺は一気に上り詰めていく。
「あっ……あっ」
「俺のこと好き?」
「わ、わからな……」
先端からどんどん液が溢れてきて、ヌルヌルと上下されるそれに、俺はもう抗いようがなかった。
「あっ……あっ……」
「もっと声だしなよ」
「やっ、やあ……もうイッちゃう」
「イっていいよ。今日は挿れないから」
伊月……と口で先っぽを吸われながら、今度は激しくしごかれて、俺は結局イってしまった。
「ねえ伊月……」
鷹野は俺の頭を撫でながら切なげに目を細めた。
「俺の事好きになって」
「……」
「……お願い……」
× × ×
――帰り際。
ホテルの会計を済ませて立ち去ろうとする鷹野を、俺は呼び止めた。
「なあ鷹野」
鷹野が足を止める。
「俺は優柔不断だけど。お前のために今はっきり言っておく」
「……」
「お前を好きにはなれない……恋愛対象としては」
「……」
「だけど一生離れない」
「……」
「だってそうだろ? 恋愛って、いつかは別れなきゃいけない。ウチの両親も実は再婚なんだ。だから家を出たくて早く自立したかった。オーディション受けたのもそんな理由で……」
「……」
「とにかく、俺はお前と一生一緒に居たいんだ。だから……俺を友達としても好きになってくれないか」
「友達として ‴も‴ ?」
「え?」
鷹野が挑発的に笑う。その瞳に切なさは無かった。
「俺、諦めないから――俺の特技覚えてる?」
俺の元につかつかと歩いてきて、鷹野は俺の耳を強く引っ張る。
「『ヒトを打ち負かすこと』だよ、ウサギちゃん」
晴れ晴れとした笑みで笑って、鷹野は俺に背を向けた。
「一生あれば、お前のこと落とすなんてたやすいさ」
後ろ手にバイバイすると、夕日が照らして二人の別れを際立たせていく。
もう会えないかもな、と思うのと同時に、
また必ず会えるんだろうな、とも思った。
――三年後、とある遊園地で行われたヒーローショーで、ヒーロースーツに身を包んだ俺と、役者として現れた鷹野が再会するのは、運命というより必然だった。
というか、ずっと心は繋がっていた。
(おわり)
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