8話
「なぜ増えているのですか、というか誰ですかあなた」
「かたじけない、サラ子殿。銀時に渡る世間はババアばかりをコンプリートしている娘がいると聞いて連れてきてもらったのだ。私のことは気にせずに仕事に戻っていいぞ、お構いなく」
「初対面で失礼かと思いますが、あなたに礼儀は必要なさそうなのではっきりお伝えしますね。帰れ」
左から神楽さん、万事屋さん、知らない長髪の人と並んで座っている居間は一人暮らし用に設計されているため若干狭い。何故こうなったかというと、最近お店の方から駆け込んでくるなり私の横を通り過ぎる一瞬で「渡ババア借りるネ!」と居間に入っていく神楽さんが来るのはもう慣れた。
けれど今日は何故か2名分多く通り過ぎて、気になって居間に来てみれば3人が仲良く並んで渡る世間はババアばかりを見ていた。
「初対面で帰れとは随分なおなごだ。だが俺は心が広いからそんなサラ子殿の本性もサラッと水に流そう。サラ子だけに」
「人のあだ名に勝手にかけないでください。訴えますよ」
「失礼した、サラ子殿。まあそんなにカリカリせずに煎餅でもどうぞ。近所の古びたお店のババアが焼いているような味だがなかなかそれも味があっていけるぞ」
「本当に失礼ですねあなた」
じとっと名前も知らぬ長髪さんを睨みつけると、長髪さんの顔がうちの畳にのめり込んだ。
無意識のうちに手が出てしまったかと唖然としていると長髪さんの頭の上に乗っているのは明らかに私の手ではなく、というか万事屋さんの手で。もしかして彼の言動に怒って?と思ったが普通に「うるせんだよテメェ!二度と呼ばねぇぞ!」なんて言っているあたり単純にテレビの音が聞こえなかっただけらしい。
なんて自分勝手な人達だろう。
それよりこの長髪さんはいったい誰なんだ。
「失礼した、サラ子殿。俺は銀時の古い友人の桂小太郎という。よろしく頼む」
「ああ、万事屋さんのご友人なんですね。」
「いや違うから。こんなロン毛のお友達なんていないから銀さん。やめてくんないかな、銀さんのクリーンなイメージ汚そうとするの。お前に友達なんていたの?」
「いい加減にそのノリやめないと怒るぞ銀時貴様」
万事屋さんは否定していたが神楽ちゃん曰く昔からの仲なのは本当のことらしい。
初対面で随分な人だなと思っていたけれど万事屋さんの昔馴染みなのならまあ納得も行く。
万事屋さんとの初対面の時も随分と印象的なものだったから。
万事屋さんの周りにはこんな人しかいないのだろうか。
そうなると毎日大変そうだ。万事屋さん自体がぶっ飛んでるから平気なのだろうか。
「それにしてもサラ子殿は銀時以上に目が死んでおられるな。もしかして銀時の生き別れの妹だとか?」
「何言ってるアルヅラ、もし銀ちゃんの身内ならこんなさらさらヘアには生まれてこないアル。少しでも銀ちゃんと同じ遺伝子が入ってたらもうクルクルヨ」
「ヅラじゃない桂だ。確かに、銀時の身内でこの髪質はあり得ないな」
「オイオイ、銀さんはこの天パ遺伝子を後世に継いでいく気はねぇぞ。もし銀さんの子供が生まれるってなったら遺伝子捻じ曲げてでもさらさらヘアに生まれさせてみせるぅ」
「銀時、人間潔く生きねばかっこ悪いぞ。お前のその遺伝子だけはブルドーザーでも捻じ曲げられぬ。諦めて天パを極めろ」
「天パを極めるってなに?天パ王でも目指す気ですかコノヤロー。天パ天パってうるせぇな、天パの何が悪いんだよ!俺が天パでお前らに何か迷惑でもかけたんですかー!?天パには人権はねぇってか!世の中の天パに謝れや!」
「誰もそこまで言ってないアル」
神楽さんの言うとおりだ。誰も天パが悪いとは言っていない。
ただ万事屋さんの天パ遺伝子がしぶといって言っているだけであって。
「サラ子は何でそんなにさらさらヘアアルか?何か使ってるノ?サラダ油でも塗ってるネ?」
「なるほど、サラ子殿の``サラ``はサラダ油の``サラ``も含まれているのか。さすがリーダー」
「名探偵の私にかかればサラ子のさらさらの秘訣まで一瞬で見抜けるアル!」
「サラダ油を使っている前提に話を進めるのはやめてくださいませんかね」
それを聞いて信じる人なんていないだろうけれど、何か嫌だ。不名誉だ。
ため息をもらし、ふっと人影のある台所を見るとサラダ油を片手になにやら悩みこんでいる銀髪頭が目に入り急いで立ち上がった私はサラダ油を取り上げた。
「サラダ油で髪を整える人はいるようですが髪によいかは別のようですよ、そもそも食用なのでそれ用に作られてはいませんし。それなら髪油を試した方がよほど良いかと」
「でもサラ子は使ってないんでショ?」
「まぁ…合う合わないは他人によりますし。ただサラダ油は間違いなく使わない方がいいですよ。だからサラダ油のある方をそんな見ないでください。…それにヅラさんも髪さらさらじゃないですか。私より同じ男性の桂さんに聞いてください」
「ヅラは何使ってるネ」
「ヅラじゃない桂だ。サラ子殿まで。俺は特別に手入れなど一切していない石鹸で洗っているくらいだ」
「石鹸アルか、じゃあ今日から銀ちゃんも石鹸デビューアルな」
「石鹸ねぇ」
(いらs……どうしたんですかその爆発ヘア)
(石鹸で洗ったら余計髪が膨らんだんだよ、髪のキューティクル治す薬くれや)
(置いてないです)
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