罪人の拘束
ハンクがライザの言葉を遮る。
「ハンク。いくらあなたでも、ここでは無理よ」
「やってみなきゃわからん」
ハンクもオーレン(仮名)へと接近。
しかし、彼が自在に操る植物の先端がクロードの額に刺さる。
「は っ た り じ ゃ な い ぞ。本 気 だ ぞ」
どれくらい刺さっているのだろうか、鮮やかな血が額を流れ落ちる。
人間の血の臭いが充満していく。
マックス(仮名)をはじめ、吸血鬼たちの動きが鈍くなった。
ライザとシャールを守るよう言われたジェラルドのお面さんもオーレン(仮名)から距離を取るように後退する。
「血にあてられているんだわ、きっと」
シャールはマックス(仮名)たちから聞いた話などを総合し、その答えにたどり着く。
「シャール? でも、この人たちは人間を襲わないって。汽車の中にいてもなにも変わらなかったじゃない」
「新鮮さ。それの度合いで違うのではないでしょうか。体内から直接流れる血は誘惑。本能をかき立てられる……ライザさん。出直しましょう。その選択も必要ではないでしょうか」
「……わかっている。それも考えなくてはならないくらい、こちらの方が追い込まれていることくらい、私だって」
しかし、それに意義を唱える声がした。
「ソノ、ヒツヨウハ、ナイ」
ピエロくんだ。
「コレハ、アイツノミセテイル、ゲンカク。マサカ、ニオイマデ、サイゲン、スルトハ」
「臭いまで? でもマックス(仮名)の幻覚も臭いはしていたと思うけど」
「まあね。それくらいはたぶんたいていの人はできると思う。けど、オーレン(仮名)の見せている幻覚っていうのは、俺たち吸血鬼の神髄に直接漂わせている。本来、人の血を嗅いだくらいで、こんなにも喉の乾きを感じることはない。この乾きは薬物の誘惑に引き寄せられるような、とてもイヤな感じだ。ピエロくんのことを信じてほしい。俺たちは大丈夫。絶対に、手の届くところにいる少佐は奪還する!」
だが、その決意はすぐにへし折られる。
オーレン(仮名)がクロードの額を貫いたからだ。
シャールはもちろん、ライザも絶望に落とされる。
「アイテノ、ゲンカクニ、ノミコマレルナ!」
ピエロくんが叫ぶ。
わかっている。
ライザもシャールも、そしてハンクも。
目の前で起きている最悪の展開は、そのように見させられているだけだということを。
しかし、その境目がわからない。
なにが現実でなにがまやかしで。
どこからがつくりものなのか……
感覚としては目で見ているというよりは、脳内で直接映像が流れているような感じ。
もしかしたら、この感覚が幻覚に飲み込まれるという表現なのだろうか。
ライザは目に見えるものすべてを閉ざしてみた。
「ライザさん?」
「……しっ……。シャールもやってみて。耳で聞くことをやめ、目で見ることを閉ざして。脳内で見ているその映像は実際の記憶の中にあるもの? 私たちは予言者ではない。未来は見えないはず。これが幻覚であるなら、少佐は生きている。生きていると強く信じて。そして目を開ける。そこに見えている光景が本物。私は流されない」
するとライザは霧に包まれ闇の中にいた。
シャールは何かに引っ張られるような感覚がして、それに逆らわないでいると、気づけば汽車の中にいる。
汽車は自分たちが乗っていたあの汽車。
そして外には蔦の根元、そこにぱっくりと穴が空いている。
「私だけ、現実に戻ってしまった……?」
※※※
ライザとシャールの姿が消えた瞬間は見ていないが、ふとそちらの方を見るといない。
一番動揺したのはジェラルドのお面くんだろう。
「どうなっている?」とハンク。
ハンクはマックス(仮名)にその疑問を投げた。
「わからない。俺はなにも……。オーレン(仮名)、おまえか?」
だが動揺ではなく恐怖に震えるような姿のオーレン(仮名)を見れば、彼の仕業ではないのだろう。
ピエロくんではないし、キツネくんでもない。
では、なにかが狂ってしまったのだろうか。
マックス(仮名)も動揺し、正しい冷静な判断が欠けはじめていく。
オーレン(仮名)が動揺している今なら、少佐奪還は確実なはず。
オーレン(仮名)を拘束できる場所にいながら、それができないでいた。
しかし、ピエロくんとキツネくんは冷静だった。
女性ふたりが忽然と消えてしまった詮索よりも、目の前のことの方が重要だったからだ。
ピエロくんとキツネくんが動いていることに気づいたハンクも動く。
ライザとともに消えたのなら、一緒にいるだろう。
目の前のクロードを取り返せば形勢逆転。
またオーレン(仮名)を吸血鬼一族の世界に拘束して連れ帰れば、また新しい情報が得られる可能性がある。
「マックス(仮名)! オーレン(仮名)を拘束しろ!」
ハンクが叫ぶ。
捕らえられる。
それが現実となったことを悟ったオーレン(仮名)は四つん這いになって逃げようとする。
激しく動揺し恐怖に震えながらも、抵抗する意欲はあるらしい。
「ココマデダ。カンネンシロ」
捕らえたのはピエロくん。
キツネくんは手際よく、オーレン(仮名)を拘束した。
「ハンク。いくらあなたでも、ここでは無理よ」
「やってみなきゃわからん」
ハンクもオーレン(仮名)へと接近。
しかし、彼が自在に操る植物の先端がクロードの額に刺さる。
「は っ た り じ ゃ な い ぞ。本 気 だ ぞ」
どれくらい刺さっているのだろうか、鮮やかな血が額を流れ落ちる。
人間の血の臭いが充満していく。
マックス(仮名)をはじめ、吸血鬼たちの動きが鈍くなった。
ライザとシャールを守るよう言われたジェラルドのお面さんもオーレン(仮名)から距離を取るように後退する。
「血にあてられているんだわ、きっと」
シャールはマックス(仮名)たちから聞いた話などを総合し、その答えにたどり着く。
「シャール? でも、この人たちは人間を襲わないって。汽車の中にいてもなにも変わらなかったじゃない」
「新鮮さ。それの度合いで違うのではないでしょうか。体内から直接流れる血は誘惑。本能をかき立てられる……ライザさん。出直しましょう。その選択も必要ではないでしょうか」
「……わかっている。それも考えなくてはならないくらい、こちらの方が追い込まれていることくらい、私だって」
しかし、それに意義を唱える声がした。
「ソノ、ヒツヨウハ、ナイ」
ピエロくんだ。
「コレハ、アイツノミセテイル、ゲンカク。マサカ、ニオイマデ、サイゲン、スルトハ」
「臭いまで? でもマックス(仮名)の幻覚も臭いはしていたと思うけど」
「まあね。それくらいはたぶんたいていの人はできると思う。けど、オーレン(仮名)の見せている幻覚っていうのは、俺たち吸血鬼の神髄に直接漂わせている。本来、人の血を嗅いだくらいで、こんなにも喉の乾きを感じることはない。この乾きは薬物の誘惑に引き寄せられるような、とてもイヤな感じだ。ピエロくんのことを信じてほしい。俺たちは大丈夫。絶対に、手の届くところにいる少佐は奪還する!」
だが、その決意はすぐにへし折られる。
オーレン(仮名)がクロードの額を貫いたからだ。
シャールはもちろん、ライザも絶望に落とされる。
「アイテノ、ゲンカクニ、ノミコマレルナ!」
ピエロくんが叫ぶ。
わかっている。
ライザもシャールも、そしてハンクも。
目の前で起きている最悪の展開は、そのように見させられているだけだということを。
しかし、その境目がわからない。
なにが現実でなにがまやかしで。
どこからがつくりものなのか……
感覚としては目で見ているというよりは、脳内で直接映像が流れているような感じ。
もしかしたら、この感覚が幻覚に飲み込まれるという表現なのだろうか。
ライザは目に見えるものすべてを閉ざしてみた。
「ライザさん?」
「……しっ……。シャールもやってみて。耳で聞くことをやめ、目で見ることを閉ざして。脳内で見ているその映像は実際の記憶の中にあるもの? 私たちは予言者ではない。未来は見えないはず。これが幻覚であるなら、少佐は生きている。生きていると強く信じて。そして目を開ける。そこに見えている光景が本物。私は流されない」
するとライザは霧に包まれ闇の中にいた。
シャールは何かに引っ張られるような感覚がして、それに逆らわないでいると、気づけば汽車の中にいる。
汽車は自分たちが乗っていたあの汽車。
そして外には蔦の根元、そこにぱっくりと穴が空いている。
「私だけ、現実に戻ってしまった……?」
※※※
ライザとシャールの姿が消えた瞬間は見ていないが、ふとそちらの方を見るといない。
一番動揺したのはジェラルドのお面くんだろう。
「どうなっている?」とハンク。
ハンクはマックス(仮名)にその疑問を投げた。
「わからない。俺はなにも……。オーレン(仮名)、おまえか?」
だが動揺ではなく恐怖に震えるような姿のオーレン(仮名)を見れば、彼の仕業ではないのだろう。
ピエロくんではないし、キツネくんでもない。
では、なにかが狂ってしまったのだろうか。
マックス(仮名)も動揺し、正しい冷静な判断が欠けはじめていく。
オーレン(仮名)が動揺している今なら、少佐奪還は確実なはず。
オーレン(仮名)を拘束できる場所にいながら、それができないでいた。
しかし、ピエロくんとキツネくんは冷静だった。
女性ふたりが忽然と消えてしまった詮索よりも、目の前のことの方が重要だったからだ。
ピエロくんとキツネくんが動いていることに気づいたハンクも動く。
ライザとともに消えたのなら、一緒にいるだろう。
目の前のクロードを取り返せば形勢逆転。
またオーレン(仮名)を吸血鬼一族の世界に拘束して連れ帰れば、また新しい情報が得られる可能性がある。
「マックス(仮名)! オーレン(仮名)を拘束しろ!」
ハンクが叫ぶ。
捕らえられる。
それが現実となったことを悟ったオーレン(仮名)は四つん這いになって逃げようとする。
激しく動揺し恐怖に震えながらも、抵抗する意欲はあるらしい。
「ココマデダ。カンネンシロ」
捕らえたのはピエロくん。
キツネくんは手際よく、オーレン(仮名)を拘束した。
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