忍び寄るなにか
「シャールの考えは正しい。だから、それ以外のなにかだ。だが、俺には思い当たる節がない。あるとすれば、いままで殺してきた擬神兵の関係者か……」
かつてのシャールのような……という目で、ハンクは彼女をみた。
「私のような……ということですね。ですが、ハンクさんを憎いと思ってもなかなか行動に起こせないと思います。私の場合は、なんていうか、特殊だったんだと思います」
理性がまだ残っている状態で戻ってきた父、姿は変わってもコミュニケーションはとれていた。
殺されたあの時も、理性は保たれていたはず。
もし、理性を無くし悪行を繰り返し、地元の人たちに迷惑をかける存在だったら、そうなってしまった父をどうしただろうか……
神殺しの弾丸無くしてはとどめをさせない存在に対し、なにもできなかっただろう。
そんな時にハンクが現れ殺したところを目撃してしまったら……
ハンクを憎むだろうが、それと同時に安堵もしたのではないだろうか。
憎しみと安堵は隣り合わせで、どちらの感情も間違いではない。
「それに……」
シャールは自分の過去を振り返り、言葉を続ける。
「それに、もしハンクさんへの復讐なら、いつでもその機会はあったと思います」
「シャール?」
「軍人相手に挑むのですから、弱ったところや寝込み、もしくは食事に毒を盛るなど方法はあります。こうやって汽車をとめるようなことをする方が大がかりですし、リスクがありすぎます。機会を伺っていたであろうと考えても、自分以外にもハンクさんをみている者がいることに気づくと思います。そんな中で行動を起こすのは危険以外のなにものでもないと思いませんか?」
「言われてみればそうだな。となると、俺が原因という線もなしか。シャールってことはまずないとして。いや、やはり俺だ」
一度は撤回した考えだが、ハンクはやはり自分がターゲットであるという説を取り下げなかった。
乗客を気にしたことはなかったが、不審な人と思える人はいなかった。
だとすれば、自分たちが乗車しなければ何事もなかったかもしれない、その考えはシャールにもあった。
恨まれるような覚えはないが、ハンクを手中におさめるためシャールを駒のように使われたことはあった。
自分がターゲットである説もゼロではない。
「そうだと仮定すれば、私たちが下車すれば解決になるでしょうか?」
「あるいはな。だが、確定でないのなら下車するのは逆効果だ」
「ここが危険地帯になっているからですね」
「そうだ」
「ではどうしましょう?」
「黙っておとなしくしているというのが一番だろう。ところでシャール。なにか騒がしくないか?」
扉の外にまで聞こえるほどの声で話してはいないと彼らは思っている。
極々普通の声のトーンであれば、相当聞き耳をたてなければ会話を聞き取ることは困難だろう。
互いに話している中、それも扉で仕切られた中で話しているのに、別の場所から話し声が聞こえはじめていた。
しかも、声がするという程度ではない。
「そうですね。なんか揉めている……口論でもしているのでしょうか?」
シャールがそう感じるほど、声が漏れて聞こえてくる。
ハンクは席を立ち、扉を開け、声がする方をみた。
「どうやら前の車両のようだな」
「前の車両も客室ではなかったでしょうか?」
先頭車両はラウンジ、二両目が食堂、三両・四両に席が等間隔に設置され、五両目から最後尾までが客室になっていた。
ハンクたちは六両目。
その車両ではなくそれよりも前の車両から聞こえてくるとハンクは言った。
「情報が得られるかもしれないな」
揉めている、騒ぎになっている状態の場合、なにかが起きているわけである。
自分たちでは得ていない事態が起きているということだ。
「私も行きます」
「いや、ここは俺が」
「ダメです。緊急事態だった場合、一緒にいた方が行動を起こしやすいですから」
シャールはそういうと、緩めていた靴の紐を結び直し、ライフルケースの中を確認してから、背負った。
※※※
騒ぎは座席が等間隔に設置されている四両目で起きていた。
ひとりの車掌を囲うようにして、何人もの人が集まっていた。
その多くはハンクたち同様、騒ぎが気になって駆けつけたという感じで、ただただことの成り行きを静観している感じだったが、輪の中心は騒然とした感じだった。
「おい! どういうことだよ、説明してくれよ!」
恐怖、怒り、不安、そんな感情が混ざったような声色。
それに対し、責められている車掌は冷静さを保とうと努力はしているが、額には焦りからなのか汗がにじみ出ている。
汗をかくほどの暑さはなく、むしろ陽が暮れて肌寒さを感じるくらいの空気の中、汗をかくということは尋常ではない。
「ですから、いま、確認をしております」
「それは何度もきいた。知りたいのはそんな答えじゃない! ここは荒れ地なんだよ! 徐行でも問題ありだっていうのに、なんで停車をするんだ!」
接客態度を保とうとしている車掌に対し、言い寄り迫る人物はさらに追い立てる。
かつてのシャールのような……という目で、ハンクは彼女をみた。
「私のような……ということですね。ですが、ハンクさんを憎いと思ってもなかなか行動に起こせないと思います。私の場合は、なんていうか、特殊だったんだと思います」
理性がまだ残っている状態で戻ってきた父、姿は変わってもコミュニケーションはとれていた。
殺されたあの時も、理性は保たれていたはず。
もし、理性を無くし悪行を繰り返し、地元の人たちに迷惑をかける存在だったら、そうなってしまった父をどうしただろうか……
神殺しの弾丸無くしてはとどめをさせない存在に対し、なにもできなかっただろう。
そんな時にハンクが現れ殺したところを目撃してしまったら……
ハンクを憎むだろうが、それと同時に安堵もしたのではないだろうか。
憎しみと安堵は隣り合わせで、どちらの感情も間違いではない。
「それに……」
シャールは自分の過去を振り返り、言葉を続ける。
「それに、もしハンクさんへの復讐なら、いつでもその機会はあったと思います」
「シャール?」
「軍人相手に挑むのですから、弱ったところや寝込み、もしくは食事に毒を盛るなど方法はあります。こうやって汽車をとめるようなことをする方が大がかりですし、リスクがありすぎます。機会を伺っていたであろうと考えても、自分以外にもハンクさんをみている者がいることに気づくと思います。そんな中で行動を起こすのは危険以外のなにものでもないと思いませんか?」
「言われてみればそうだな。となると、俺が原因という線もなしか。シャールってことはまずないとして。いや、やはり俺だ」
一度は撤回した考えだが、ハンクはやはり自分がターゲットであるという説を取り下げなかった。
乗客を気にしたことはなかったが、不審な人と思える人はいなかった。
だとすれば、自分たちが乗車しなければ何事もなかったかもしれない、その考えはシャールにもあった。
恨まれるような覚えはないが、ハンクを手中におさめるためシャールを駒のように使われたことはあった。
自分がターゲットである説もゼロではない。
「そうだと仮定すれば、私たちが下車すれば解決になるでしょうか?」
「あるいはな。だが、確定でないのなら下車するのは逆効果だ」
「ここが危険地帯になっているからですね」
「そうだ」
「ではどうしましょう?」
「黙っておとなしくしているというのが一番だろう。ところでシャール。なにか騒がしくないか?」
扉の外にまで聞こえるほどの声で話してはいないと彼らは思っている。
極々普通の声のトーンであれば、相当聞き耳をたてなければ会話を聞き取ることは困難だろう。
互いに話している中、それも扉で仕切られた中で話しているのに、別の場所から話し声が聞こえはじめていた。
しかも、声がするという程度ではない。
「そうですね。なんか揉めている……口論でもしているのでしょうか?」
シャールがそう感じるほど、声が漏れて聞こえてくる。
ハンクは席を立ち、扉を開け、声がする方をみた。
「どうやら前の車両のようだな」
「前の車両も客室ではなかったでしょうか?」
先頭車両はラウンジ、二両目が食堂、三両・四両に席が等間隔に設置され、五両目から最後尾までが客室になっていた。
ハンクたちは六両目。
その車両ではなくそれよりも前の車両から聞こえてくるとハンクは言った。
「情報が得られるかもしれないな」
揉めている、騒ぎになっている状態の場合、なにかが起きているわけである。
自分たちでは得ていない事態が起きているということだ。
「私も行きます」
「いや、ここは俺が」
「ダメです。緊急事態だった場合、一緒にいた方が行動を起こしやすいですから」
シャールはそういうと、緩めていた靴の紐を結び直し、ライフルケースの中を確認してから、背負った。
※※※
騒ぎは座席が等間隔に設置されている四両目で起きていた。
ひとりの車掌を囲うようにして、何人もの人が集まっていた。
その多くはハンクたち同様、騒ぎが気になって駆けつけたという感じで、ただただことの成り行きを静観している感じだったが、輪の中心は騒然とした感じだった。
「おい! どういうことだよ、説明してくれよ!」
恐怖、怒り、不安、そんな感情が混ざったような声色。
それに対し、責められている車掌は冷静さを保とうと努力はしているが、額には焦りからなのか汗がにじみ出ている。
汗をかくほどの暑さはなく、むしろ陽が暮れて肌寒さを感じるくらいの空気の中、汗をかくということは尋常ではない。
「ですから、いま、確認をしております」
「それは何度もきいた。知りたいのはそんな答えじゃない! ここは荒れ地なんだよ! 徐行でも問題ありだっていうのに、なんで停車をするんだ!」
接客態度を保とうとしている車掌に対し、言い寄り迫る人物はさらに追い立てる。
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