翌朝
「……?」
「俺たちはシャールに言われたまたま童話の内容を知っていたにすぎない。だからイメージしやすく、すぐに切り替えることができたが、おそらく、少しでも本来の意識を強く出してしまえば、俺は密林に、そっちは荒野の激戦に逆戻りだ。ライザは霧から抜け出すためにシャールの幻影と共有しているから、どうなるかはわからないがな」
「シャール、彼女の思いひとつで状況が変わるといいたいのか?」
「そこまではないだろうが、俺が擬神兵となり正気を少しずつ失っていくかもしれないことを危惧している。できればなってほしくないと思っているだろう。彼女の見ている幻影だ。彼女の意思を尊重するんじゃないか」
ハンクの見解を受け、クロードは考える。
彼にしてみれば、行動を共にしたことがあるとはいえ深くは知らない。
彼女の故郷に任務としていった際、彼女の置かれている状況などはかいま見れたが、それがすべてではないだろう。
「おまえからみた彼女はどうだ?」
「強い子だと思う」
「いや、そうではなく」
「脱出を危うくするかどうか……ということなら、それはないと思う」
「なぜ?」
「たしかに戦争をよく思ってない。軍に属していた者として、こういうことをいうのはどうかとも思うが、俺も起きなくていいなら起こさないでもらいたいと思う。戦争がなければ軍人としての働きができないと思う者も確かにいるが、軍人は戦争屋じゃない。だからといって、なにかを起こそうとは思わないのではないか? これから起きる戦争に対しては反対はするだろうが、すでに起きてしまったことは起きてしまったこととして捉える。同じ過ちを起こさないように」
「まるで私への当てつけのような物言いだな」
「……?」
「戦争は終わった。これから復興と平和の維持のために軍人は民間人の盾となり戦うものと思っていたところにケインの件だ。まさか実兄が主犯側になるとはな。バカにするのもいい加減にしろと言いたい。正義のため、平和のためといえば聞こえはいいが、私の根底には実兄への恨みがある」
「つまり、シャールの立場なら俺を閉じこめてしまうだろうと?」
「ああ。忌々しい擬神兵を抹殺するのも現実から切り離して閉じこめるのも同じことだ」
「別にいいんじゃないか。そういう感情があっても」
「なに?」
「肉親だからこそ憎しみも倍増する。俺には肉親と呼べる者はいないが、大切な友はいた。裏切られたと知ったときは殺意しかなかったし、今もその感情が薄れることはない。ケインに対しては、俺も同じということだ」
「だからといって、私が協力をすると思うなよ」
「それはお互い様だろう?」
「……違いない」
と、別の接点で話が落ち着く。
その晩は特に問題もなく更けていき、清々しいという言葉がとてもマッチする朝を迎えたのだった。
※※※
「ありましたね」とシャール。
「あったわね」とライザ。
「なにが?」とクロード。
「これで思いは一致ということだな」とハンク。
そしてクロードは再度、「なにが?」といい、「説明をしろ、ライザ少尉」と声をあげた。
面倒くさいわね……といいながら、ひと通りライザが説明をすると、
「そういうことか。だったらはじめに言え」
とふてくされる。
これだからヘタレは……とライザに野次られ、さらに不機嫌になってしまう。
が、誰もクロードの機嫌とりをしようとは思わない。
おふざけをいつまでもしていられる状況ではないからだ。
「外が偉いことになっているぞ」
ハンクは目覚めてすぐに館内の散策と周辺の散策をした。
が、周辺の散策は諦めるしかなかった。
なぜなら……
「説明するより各々で確認した方が早い。どれでもいい、適当に扉をあけてみろ」
館には正面にひとつ、裏口にひとつ、外にでる扉がある。
もちろん窓からでることもできるが、一応人として常識の範囲内で出入りすると仮定すれば、表と裏扉のどちらかだろう。
ハンクに言われるまま、扉を開けて外を見た者は驚きの顔をしてから厳しい表情になる。
クロードは扉を開いた先では荒野の激戦が繰り広げられ、ライザは濃霧で視界を遮られる光景が。
シャールは物語の続きを見てしまう。
ハンクはもちろん密林の光景だった。
「どうなっている?」
苛立ちを押さえてはいるが、それがいつ爆発してもおかしくない空気を漂わせてクロードが言う。
「寝ている間は無防備だ。意識の共有ができなかったんだろう。だからめちゃくちゃになっている」
「だか……朝食の用意がされていた……というシーンはしっかり現れている」
「目覚めたとき、朝食って用意されているよね……くらいのことは思ったんじゃないか? まあ、俺もだが」
「だけど、みんながそう思ったってことは、ここから出たい気持ちは同じということですよね?」
シャールが意見をまとめる。
「たしかに、それは大事なんだけどね、シャール。もう一晩ここに泊まってしまったら、もっと広範囲になるのではないかしら? たとえば部屋を出たとたん別世界とか。シャールだって物語を進めてしまったでしょう?」
「俺たちはシャールに言われたまたま童話の内容を知っていたにすぎない。だからイメージしやすく、すぐに切り替えることができたが、おそらく、少しでも本来の意識を強く出してしまえば、俺は密林に、そっちは荒野の激戦に逆戻りだ。ライザは霧から抜け出すためにシャールの幻影と共有しているから、どうなるかはわからないがな」
「シャール、彼女の思いひとつで状況が変わるといいたいのか?」
「そこまではないだろうが、俺が擬神兵となり正気を少しずつ失っていくかもしれないことを危惧している。できればなってほしくないと思っているだろう。彼女の見ている幻影だ。彼女の意思を尊重するんじゃないか」
ハンクの見解を受け、クロードは考える。
彼にしてみれば、行動を共にしたことがあるとはいえ深くは知らない。
彼女の故郷に任務としていった際、彼女の置かれている状況などはかいま見れたが、それがすべてではないだろう。
「おまえからみた彼女はどうだ?」
「強い子だと思う」
「いや、そうではなく」
「脱出を危うくするかどうか……ということなら、それはないと思う」
「なぜ?」
「たしかに戦争をよく思ってない。軍に属していた者として、こういうことをいうのはどうかとも思うが、俺も起きなくていいなら起こさないでもらいたいと思う。戦争がなければ軍人としての働きができないと思う者も確かにいるが、軍人は戦争屋じゃない。だからといって、なにかを起こそうとは思わないのではないか? これから起きる戦争に対しては反対はするだろうが、すでに起きてしまったことは起きてしまったこととして捉える。同じ過ちを起こさないように」
「まるで私への当てつけのような物言いだな」
「……?」
「戦争は終わった。これから復興と平和の維持のために軍人は民間人の盾となり戦うものと思っていたところにケインの件だ。まさか実兄が主犯側になるとはな。バカにするのもいい加減にしろと言いたい。正義のため、平和のためといえば聞こえはいいが、私の根底には実兄への恨みがある」
「つまり、シャールの立場なら俺を閉じこめてしまうだろうと?」
「ああ。忌々しい擬神兵を抹殺するのも現実から切り離して閉じこめるのも同じことだ」
「別にいいんじゃないか。そういう感情があっても」
「なに?」
「肉親だからこそ憎しみも倍増する。俺には肉親と呼べる者はいないが、大切な友はいた。裏切られたと知ったときは殺意しかなかったし、今もその感情が薄れることはない。ケインに対しては、俺も同じということだ」
「だからといって、私が協力をすると思うなよ」
「それはお互い様だろう?」
「……違いない」
と、別の接点で話が落ち着く。
その晩は特に問題もなく更けていき、清々しいという言葉がとてもマッチする朝を迎えたのだった。
※※※
「ありましたね」とシャール。
「あったわね」とライザ。
「なにが?」とクロード。
「これで思いは一致ということだな」とハンク。
そしてクロードは再度、「なにが?」といい、「説明をしろ、ライザ少尉」と声をあげた。
面倒くさいわね……といいながら、ひと通りライザが説明をすると、
「そういうことか。だったらはじめに言え」
とふてくされる。
これだからヘタレは……とライザに野次られ、さらに不機嫌になってしまう。
が、誰もクロードの機嫌とりをしようとは思わない。
おふざけをいつまでもしていられる状況ではないからだ。
「外が偉いことになっているぞ」
ハンクは目覚めてすぐに館内の散策と周辺の散策をした。
が、周辺の散策は諦めるしかなかった。
なぜなら……
「説明するより各々で確認した方が早い。どれでもいい、適当に扉をあけてみろ」
館には正面にひとつ、裏口にひとつ、外にでる扉がある。
もちろん窓からでることもできるが、一応人として常識の範囲内で出入りすると仮定すれば、表と裏扉のどちらかだろう。
ハンクに言われるまま、扉を開けて外を見た者は驚きの顔をしてから厳しい表情になる。
クロードは扉を開いた先では荒野の激戦が繰り広げられ、ライザは濃霧で視界を遮られる光景が。
シャールは物語の続きを見てしまう。
ハンクはもちろん密林の光景だった。
「どうなっている?」
苛立ちを押さえてはいるが、それがいつ爆発してもおかしくない空気を漂わせてクロードが言う。
「寝ている間は無防備だ。意識の共有ができなかったんだろう。だからめちゃくちゃになっている」
「だか……朝食の用意がされていた……というシーンはしっかり現れている」
「目覚めたとき、朝食って用意されているよね……くらいのことは思ったんじゃないか? まあ、俺もだが」
「だけど、みんながそう思ったってことは、ここから出たい気持ちは同じということですよね?」
シャールが意見をまとめる。
「たしかに、それは大事なんだけどね、シャール。もう一晩ここに泊まってしまったら、もっと広範囲になるのではないかしら? たとえば部屋を出たとたん別世界とか。シャールだって物語を進めてしまったでしょう?」
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