夢想と後悔【御影小次郎】
「ぁっ…っ」
どちらの感極まった奇声ともわからないくぐもってかすれた声。なぜだかやけに大きく響く、軋むベッドと擦れるシーツ。いつまでも撫でていたくなる彼女のすべらかな肌と、しっとり馴染む感触がやけに実態がなくてぼやけている。強くかき抱く感触だけがリアルだ。だいたい、照明も明るいのか暗いのか。ましてや、昼なのか夜なのか朝なのかわからない、不思議なモヤの中で夢中で彼女の身体に、必死にすがり付くみたいにかじりついた。
「はぁっ…」
まだまだ、成長途中の青い果実であろう彼女のうなじにすがり付くみたいに何度も頬を寄せ、なんでこんなにも安心するんだろうと考えてしまう。こんなときに何かを余裕ぶっこいてんだとほくそ笑むも、肝心の彼女の顔がなぜだか良く見えない。ただただ、貪欲に心をかき乱す。何より部屋中に充満する彼女の香りと自分の汗、どちらともいえない熱い吐息だけが埋め尽くされた空間で、この世のものとも思えない至福のときを貪った。
「ぁあっ…、す……」
きだと言えたら、どんなにスッキリするだろうとボンヤリ考えて何故だかはたと時が止まった。
……おかしい。彼女は好きでもない男に抱かれるような子じゃないだろうに。
そう、思って慌てて目が覚めたら、そこは観葉植物に覆われた自分の部屋で、昨日遊びにきたときに彼女が膝にかけていた毛布が側にある。
「夢の元凶は…これか……」
なんというか、これも自分が探し求めていた甘酸っぱい青い春の一部のような気がした。
それにしても、いつからだろうか。なんに対してもまっすぐで、ついつい真面目ちゃんってからかいたくなる、あの子。
始めは、明るくてクラスのムードメーカー的存在で、頼りになりそうだと、思っていた。周りの連中も彼女をほっとくわけがない。いつだって楽しげに友だちの輪の中で輝いていた。
自分も仲間にいれて欲しい。最初はそんな単純な思いからだったような気がする。でもいつの間にか、彼女と関わっていくうちに奇妙な感覚に捕らわれてしまったのも事実だ。
彼女と一緒に高校生活を満喫したい。同じものをみて、笑って感動して、くるくる変わる君の表情をみていたい。まるで自分に抜け落ちてしまった過去の高校時代をやり直したみたいな感じで。どうしようもなく、彼女と過ごしてみたい。
あぁ、そうかだからか。そうだ、きっとこの感情は歳が離れていても、親愛の情というのはあるかもしれないと。そう、思っていたのに……。
目覚めたばかりの自分の身体と心の変化に、戸惑うというより絶望した。今日が休みの日で本当に良かったと心底思う。後悔と後ろめたさで心がドロドロになって、きっと彼女の顔をまともにみることは叶わない気がする。いい大人が思春期の若造のように、変に意識して、避けてしまうかもしれない。
それに学校では、気のいいみんなの兄貴的ポジションで上手くいくと思った。彼女にたいしては近すぎたのか?
「……っ」
ギシッとベッドの軋む音がやけに空々しく艶かしく響く。さっきまで、幸せだった夢の残骸が浅ましい俺をあざけるように真実を見せつける。なにいってんだ?親愛の情?笑わせるな。こんな浅ましい夢をみるヤツのどこに、親愛と、呼べるものがあるのか。
「ヤバ過ぎだろう」
しばらく呆然と、朝日を浴びながら、観葉植物に目をやった。未だに彼女がこの部屋にきた痕跡があちらこちらに点在している。こんな夢をみてしまったのは、不用意に部屋に招いた罰だろうか?彼女が帰って次の日の朝になっても、未だに彼女が使ったカップや毛布を片付けることが出来ない自分に笑いが込み上げてくる。
「変態か……ハマりすぎだろ」
あぁ、でも。彼女にならピエロのように、無様にハマってしまってもいいかもしれないと思った。失った青春をやり直すという曖昧な口実で、過ごす甘い二人だけの時間は、今では自分にとって切り離せないものになっているのも確かだ。
「他のヤツはには……悪いが譲れない、な……」
チラリと彼女に思いを寄せて群がってくる若い虫たちに想いを馳せる。彼女は誰からも好かれるし、側を狙っているヤツらはたくさんいるのも事実。大人の自分が若い彼らの時間を奪ってしまっているのかもしれない。彼女には、健全で全うな高校生活を満喫して欲しいっていう思いも確かにある。だけど、どうしてもじぶんから手離すことが出来ないのも事実なのだ。
「こりゃ……やっぱり本腰入れなきゃダメだな…隠せやしない。覚悟しとけよ。真面目ちゃん」
あくびを噛み殺し、再び甘い夢を見るために毛布を抱きながら、目を閉じる。すると夢の中なのか、想像の中の彼女は、なぜだかバラ園にいてこちらを振り返り満面の笑みを浮かべたような気がした。白いアーチはまるで、鳥かごのようでそこに彼女がいるものの誰もいないようだ。まだ、チャンスはあるのだろう。なんとなく、そんな気がする。かすかに甘いバラの香りは、まるでこれからの自分たちを示すかのようで心地良かった。
「完」
どちらの感極まった奇声ともわからないくぐもってかすれた声。なぜだかやけに大きく響く、軋むベッドと擦れるシーツ。いつまでも撫でていたくなる彼女のすべらかな肌と、しっとり馴染む感触がやけに実態がなくてぼやけている。強くかき抱く感触だけがリアルだ。だいたい、照明も明るいのか暗いのか。ましてや、昼なのか夜なのか朝なのかわからない、不思議なモヤの中で夢中で彼女の身体に、必死にすがり付くみたいにかじりついた。
「はぁっ…」
まだまだ、成長途中の青い果実であろう彼女のうなじにすがり付くみたいに何度も頬を寄せ、なんでこんなにも安心するんだろうと考えてしまう。こんなときに何かを余裕ぶっこいてんだとほくそ笑むも、肝心の彼女の顔がなぜだか良く見えない。ただただ、貪欲に心をかき乱す。何より部屋中に充満する彼女の香りと自分の汗、どちらともいえない熱い吐息だけが埋め尽くされた空間で、この世のものとも思えない至福のときを貪った。
「ぁあっ…、す……」
きだと言えたら、どんなにスッキリするだろうとボンヤリ考えて何故だかはたと時が止まった。
……おかしい。彼女は好きでもない男に抱かれるような子じゃないだろうに。
そう、思って慌てて目が覚めたら、そこは観葉植物に覆われた自分の部屋で、昨日遊びにきたときに彼女が膝にかけていた毛布が側にある。
「夢の元凶は…これか……」
なんというか、これも自分が探し求めていた甘酸っぱい青い春の一部のような気がした。
それにしても、いつからだろうか。なんに対してもまっすぐで、ついつい真面目ちゃんってからかいたくなる、あの子。
始めは、明るくてクラスのムードメーカー的存在で、頼りになりそうだと、思っていた。周りの連中も彼女をほっとくわけがない。いつだって楽しげに友だちの輪の中で輝いていた。
自分も仲間にいれて欲しい。最初はそんな単純な思いからだったような気がする。でもいつの間にか、彼女と関わっていくうちに奇妙な感覚に捕らわれてしまったのも事実だ。
彼女と一緒に高校生活を満喫したい。同じものをみて、笑って感動して、くるくる変わる君の表情をみていたい。まるで自分に抜け落ちてしまった過去の高校時代をやり直したみたいな感じで。どうしようもなく、彼女と過ごしてみたい。
あぁ、そうかだからか。そうだ、きっとこの感情は歳が離れていても、親愛の情というのはあるかもしれないと。そう、思っていたのに……。
目覚めたばかりの自分の身体と心の変化に、戸惑うというより絶望した。今日が休みの日で本当に良かったと心底思う。後悔と後ろめたさで心がドロドロになって、きっと彼女の顔をまともにみることは叶わない気がする。いい大人が思春期の若造のように、変に意識して、避けてしまうかもしれない。
それに学校では、気のいいみんなの兄貴的ポジションで上手くいくと思った。彼女にたいしては近すぎたのか?
「……っ」
ギシッとベッドの軋む音がやけに空々しく艶かしく響く。さっきまで、幸せだった夢の残骸が浅ましい俺をあざけるように真実を見せつける。なにいってんだ?親愛の情?笑わせるな。こんな浅ましい夢をみるヤツのどこに、親愛と、呼べるものがあるのか。
「ヤバ過ぎだろう」
しばらく呆然と、朝日を浴びながら、観葉植物に目をやった。未だに彼女がこの部屋にきた痕跡があちらこちらに点在している。こんな夢をみてしまったのは、不用意に部屋に招いた罰だろうか?彼女が帰って次の日の朝になっても、未だに彼女が使ったカップや毛布を片付けることが出来ない自分に笑いが込み上げてくる。
「変態か……ハマりすぎだろ」
あぁ、でも。彼女にならピエロのように、無様にハマってしまってもいいかもしれないと思った。失った青春をやり直すという曖昧な口実で、過ごす甘い二人だけの時間は、今では自分にとって切り離せないものになっているのも確かだ。
「他のヤツはには……悪いが譲れない、な……」
チラリと彼女に思いを寄せて群がってくる若い虫たちに想いを馳せる。彼女は誰からも好かれるし、側を狙っているヤツらはたくさんいるのも事実。大人の自分が若い彼らの時間を奪ってしまっているのかもしれない。彼女には、健全で全うな高校生活を満喫して欲しいっていう思いも確かにある。だけど、どうしてもじぶんから手離すことが出来ないのも事実なのだ。
「こりゃ……やっぱり本腰入れなきゃダメだな…隠せやしない。覚悟しとけよ。真面目ちゃん」
あくびを噛み殺し、再び甘い夢を見るために毛布を抱きながら、目を閉じる。すると夢の中なのか、想像の中の彼女は、なぜだかバラ園にいてこちらを振り返り満面の笑みを浮かべたような気がした。白いアーチはまるで、鳥かごのようでそこに彼女がいるものの誰もいないようだ。まだ、チャンスはあるのだろう。なんとなく、そんな気がする。かすかに甘いバラの香りは、まるでこれからの自分たちを示すかのようで心地良かった。
「完」
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