第2話
第1章
『日本海に作られた人口の島、『ISLAND OF ETERNAL ROMANCE』、通称『エロマンガ島』。
そこは、無限の可能性がある子供に特別な教育を施すことを目的とした、総合学園都市である。
そこで行われる特別な教育とは、特殊な装置、『デバイス』を使うことによって、子供たちの『想い』、すなわち『妄想』を、特殊な空間、『妄想空間』内で具現化させる訓練のことを指す。
エロマンガ島内では、使用者にとってより幸せな妄想を具現化する『妄想力』の高さがそのまま成績に関与してくる。
妄想力が高い者は、エロマンガ島内でのみ、その妄想をリアライズすることができる。
リアライズできる妄想力は、妄想空間内でのそれに比べて、個人差はあるものの、約十分の一程度に落ちる。
それら妄想力を国の発展に生かすために妄想力を鍛えることが、エロマンガ島内で生活する学生たちに課せられた義務である。
よって、真龍高校1年7組椎名飛鳥に、夏季補習を義務付ける。詳しい日程は――』
「……はぁ」
夏季補習を知らせるプリントを読み終えたあたしは、深いため息をついた。
『妄想力』。それすなわち、エロマンガ島内における、権力の大きさに比例する。
レベル1~レベル7まである妄想力だが、あたしは現在レベル2。
エロマンガ島内では、最低とまではいかなくても、落ちこぼれの部類に入る。
妄想を具現化することは、ある程度の教育を受ければ、誰だって簡単にできるのだから。
「ただいまー」
アンニュイな気持ちのまま、たどり着いた自分の家へと入る。
「おかえりお姉ちゃん」
迎えてくれるのは、血の繋がった弟の椎名翔平太(しいなしょうへいた)。
中学三年生には見えない幼い容姿と、病弱だからなのか、儚く感じる雰囲気。
姉のあたしから見ても、美少年の部類に入る、自慢の弟だ。
ただ、ちょっとばかし弱点があるけど……。
「お姉ちゃん疲れたでしょう? ぼくが鞄を持ってあげるよ」
「う、うん……ありがとう」
「ううん、お礼なんていいよお姉ちゃん。弟の僕がお姉ちゃんを楽させるのは当然でしょう? そうだ、マッサージしてあげようか? それとも、何か食べる?」
「いや、別にいいよ」
「そ、そう……うん、ごめんねお姉ちゃん。ちょっと鬱陶しかったよね。ぼく、お姉ちゃんのために、何かしたかったんだ。でも、嫌だよね? 弟にこんなことされるのは。ぼく、自分の部屋で宿題してるね……」
「ま、待ってよ翔平太。別にそういうんじゃないって」
「……ホント?」
「本当だよ。今はいいけど、また今度してよ」
「うん! 任せといてよ。そうと決まれば、ぼくちょっとマッサージの練習してくるね!」
そう言って、翔平太は玄関から外に出て、どこかへ行ってしまった。
翔平太は、残念なことにシスコンの嫌いがある。
昔から病弱なために家にこもりがちな翔平太を、あたしが構い過ぎたのが原因らしい。
ちょっと後悔しているのは内緒だ。
「お姉ちゃん!」
「のわぁっ!?」
あたしがそんなことを考えていると、勢いよく玄関の扉が開き、翔平太が帰ってくる。
マッサージの練習とやら、もう終わったのか?
「どうした? 翔平太」
「お姉ちゃん、今日はまだアレやってないと思って」
「……ああ。そういえばそうだった」
「だから、それだけやってからぼくはマッサージの練習に行くよ」
「そっか。じゃ、よろしく」
そう言って、あたしはその場に座り込み、ポケットから黒いサングラスのような形をした特殊な装置、『デバイス』を取り出すと、それを装着する。
「うん、行くよ!」
翔平太もあたしと同じものをどこからか取り出し、それを装着した。
あたしは、それを確認してから、ゆっくりと目を閉じる
「食べ物天国(フード・ヘブン)!」
翔平太がそう言った瞬間、あたしの視界は暗転する。
目を覚ますと、そこはさっきまでいた家の玄関前ではなく、桃色の空気に包まれた、広い空間だった。
「チョコレートパフェ」
あたしがそう言うと、目の前の空間に、突如チョコレートパフェが出現した。
翔平太のレベル4妄想力『食べ物天国』。
妄想力の内容は、『妄想空間内では、どんな食べ物でも食べられるし、実際に味や触感を味わえる』という素晴らしいものだ。
ただ、妄想空間内でのことなので、満腹感は得られないのだが、その分たくさんのおいしいものを食べることができるので、よしとする。
「……ふう」
十分堪能した後、あたしは目を閉じ、妄想空間内から帰還しようとする。あんまり長い間妄想空間内にいると、現実に戻れなくなってしまうから。
「おかえり、お姉ちゃん」
妄想空間内から帰還してデバイスを外すと、すでにデバイスを外していた翔平太が迎えてくれた。その額には、うっすらと汗が見える。
自分の妄想空間を他人と共有すると、かなりの体力、精神力を使ってしまう。
レベル4の妄想力ともなれば、その反動はかなりのものだろう。
それでも、翔平太はあたしのために惜しげもなく妄想力を使ってくれる。
「それじゃ、ぼくはちょっと出かけてくるからね」
そう言い残して、翔平太は再度玄関から外へ出ていった。
「(ありがとな、翔平太)」
あたしは、そんな翔平太に心の中でお礼を言うと、昼寝をしに二階にある自室へと向かう。
食事の後は、眠くなるのが自然の摂理だから。
『日本海に作られた人口の島、『ISLAND OF ETERNAL ROMANCE』、通称『エロマンガ島』。
そこは、無限の可能性がある子供に特別な教育を施すことを目的とした、総合学園都市である。
そこで行われる特別な教育とは、特殊な装置、『デバイス』を使うことによって、子供たちの『想い』、すなわち『妄想』を、特殊な空間、『妄想空間』内で具現化させる訓練のことを指す。
エロマンガ島内では、使用者にとってより幸せな妄想を具現化する『妄想力』の高さがそのまま成績に関与してくる。
妄想力が高い者は、エロマンガ島内でのみ、その妄想をリアライズすることができる。
リアライズできる妄想力は、妄想空間内でのそれに比べて、個人差はあるものの、約十分の一程度に落ちる。
それら妄想力を国の発展に生かすために妄想力を鍛えることが、エロマンガ島内で生活する学生たちに課せられた義務である。
よって、真龍高校1年7組椎名飛鳥に、夏季補習を義務付ける。詳しい日程は――』
「……はぁ」
夏季補習を知らせるプリントを読み終えたあたしは、深いため息をついた。
『妄想力』。それすなわち、エロマンガ島内における、権力の大きさに比例する。
レベル1~レベル7まである妄想力だが、あたしは現在レベル2。
エロマンガ島内では、最低とまではいかなくても、落ちこぼれの部類に入る。
妄想を具現化することは、ある程度の教育を受ければ、誰だって簡単にできるのだから。
「ただいまー」
アンニュイな気持ちのまま、たどり着いた自分の家へと入る。
「おかえりお姉ちゃん」
迎えてくれるのは、血の繋がった弟の椎名翔平太(しいなしょうへいた)。
中学三年生には見えない幼い容姿と、病弱だからなのか、儚く感じる雰囲気。
姉のあたしから見ても、美少年の部類に入る、自慢の弟だ。
ただ、ちょっとばかし弱点があるけど……。
「お姉ちゃん疲れたでしょう? ぼくが鞄を持ってあげるよ」
「う、うん……ありがとう」
「ううん、お礼なんていいよお姉ちゃん。弟の僕がお姉ちゃんを楽させるのは当然でしょう? そうだ、マッサージしてあげようか? それとも、何か食べる?」
「いや、別にいいよ」
「そ、そう……うん、ごめんねお姉ちゃん。ちょっと鬱陶しかったよね。ぼく、お姉ちゃんのために、何かしたかったんだ。でも、嫌だよね? 弟にこんなことされるのは。ぼく、自分の部屋で宿題してるね……」
「ま、待ってよ翔平太。別にそういうんじゃないって」
「……ホント?」
「本当だよ。今はいいけど、また今度してよ」
「うん! 任せといてよ。そうと決まれば、ぼくちょっとマッサージの練習してくるね!」
そう言って、翔平太は玄関から外に出て、どこかへ行ってしまった。
翔平太は、残念なことにシスコンの嫌いがある。
昔から病弱なために家にこもりがちな翔平太を、あたしが構い過ぎたのが原因らしい。
ちょっと後悔しているのは内緒だ。
「お姉ちゃん!」
「のわぁっ!?」
あたしがそんなことを考えていると、勢いよく玄関の扉が開き、翔平太が帰ってくる。
マッサージの練習とやら、もう終わったのか?
「どうした? 翔平太」
「お姉ちゃん、今日はまだアレやってないと思って」
「……ああ。そういえばそうだった」
「だから、それだけやってからぼくはマッサージの練習に行くよ」
「そっか。じゃ、よろしく」
そう言って、あたしはその場に座り込み、ポケットから黒いサングラスのような形をした特殊な装置、『デバイス』を取り出すと、それを装着する。
「うん、行くよ!」
翔平太もあたしと同じものをどこからか取り出し、それを装着した。
あたしは、それを確認してから、ゆっくりと目を閉じる
「食べ物天国(フード・ヘブン)!」
翔平太がそう言った瞬間、あたしの視界は暗転する。
目を覚ますと、そこはさっきまでいた家の玄関前ではなく、桃色の空気に包まれた、広い空間だった。
「チョコレートパフェ」
あたしがそう言うと、目の前の空間に、突如チョコレートパフェが出現した。
翔平太のレベル4妄想力『食べ物天国』。
妄想力の内容は、『妄想空間内では、どんな食べ物でも食べられるし、実際に味や触感を味わえる』という素晴らしいものだ。
ただ、妄想空間内でのことなので、満腹感は得られないのだが、その分たくさんのおいしいものを食べることができるので、よしとする。
「……ふう」
十分堪能した後、あたしは目を閉じ、妄想空間内から帰還しようとする。あんまり長い間妄想空間内にいると、現実に戻れなくなってしまうから。
「おかえり、お姉ちゃん」
妄想空間内から帰還してデバイスを外すと、すでにデバイスを外していた翔平太が迎えてくれた。その額には、うっすらと汗が見える。
自分の妄想空間を他人と共有すると、かなりの体力、精神力を使ってしまう。
レベル4の妄想力ともなれば、その反動はかなりのものだろう。
それでも、翔平太はあたしのために惜しげもなく妄想力を使ってくれる。
「それじゃ、ぼくはちょっと出かけてくるからね」
そう言い残して、翔平太は再度玄関から外へ出ていった。
「(ありがとな、翔平太)」
あたしは、そんな翔平太に心の中でお礼を言うと、昼寝をしに二階にある自室へと向かう。
食事の後は、眠くなるのが自然の摂理だから。
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