第02話「真姫、悩める女の子」
穂乃果のスクールアイドル開始宣言から一週間が経った。
なんと三日坊主とか言われてた穂乃果は、一週間スクールアイドルを続けていたのだ。
そんな穂乃果によると、目標はファーストライブを成功させることだそうだ。
そのために、衣装作りや振り付け、そして体力トレーニングを頑張っているのだとか。
ただ、新曲制作においてちょっと問題があったり、硬派な生徒会長に色々文句を言われたりと大変らしい。
ちなみに、俺はというと、自分の仕事をまっとうしていた。
今日は近所のスーパーで買物をする予定だ。
「えーと、お米が切れてたんだな。後は洗剤とか歯ブラシといったところかぁ……」
俺は穂乃果の母親から渡されたメモをもとに、ママチャリでスーパーマーケットへ向かう。
「助けてぇぇぇっ!」
すると突然、どこからともなく悲鳴が聞こえた。辺りを見渡すと、赤い髪の少女が悲鳴を上げているのが見えた。
「どうかしましたか!?」
俺はすぐさま少女の方へ駆け寄る。
「カバンを引ったくられて……」
少女は泣きながらそう答えた。
ひったくりとは今日日珍しい。許しちゃおけないね。
「分かった。今すぐ取り返してやるからな!」
俺はあたりを見渡す。すると、ものすごい勢いで走る男を見つけた。高そうな女物のブランドバッグを抱えている。
どう見てもあれがひったくり犯じゃないか。
俺はすぐさま自転車をかっ飛ばして追いかけた。
「待てやぁぁぁぁっ!!」
走って逃げる引ったくりに追いつき、そのまま追い越す。
そして自転車から降りて、引ったくりに突進した。
「ぐっ!」
ひったくり犯は唸り声を上げ、その場に倒れた。
「カバンは返してもらうぜ」
しばらくすると、警察が来て引ったくりは捕まえられた。よかったよかった。
「ほら、カバンは大丈夫だよ」
俺は少女にカバンを渡す。この後買い物をしなきゃならないのでそのまま自転車に乗った。
「んーじゃ、俺はこのまま買い物行くから。くれぐれも気をつけなよ?」
すると、少女が声を上げた。
「待って!」
「ん?」
「お礼がしたいの! 買い物が終わってからでもいいから……一緒にお茶でも……」
律儀な子だ。ここまでありがたれたのは初めてだ。
「別にそういうのはいいよ。俺は大したことしてないんだからさ」
俺は謙遜する。少女はそんな様子を見て不服なようだ。
「でも……」
彼女の好意だし、いいか。そう心に決めた俺は彼女とお茶に行くことにした。
「よーし、分かった。そこまで言うなら一緒にお茶しようか」
「ほ、ほんと!?」
パァァァッと少女の顔が晴れる。よほど嬉しかったようだ。
「ただし、買い物終わらせてからね。タイムセールがあるんだ! あ、ちょうどいいや。君も着いてきて!」
「ヴ、ヴェェ……っ!」
さっきの嬉しそうな顔から一転、すごく嫌そうな顔になった。
ほんとごめん。俺にも生活がかかってるんだ。
「後10分で卵のタイムセールなんだよぉぉっ!」
俺は右手に自転車、左手に少女を抱えて走っていった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
数十分後、俺達は買い物を終えた。
「なんとか買えたよ……これで2人分!」
「そのために私を?」
少女は不思議そうに俺の顔を見る。なにか変なことでも言ったかな。
「そうだよ? それじゃ、お茶に行こっか」
「え、えぇ……」
「それで、どこに行く?」
「あそこの店はどうですか?」
少女が指さした店はどことなく上品な雰囲気のするカフェ。
てっきりス○バとかマ○ドとかそういう軽い場所でお茶すると思ってたばかりにこれには驚きだ。
「えっ……」
多分この店の飲み物は高い。そう思えたから俺は言葉に困った。
「助けてもらったお礼です。私が奢るので気にしないで」
大変気が効くのだが、非常に申し訳ない。
そんなもどかしい気分になるのだが、彼女はそんなこと気にせず俺の手を引く。
「それじゃあ行きましょ!」
少女はウッキウキで店に向かった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
なんだこの店。コーヒー1杯1000円かよ。
予想通りお高い店だ。
こんなところに連れてくるなんて正気か? 本当に代金払えるんだろうな?
そんなことを考えていると、少女が声をかけてきた。
「どうかしました? ……あ、何飲みます?」
「えーっと……それじゃあ、これで」
申し訳ないので1番安いやつを選んだ。
コーヒーを待ってる間、俺達は話をしていた。
話始めは少女から。
「それで……さっきはありがとう」
「あぁ、どういたしまして」
そんな重い言葉から始まった会話だったが、数分もすればお互い打ち解けあってもっと軽いノリになっていった。
「そうだ。助けてもらったついでに1つ話を聞いてもらってもいいですか?」
少女はそう話を切り出した。一体なんだろう。
「何?」
「悩み……というか、困ってることがあって」
「お悩み相談かぁ。話してみて」
この子は見た感じ、穂乃果とそう変わらないような歳に見える。おそらく思春期なんだろうし、いろんな悩みがあって然るべきだ。
あの脳天気な穂乃果にさえ悩みがあるくらいなのだから。
「私、昔から音楽をやっているんです。それで、いつも学校でピアノを弾いてたんです。そしたらある日、知らない先輩からスクールアイドルの曲を作ってくれって言われて」
「スクールアイドルの曲?」
こりゃまた身近な話。彼女がどこの学校の生徒かは知らないが、どこの学校にもスクールアイドルっているんだな。
「そうなんです。それで、私は別に作曲はできないことはないんです。でも……」
「何か問題でも?」
少女は気まずそうに声を出す。よほど言いにくいことらしい。
「父が病院を経営してて、将来病院を継ぐことになってるんです。それで、これを引き受けたら次もやってと言われて、勉強そっちのけで音楽をやってしまいそうで……」
なるほど。一度人に良いところを見せちゃうとそこを付け込まれて人に使われて、自分の夢を叶えられなくなる。
きっと彼女はそれを恐れているんだ。
「つまり、医学と音楽を天秤にかけてるわけだ」
「はい……」
俺は悩んだ。この問題はこの子の人生を左右する大きな問題だ。
夢は大事だ。でも楽しみも大事だ。
どちらかを選ぶなんてきっと苦しいに決まってる。
それで悩むことは誰にだってある。
だから、俺ならこうする――。
「だったらさ、両方やっちゃおうよ」
これが俺の結論。無謀かもしれないが、俺ならそうする。
「……?」
当然ながら、少女は首をかしげる。ありえないという目で俺を見る。
そりゃそうだ。無茶を言っているんだもの。
「俺はバカだから、医者になるための勉強がどれほど大変なのかなんて知らない。でもさ、音楽も好きならまずは続けてみようよ。天秤にかけるのは本当に苦しくなってからじゃないかな?」
「それって……」
「やる前からどちらか一方なんて考えるもんじゃないと思うんだ。もしかしたら両方できるかもしれない。だから、それを考えるのは今じゃないと思うよ」
「……ありがとうございます!」
少女は心のもやもやが晴れたのかスッキリとした表情を見せた。
「いやいや、俺大したことしてないって……」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
それから、2人でコーヒーを飲んで、また少し話をした。
それで、帰路についた。
「今日はありがとうございました!」
少女は礼をする。
「いいっていいって。そういえば、君の名前まだ聞いてなかったね。よかったら、教えてくれる?」
「真姫……西木野真姫」
真姫ちゃん……いい名前。
「そっか。真姫ちゃん、またね」
俺はそのまま帰宅した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
それから3日後。
穂乃果が大声で俺に報告してくれた。
「ファーストライブの曲が完成したよ!」
「へぇ、自分で作詞作曲を?」
「違うよ〜。作詞は海未ちゃんがやって、作曲は1年生の真姫ちゃんがやってくれたんだ!」
真姫ちゃん。おそらくあの真姫ちゃんだろう。
真姫ちゃんを悩ませた先輩とは穂乃果のことだったのか。真姫ちゃんえらく悩んでたぞ。
「真姫ちゃん……ちゃんとやったんだな」
「竜くん? どうかした?」
穂乃果が不思議そうに見つめる。
「いいや、なんでもないよ。それにしても、器用な1年生もいるんだなぁ!」
俺はそうはぐらかした。
さてさて、こうしてファーストライブの曲は完成したのだった。
いよいよファーストライブが行われるが……はてさて。
なんと三日坊主とか言われてた穂乃果は、一週間スクールアイドルを続けていたのだ。
そんな穂乃果によると、目標はファーストライブを成功させることだそうだ。
そのために、衣装作りや振り付け、そして体力トレーニングを頑張っているのだとか。
ただ、新曲制作においてちょっと問題があったり、硬派な生徒会長に色々文句を言われたりと大変らしい。
ちなみに、俺はというと、自分の仕事をまっとうしていた。
今日は近所のスーパーで買物をする予定だ。
「えーと、お米が切れてたんだな。後は洗剤とか歯ブラシといったところかぁ……」
俺は穂乃果の母親から渡されたメモをもとに、ママチャリでスーパーマーケットへ向かう。
「助けてぇぇぇっ!」
すると突然、どこからともなく悲鳴が聞こえた。辺りを見渡すと、赤い髪の少女が悲鳴を上げているのが見えた。
「どうかしましたか!?」
俺はすぐさま少女の方へ駆け寄る。
「カバンを引ったくられて……」
少女は泣きながらそう答えた。
ひったくりとは今日日珍しい。許しちゃおけないね。
「分かった。今すぐ取り返してやるからな!」
俺はあたりを見渡す。すると、ものすごい勢いで走る男を見つけた。高そうな女物のブランドバッグを抱えている。
どう見てもあれがひったくり犯じゃないか。
俺はすぐさま自転車をかっ飛ばして追いかけた。
「待てやぁぁぁぁっ!!」
走って逃げる引ったくりに追いつき、そのまま追い越す。
そして自転車から降りて、引ったくりに突進した。
「ぐっ!」
ひったくり犯は唸り声を上げ、その場に倒れた。
「カバンは返してもらうぜ」
しばらくすると、警察が来て引ったくりは捕まえられた。よかったよかった。
「ほら、カバンは大丈夫だよ」
俺は少女にカバンを渡す。この後買い物をしなきゃならないのでそのまま自転車に乗った。
「んーじゃ、俺はこのまま買い物行くから。くれぐれも気をつけなよ?」
すると、少女が声を上げた。
「待って!」
「ん?」
「お礼がしたいの! 買い物が終わってからでもいいから……一緒にお茶でも……」
律儀な子だ。ここまでありがたれたのは初めてだ。
「別にそういうのはいいよ。俺は大したことしてないんだからさ」
俺は謙遜する。少女はそんな様子を見て不服なようだ。
「でも……」
彼女の好意だし、いいか。そう心に決めた俺は彼女とお茶に行くことにした。
「よーし、分かった。そこまで言うなら一緒にお茶しようか」
「ほ、ほんと!?」
パァァァッと少女の顔が晴れる。よほど嬉しかったようだ。
「ただし、買い物終わらせてからね。タイムセールがあるんだ! あ、ちょうどいいや。君も着いてきて!」
「ヴ、ヴェェ……っ!」
さっきの嬉しそうな顔から一転、すごく嫌そうな顔になった。
ほんとごめん。俺にも生活がかかってるんだ。
「後10分で卵のタイムセールなんだよぉぉっ!」
俺は右手に自転車、左手に少女を抱えて走っていった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
数十分後、俺達は買い物を終えた。
「なんとか買えたよ……これで2人分!」
「そのために私を?」
少女は不思議そうに俺の顔を見る。なにか変なことでも言ったかな。
「そうだよ? それじゃ、お茶に行こっか」
「え、えぇ……」
「それで、どこに行く?」
「あそこの店はどうですか?」
少女が指さした店はどことなく上品な雰囲気のするカフェ。
てっきりス○バとかマ○ドとかそういう軽い場所でお茶すると思ってたばかりにこれには驚きだ。
「えっ……」
多分この店の飲み物は高い。そう思えたから俺は言葉に困った。
「助けてもらったお礼です。私が奢るので気にしないで」
大変気が効くのだが、非常に申し訳ない。
そんなもどかしい気分になるのだが、彼女はそんなこと気にせず俺の手を引く。
「それじゃあ行きましょ!」
少女はウッキウキで店に向かった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
なんだこの店。コーヒー1杯1000円かよ。
予想通りお高い店だ。
こんなところに連れてくるなんて正気か? 本当に代金払えるんだろうな?
そんなことを考えていると、少女が声をかけてきた。
「どうかしました? ……あ、何飲みます?」
「えーっと……それじゃあ、これで」
申し訳ないので1番安いやつを選んだ。
コーヒーを待ってる間、俺達は話をしていた。
話始めは少女から。
「それで……さっきはありがとう」
「あぁ、どういたしまして」
そんな重い言葉から始まった会話だったが、数分もすればお互い打ち解けあってもっと軽いノリになっていった。
「そうだ。助けてもらったついでに1つ話を聞いてもらってもいいですか?」
少女はそう話を切り出した。一体なんだろう。
「何?」
「悩み……というか、困ってることがあって」
「お悩み相談かぁ。話してみて」
この子は見た感じ、穂乃果とそう変わらないような歳に見える。おそらく思春期なんだろうし、いろんな悩みがあって然るべきだ。
あの脳天気な穂乃果にさえ悩みがあるくらいなのだから。
「私、昔から音楽をやっているんです。それで、いつも学校でピアノを弾いてたんです。そしたらある日、知らない先輩からスクールアイドルの曲を作ってくれって言われて」
「スクールアイドルの曲?」
こりゃまた身近な話。彼女がどこの学校の生徒かは知らないが、どこの学校にもスクールアイドルっているんだな。
「そうなんです。それで、私は別に作曲はできないことはないんです。でも……」
「何か問題でも?」
少女は気まずそうに声を出す。よほど言いにくいことらしい。
「父が病院を経営してて、将来病院を継ぐことになってるんです。それで、これを引き受けたら次もやってと言われて、勉強そっちのけで音楽をやってしまいそうで……」
なるほど。一度人に良いところを見せちゃうとそこを付け込まれて人に使われて、自分の夢を叶えられなくなる。
きっと彼女はそれを恐れているんだ。
「つまり、医学と音楽を天秤にかけてるわけだ」
「はい……」
俺は悩んだ。この問題はこの子の人生を左右する大きな問題だ。
夢は大事だ。でも楽しみも大事だ。
どちらかを選ぶなんてきっと苦しいに決まってる。
それで悩むことは誰にだってある。
だから、俺ならこうする――。
「だったらさ、両方やっちゃおうよ」
これが俺の結論。無謀かもしれないが、俺ならそうする。
「……?」
当然ながら、少女は首をかしげる。ありえないという目で俺を見る。
そりゃそうだ。無茶を言っているんだもの。
「俺はバカだから、医者になるための勉強がどれほど大変なのかなんて知らない。でもさ、音楽も好きならまずは続けてみようよ。天秤にかけるのは本当に苦しくなってからじゃないかな?」
「それって……」
「やる前からどちらか一方なんて考えるもんじゃないと思うんだ。もしかしたら両方できるかもしれない。だから、それを考えるのは今じゃないと思うよ」
「……ありがとうございます!」
少女は心のもやもやが晴れたのかスッキリとした表情を見せた。
「いやいや、俺大したことしてないって……」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
それから、2人でコーヒーを飲んで、また少し話をした。
それで、帰路についた。
「今日はありがとうございました!」
少女は礼をする。
「いいっていいって。そういえば、君の名前まだ聞いてなかったね。よかったら、教えてくれる?」
「真姫……西木野真姫」
真姫ちゃん……いい名前。
「そっか。真姫ちゃん、またね」
俺はそのまま帰宅した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
それから3日後。
穂乃果が大声で俺に報告してくれた。
「ファーストライブの曲が完成したよ!」
「へぇ、自分で作詞作曲を?」
「違うよ〜。作詞は海未ちゃんがやって、作曲は1年生の真姫ちゃんがやってくれたんだ!」
真姫ちゃん。おそらくあの真姫ちゃんだろう。
真姫ちゃんを悩ませた先輩とは穂乃果のことだったのか。真姫ちゃんえらく悩んでたぞ。
「真姫ちゃん……ちゃんとやったんだな」
「竜くん? どうかした?」
穂乃果が不思議そうに見つめる。
「いいや、なんでもないよ。それにしても、器用な1年生もいるんだなぁ!」
俺はそうはぐらかした。
さてさて、こうしてファーストライブの曲は完成したのだった。
いよいよファーストライブが行われるが……はてさて。
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