第五十三話 『魔法少女の妙案』
「でも、夢じゃないってことだね。現実に……私は、あのおかしな世界に行った……そ、そして……こ、殺されかけちゃってたんだ……っ」
その事実を把握したとき、城ヶ崎シャーロットは恐怖を認識していた。ガクガクと体が震え始めて、その場所に静かにうずくまっていく。
「大丈夫か、城ヶ崎……」
「う、うん。大丈夫……なんだか、今さら……怖くなってた。危うく、屋上から落とされるところだったんだ…………で、でも……大丈夫。レンレンと、モルガナが助けてくれたんだもんね」
「ああ。とりあえず、今は大丈夫だ」
「う、うん……はー…………ちょっと……落ち着いて来たかな。レンレンの声を聞くと、何だか落ち着くんだよねー……」
「百戦錬磨の怪盗だからな」
「うん。そうなのかも。落ち着いているのが、私に移って来たカンジだよ。レンレンにはそういう効能があるんだね」
「喫茶店でバイトしていたからな」
「そうだよね、事実上それは住み込みのバイトで、レンレンのソウルの深いトコロまでコーヒー豆の香りが染みついているんだね!」
『魂にまで、コーヒー豆の香りが染みついているか……蓮らしくもあるな』
「だよねー!」
……自分は惣治郎のようなレベルに比べると、程遠いものがある。だから、魂にまでコーヒーの香りが染みついているとは言えないかもしれない。蓮は自分に対して厳しめのジャッジをしていた。
「……だが。落ち着いてくれたのなら、良かったよ、城ヶ崎」
「うん。レンレンの声を聞いていると、ホント、落ち着くなー」
そう言いながら城ヶ崎シャーロットは蓮が座っているベッドに、自分も腰掛けていた。
「ふーむ……でも、アレって、どういうことだったのかな?」
「さあな。オレたちも分からない。だが、一つキッカケになったと思えることがある」
『ああ。昼間、我が輩たちは聖心ミカエル学園の教会で、無いはずの鐘の音を聞いてしまったからな……』
「七不思議と遭遇した。それが、キッカケになっているのかもしれない。少なくとも、他には心あたりがないな」
「だよねー……あの女の子も、私を屋上から落とそうとしたんだもん。七不思議に出て来る話と一致しているね。それに、大きな骸骨……あれも、七不思議なんだよ」
『ふむ……七不思議の幽霊たちと、我が輩たちは戦ったのか……どうなっているのかは分からないが、七不思議と今夜の現象は密接に関わっていそうだな』
「……そうだな……」
「レンレン、大丈夫?眠たそうだけど……?」
「ああ。怪盗に変身して、異世界で戦うと、かなり疲れてしまうんだ」
「そかー。じゃあ、ここで…………っ」
城ヶ崎シャーロットの顔が、真っ赤に染まる。男の子が自分の部屋で眠る……そのことに対して、大きな動揺が心に訪れていた。
「あ、あううう……!?」
「……大丈夫だ。家に帰って眠る」
『そうだな。たぶん、今夜は七不思議の幽霊も出て来ないだろうし』
「た、たぶん!?」
『あ、ああ。断言は出来ないが……』
「じゃあ、またこの部屋で寝ると、誘拐されちゃうパターンかな……っ?」
「……断言することは出来ない」
「そ、それじゃあ、怖いよう……っ」
「たしかにな……」
「私、この部屋で眠りたくないよう。お姉ちゃん、明日の十時ぐらいまで帰らないし……ど、どうしよう……レンレン帰ったら……独りぼっちだし」
「モルガナを貸そうか?」
『ん。ああ、そうだな、それなら……』
「モルガナだけで、私を守れないかもだし」
『うぐっ。そ、それは……っ。状況次第としか言えないな。我が輩も、疲れてしまっているんだよな……』
「二人ともいてくれた方がいいけど、男の子を女の子の部屋で寝かせてはダメだし……そもそも、今は、ここで眠るのが怖いし…………そ、そーだ!!シャーさん、ピンと来ましたぞ!!」
『何を思いついたんだ?』
「私が、レンレンの家に行くのです!そしたら、レンレンとモルガナに守ってもらえるし、怖くて眠れないということもないのです!」
「大発明だな」
「ですよね?自信があるタイプの答えだもん!」
城ヶ崎シャーロットは自信満々の笑顔に輝いている……モルガナは首をかしげていた。
『でも、真夜中に男の家に行くなんて、いいのか……?』
「いいもん。レンレンは紳士さんだし、エッチなことしないよね?」
……そういう認識をされるのも、男としてどこか口惜しい気がする。だが、怯えさせては、かわいそうだ。
「ああ。大丈夫」
「だ、そうですので。問題はありません!着替えとかを持って行けば、いいんです。レンレンのお家も、ご両親が不在と聞きましたので、フリーダム・スペースですし」
『……まあ。お前らがそれでいいなら、我が輩は止めない。たしかに、あの幽霊が……吉永比奈子がまた城ヶ崎をあっちの世界に引き込もうとするかもしれないのは事実だ。ここよりは、我が輩たちの家の方がいいだろう。飛び降りても二階建てなら足が折れるだけで済む』
「うぐ。足が折れるとか……それも十分にイヤだから、出来れば、守ってね、二人とも?」
「任せろ」
『大丈夫だ。我が輩は、女子は守ってやるんだ……』
「じゃあ。決まり!ちょっと着替えのパンツとかアレとかコレとかを詰めますので、ちょっとお部屋の外でお待ち下さい!!」
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