第十五話 運命的だよね!!
城ヶ崎シャーロットの懇願を受けて、蓮は自分が抱えている彼女の通学バッグの中身を詮索するのをやめた。
なんだか、お互いのためのような気もするのだ……目をこらせば、怪盗としての鋭い瞳が、女子高生のバッグの内部に、何か不穏なオーラを感じさせる。
「……絶対に、見ちゃダメなタイプのアレだからね?本当に、冗談じゃないから?……開けたら、私は戻らなければなりません」
「戻るって何だ?」
「とにかく、そのバッグを開けてはなりません。絶対に、本当に、マジで……ガチで……オープンしちゃ、ダメなんだからね?」
『……おいおい、城ヶ崎のヤツが、開けるな、開けるなって、ツルの恩返しみたいなコト言っているな』
ツルの恩返しか……何とも懐かしい響きだった。悲しげな結末を持つ、あの不思議な物語……何となく、どこか不思議な美少女というところでは、ツルと城ヶ崎シャーロットは似ているような気がする……?
……いや、そうでもないか。城ヶ崎シャーロットは、もう少し俗っぽい存在であり、ファンタジーな雰囲気は美しい見た目だけだ。
「絶対に、オープンだめ。それをすれば、世界の誰もが得をしないことになるんだ……だめだよ?開けちゃダメ?そういう童話って、あるよね……?」
『なんだか、城ヶ崎のヤツ、とんでもなく追い詰められてしまっているな……なあ、冗談でも開けてやるなよ、蓮?……城ヶ崎のヤツ、恥ずかしさで猛ダッシュするかもしれない。それはかわいそうだろ?』
「開けはしない」
『そうだ!そう言ってやるべきだし、女子のイヤがることは紳士としてすべきじゃないぞ!!…………でも、どんなマンガなのやら……』
「ば、バッグ、やっぱり私が持とうかな!?」
「いや。安心しろ。城ヶ崎がイヤがるようなことはしない。絶対にな」
「……う、うん。ありがとー……あー。良かった。安心した」
『……そんなに気にするような秘密なら、なんで教えてくれたんだろうな?……黙っていれば問題ないのに』
モルガナは暗に『聞け』と言っているようだ。蓮は、質問の言葉を使うことを決めた。
「どうして、教えてくれたんだ?」
「ん。えーとね……なんかさ、レンレンが巻き込まれちゃった事件のこと、聞いちゃったから。ヒトの秘密を知っちゃったから……私も……私の秘密を、レンレンに教えておきたくなったというか……?」
「秘密と秘密の交換か。フェアだな」
「うん!……その言い方、好きだよ!」
青い瞳を輝かせながら、城ヶ崎シャーロットはとても嬉しそうにそう言った。まるで、彼女の心からは音楽があふれているような気になってしまうほど、いい笑顔がそこにある。
「……私、レンレンにね、私の秘密、聞いて欲しかった。レンレンのに比べたら、まったくもって、ホントーに大したことはないんだけどね……」
『……たしかにな』
「たしかにな」
「うわわわッ!!お、乙女の秘密を知っておきながら、そういう態度はいかんでござるよー!?」
「……そうか。あらためるよ」
「そうしなさい!これから、一年間は同じ学校に通うんだからね!仲良くしよう!」
「そうするでござる」
『おい、バカにしてるみたいだぞ?』
「いい心がけだ、私は心から気に入ったぞ!!」
『……ノリノリで受け入れられているだと?……ちょっと、不思議な感性の子だな。美少女なのに、なんか勿体ないよーな気もする……まあ、何となく、マンガっぽいというか、オタクっぽいノリで行けば、城ヶ崎は喜んでくれるみたいだぞ』
……モルガナが、何だか恋愛ゲームのサポートキャラみたいなことを言い出している。蓮は、そんなことを思った。
「了解でござる」
「どーしたでござるか?」
「モルガナが、城ヶ崎にはそんなノリで話せと言ったでござるよ」
「ふむ。だが、レンレン殿。あまり、こういうオタク丸出しなトークは、皆の前では使わぬよーに。かつて、クラス中をドン引きさせた拙者が言うから、マジでリスキーでござるよー……」
『はあ!?クラス中を、ドン引きさせた?……一体、何があったんだよ。意外と、城ヶ崎にとっては、重たい告白だったんだな……汲んでやれ、城ヶ崎は、ちょっと変だけど、マジメでいいヤツだ』
「……わかった」
「うん。ござる語尾は、オタクたちだけで集った時にだけ、使うようにね!用法用量を守る!それが、薬物と隠れオタクの正しい使い方である!!」
『……そんなに隠れていないよーな気もするけど。まあ、いいか』
「……はー。でも、今日は朝から楽しいなー……あ。見て、レンレン!」
城ヶ崎シャーロットの指が、ピシッと丘の上の校舎を指差す。新入生たちがいた。列を作って、どこかに向かっているようだ。
「講堂に向かっているんだよ。入学式が始まってるねー……そして、やっぱり、私たち、ちょっと遅刻したっぽいや」
「かまわない。城ヶ崎と、フェアなトレードが出来たから」
「うん。私もそう思う……ねえ、レンレン。コレ見て?」
「どうした?」
城ヶ崎シャーロットはスマホを見せて来る。その画面には、たくさんの名字が並んでいる……?
「クラス分けの?」
「大当たり!……そう、レンレン、私と一緒に3年B組っぽいよ!運命的だよね!」
「ああ。そうかもな」
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