第七話 怪盗団の技術
『……ああ、言わんこっちゃない……』
モルガナの声を聞きながら、蓮は、シャーロット号と共に地面へと倒れ込んでいるシャーロットに近づく。
「大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫だ。でも、パワー不足だったようだよー……」
シャーロットは、てへへ!と笑いながらピンク色の小さな舌をぺろりと出した。感情表現が豊かな子だ。蓮はそう思った。自分は感情表現が乏しいから、少しうらやましくもある。もしも、自分が、てへへ!とか笑ってみたら?……不気味だろうなと考えてみたりもした。
自分はどちらかと言うと、暗闇に合ってしまうような笑みになるだろう―――何というか、魔族系なのかもしれない……そんなことを考えてみた。
……とにかく、紳士であるモルガナが無言のオーラを放ってくる。すべきことをしなければならない。
「ほら。手を貸すぞ、城ヶ崎」
「う、うん……あ、ありがとー、レンレン……」
白くて小さな手を握りながら、蓮はゆっくりとシャーロットを地面から起こしてやった。シャーロットは、えへへ、と笑う。どこか照れくさそうだった。
「朝からこういうシチュエーションだとー……恋に落ちちゃうパターンだよねー」
「そうなのか?」
「そ、そーかもなーって?」
『……あいもかわらず、蓮ばかり……』
「あれ?また、猫さんの声が……も、もしかして!?」
「……もしかして?」
「レンレン、猫の悪霊に、取り憑かれているの!?」
城ヶ崎シャーロットは大変に驚いている。だが、蓮はマジメな表情だった。
「……あるいは」
『ねーよッ!!幽霊じゃないし!!……たぶん!!』
一度は消えかけたし、それから復活して戻って来たけれど。多分、いや、幽霊ではないはずだ。
だって脚はあるし?……モルガナは通学バッグのなかで暴れながらも、己のアイデンティティーを探していた。
シャーロットは、暴れる通学バッグを見つめながら……ハッ!と何かに気がついた顔をする。
「それ、腹話術とか……そーいう芸?」
「……そんなところだ」
『……ちげーだろ』
「あはは。また、ニャーって言った!レンレン、猫さんのマネが上手なんだねえ!!……って!?」
城ヶ崎シャーロットが、よろけた。蓮は素早く動き、彼女を支えてやる。
「大丈夫か?」
「う、うん……なんていうか、足首、ちょっと痛くなって来たかもー?」
『……大変だな。もしかしかしなくても、捻挫したのかもしれない。壮大に転けていたからな……』
捻挫か……武見の診療所で、ファースト・エイドは習っているし、バッグの中にも応急処置用のセットを携帯しているな……怪盗のたしなみとして。
『蓮、技術を見せるときだぞ!!』
「ああ……城ヶ崎、こっちに来い」
「え?う、うん……ど、どこに行くの?」
「バス停だ。イスがあるから、あそこまで行こう。歩けるか?……何なら、抱っこするが」
「お、おう。抱っこか……そ、それは、その……恥ずかしーし」
「そんなことを言っている場合か」
真顔でマジメな言葉を使う蓮に対して、城ヶ崎シャーロットは赤面する。
「……こういう、天然ジゴロさんなのかなー……」
『そうなんだよ。コイツ、全自動フラグ・マシーンなんだよ……』
「あはは。また猫さん腹話術してるね。何か、練習中?」
「そんなところだ。抱っこがイヤなら、肩を貸す。痛めた足に体重をかけないようにして進め」
「おう。オッケーさんだぞー」
蓮は城ヶ崎シャーロットに肩を貸したまま、バス停に置かれているベンチにまで彼女を運んでやった。そして、彼女をそこに座らせるのだ。
「あはは。一休み出来たーって、カンジ。でも……ちょっと足首痛しだ」
「靴下を脱げ」
「え。ええ!?……こ、こんなところで、脱ぐんすか!?」
それなりに大きな声で、城ヶ崎シャーロットは叫んでいた。周囲の人々に対して、大きな誤解を発生させそうだ。蓮は、そんな事態を防ぐために、正論を使う。
「捻挫の治療をする。テーピングで固めて、包帯でぐるぐる巻にする」
「なるほど。レンレン、そういうの手慣れているの?」
「熟練者だ」
「スゴい!どっかのスポーツ・クラブに入っていたとか?」
「……ジムには通っていたな。格闘技も習った。それなりに、ケガが多い一年間だったから。こういうことにも詳しくなった」
『我が輩も仕込んだのだぞ……っ』
「にゅーにゃー!……うーん。私じゃ、ニャーニャー言いながら同時に人間さんの言葉、しゃべられないっす」
「これもコツがあるんだ」
『……また、テキトーなことを言いやがって……』
「ほら。とにかく、縛ってやるから脱げ」
「……お、おー。それ、何か使い方間違えているよーな気もするけど、ガチで足が痛いんで、お願いしやーす!!」
「任せろ」
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