第二話 猫の手も借りたい朝。
モルガナのためにカフェオーレを作り、二切れの食パンをトースターにセットする。
トマトとレタスと、そしてキュウリを切って、ごま系のドレッシングをたっぷりとかけたサラダを作り……目玉焼きをフライパンの上で完成させた。
今日の卵焼きは、いつにも増して正円に近づいている。とても美しいものだと自画自賛する―――そう、卵だって、片手で割れるようになった。一年前の自分では、ありえない器用さだ。
惣治郎に感謝しなくてはならない。コーヒーの作り方だけではなく、喫茶店の軽食メニューの作り方を、色々と教えてもらった。
『おお。朝食メニューの完成だな!』
「ああ。だが……今日は、弁当を作りたい」
『なるほど。そのための早起きか。頑張れ。我が輩は、カフェオーレの味をチェックしながら、応援しておいてやろう』
「応援は、任せたぞ」
『うむ』
そう言いながら、モルガナは床に置かれたマグカップに近づいていく。
肉球で、そのカップに触れて、熱くないことを確認した。ときどき、自分の飼い主が妙なチャレンジ精神を発揮して、激辛カレーなんぞを作ることもある。
……どこか抜けているところもあるからな、ジョーカーは……まあ、今日は大丈夫そうだ。ストローもつけてくれているから、とても飲みやすく仕上げられている。
モナは猫の小さな口で、ストローを、はむっ!と噛み、じゅるじゅると音を立てながらカフェオーレを飲み始めた。
『……にゃはは。いい温度だ。適温だぞ、蓮!』
「そうだろうな。人肌の温度だ』
『へー。人肌かー……』
モルガナは自分の飲み物が人肌の温度であるのかと考えて、色々と妄想をしていた。
高巻杏の出て来る、ややセクシーな妄想もあったが、紳士を自負するモルガナは、その妄想を頭から取り払うために、ブンブンと頸を横に振っていた。
『いいや、こんなことはダメだ。邪念はいけない』
「……邪念か。それは、いけないな」
雨宮蓮は、正論を使ってみた。モルガナは、その言葉へ即座に納得していた。
『ああ、そうだろう?……だって、その。杏殿の豊かなバストとか……何よりもカフェオーレに対して、とても失礼ではないか』
……いったい、何を考えていたのだろう。怪盗団の女性陣や、竜司あたりに聞かれていたら、1週間ぐらいは弄られる可能性のある危険性を秘めた言葉だった。
猫の頭は、二度三度と縦に振られたあとで、また、はむ!っとストローに対して噛みついていた。
……まあ、かまわない。モルガナの秘密を守ってやるのも、相棒としての義務である。それに、今はそんなどうでもいいことよりも、サンドイッチを作ることに集中するとしよう。
シンプルなハムとレタスのサンドイッチと、チーズのサンドイッチを作った。タンパク質が欲しいから、ゆで卵を作りつつ、ウインナーも二本ほど茹でる。
喫茶店仕込みの軽食を作る作業……テキパキと指は動き、モルガナが感心して声を上げる。
『上手いモンだな』
「惣治郎に仕込まれたからな」
どこか誇り高い気持ちになりながら、蓮はモルガナに語る。
『うんうん。そうだな。その動きを見ていると、安心感が湧く。我が輩は……ただ温かい目で見守っていれば良いのだと!』
そう主張する猫の尻尾は、ピシリ!と長く天井に向かっていた。そして、ストローでじゅるじゅるとカフェオーレを飲み始める……。
その態度は可愛らしいが、若干ながら腹が立って来た。
「なにか手伝え」
『……うむ。そうだな、これは共同生活だ。我が輩も、何か蓮のために協力しようではないか』
「そうしてくれると助かる」
『さて……何があるかな。我が輩では調理は難しいし……ん。そうだ。ガレージに、自転車があったようだが……チェーンが錆びていたし、錆落としをして、乗れるようにしておいてやろう。アレは、それなりに良いモノだ』
「自転車か」
『通学に使うも良し、どこか散策に使うも良し。東京ほど、このあたりは人混みがあるわけでもないし、飛ばすと爽快かもしれない。運動にもなる』
「悪くないかもな」
『うむ。そうだろう?……まあ、とにかく、使える道具があるということは、どんな時でも有利なものだ。ちょっと近くのコンビニに買い物へ出るときも、あったほうが便利だろう?……ここからは、少しコンビニが遠いから……』
「ああ。頼んだ」
『任された。お前が弁当を作り上げるまでには、作業を完了しておいてやろう。錆取りスプレーや、工具箱の位置は、すでに把握済みだからな』
「さすがだ」
『うむ。では……15分で戻るぞ!!』
猫の手に仕事を与えられたモルガナは、とても機嫌が良さそうだった。どういうことなのかは、あまり深く考えることにはしていないが、猫モードのモルガナも、相当に器用なものだった。
工具を使いこなしているのだから……最近は、双葉が餞別代わりにくれたノートPCを使いこなし始めてもいる。
動画投稿サイトに自分を投稿して欲しい、という発言を聞いた時は、『!?』という言葉にならない驚きが体に走ったのも記憶に新しい。
メメントスが消えたとしても、モルガナの自己顕示欲の強さは変わらないようだ。
おそらくは、猫たちの動画に、可愛い!というメッセージがたくさん並んでいたことで、自分も、そんな可愛いというメッセージに囲まれたくなったのだろうと、蓮は考えていた。
トマトとレタスと、そしてキュウリを切って、ごま系のドレッシングをたっぷりとかけたサラダを作り……目玉焼きをフライパンの上で完成させた。
今日の卵焼きは、いつにも増して正円に近づいている。とても美しいものだと自画自賛する―――そう、卵だって、片手で割れるようになった。一年前の自分では、ありえない器用さだ。
惣治郎に感謝しなくてはならない。コーヒーの作り方だけではなく、喫茶店の軽食メニューの作り方を、色々と教えてもらった。
『おお。朝食メニューの完成だな!』
「ああ。だが……今日は、弁当を作りたい」
『なるほど。そのための早起きか。頑張れ。我が輩は、カフェオーレの味をチェックしながら、応援しておいてやろう』
「応援は、任せたぞ」
『うむ』
そう言いながら、モルガナは床に置かれたマグカップに近づいていく。
肉球で、そのカップに触れて、熱くないことを確認した。ときどき、自分の飼い主が妙なチャレンジ精神を発揮して、激辛カレーなんぞを作ることもある。
……どこか抜けているところもあるからな、ジョーカーは……まあ、今日は大丈夫そうだ。ストローもつけてくれているから、とても飲みやすく仕上げられている。
モナは猫の小さな口で、ストローを、はむっ!と噛み、じゅるじゅると音を立てながらカフェオーレを飲み始めた。
『……にゃはは。いい温度だ。適温だぞ、蓮!』
「そうだろうな。人肌の温度だ』
『へー。人肌かー……』
モルガナは自分の飲み物が人肌の温度であるのかと考えて、色々と妄想をしていた。
高巻杏の出て来る、ややセクシーな妄想もあったが、紳士を自負するモルガナは、その妄想を頭から取り払うために、ブンブンと頸を横に振っていた。
『いいや、こんなことはダメだ。邪念はいけない』
「……邪念か。それは、いけないな」
雨宮蓮は、正論を使ってみた。モルガナは、その言葉へ即座に納得していた。
『ああ、そうだろう?……だって、その。杏殿の豊かなバストとか……何よりもカフェオーレに対して、とても失礼ではないか』
……いったい、何を考えていたのだろう。怪盗団の女性陣や、竜司あたりに聞かれていたら、1週間ぐらいは弄られる可能性のある危険性を秘めた言葉だった。
猫の頭は、二度三度と縦に振られたあとで、また、はむ!っとストローに対して噛みついていた。
……まあ、かまわない。モルガナの秘密を守ってやるのも、相棒としての義務である。それに、今はそんなどうでもいいことよりも、サンドイッチを作ることに集中するとしよう。
シンプルなハムとレタスのサンドイッチと、チーズのサンドイッチを作った。タンパク質が欲しいから、ゆで卵を作りつつ、ウインナーも二本ほど茹でる。
喫茶店仕込みの軽食を作る作業……テキパキと指は動き、モルガナが感心して声を上げる。
『上手いモンだな』
「惣治郎に仕込まれたからな」
どこか誇り高い気持ちになりながら、蓮はモルガナに語る。
『うんうん。そうだな。その動きを見ていると、安心感が湧く。我が輩は……ただ温かい目で見守っていれば良いのだと!』
そう主張する猫の尻尾は、ピシリ!と長く天井に向かっていた。そして、ストローでじゅるじゅるとカフェオーレを飲み始める……。
その態度は可愛らしいが、若干ながら腹が立って来た。
「なにか手伝え」
『……うむ。そうだな、これは共同生活だ。我が輩も、何か蓮のために協力しようではないか』
「そうしてくれると助かる」
『さて……何があるかな。我が輩では調理は難しいし……ん。そうだ。ガレージに、自転車があったようだが……チェーンが錆びていたし、錆落としをして、乗れるようにしておいてやろう。アレは、それなりに良いモノだ』
「自転車か」
『通学に使うも良し、どこか散策に使うも良し。東京ほど、このあたりは人混みがあるわけでもないし、飛ばすと爽快かもしれない。運動にもなる』
「悪くないかもな」
『うむ。そうだろう?……まあ、とにかく、使える道具があるということは、どんな時でも有利なものだ。ちょっと近くのコンビニに買い物へ出るときも、あったほうが便利だろう?……ここからは、少しコンビニが遠いから……』
「ああ。頼んだ」
『任された。お前が弁当を作り上げるまでには、作業を完了しておいてやろう。錆取りスプレーや、工具箱の位置は、すでに把握済みだからな』
「さすがだ」
『うむ。では……15分で戻るぞ!!』
猫の手に仕事を与えられたモルガナは、とても機嫌が良さそうだった。どういうことなのかは、あまり深く考えることにはしていないが、猫モードのモルガナも、相当に器用なものだった。
工具を使いこなしているのだから……最近は、双葉が餞別代わりにくれたノートPCを使いこなし始めてもいる。
動画投稿サイトに自分を投稿して欲しい、という発言を聞いた時は、『!?』という言葉にならない驚きが体に走ったのも記憶に新しい。
メメントスが消えたとしても、モルガナの自己顕示欲の強さは変わらないようだ。
おそらくは、猫たちの動画に、可愛い!というメッセージがたくさん並んでいたことで、自分も、そんな可愛いというメッセージに囲まれたくなったのだろうと、蓮は考えていた。
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