ACT172 『チーム・オーガその3』
ガトリングしかないグフなど、恐れるに足らずというか?
……悪くない勇敢さだが、舐めてもらっては困るぜ。隊長は目前に迫るビーム・サーベル二刀流にマニューバで対抗する。
ステップとスラスター、そして、身を伏せる動作を融け合わすように連携させて、隊長のグフ・カスタムは流れる水のように滑らかに、まったくの抵抗を感じさせないステップ・ワークを発揮していた。ビーム・サーベルの斬撃が空振りさせられる。
隊長はこの獲物を仕留めることも出来たが、今はこの獲物の相棒から殺してやることを決めていた。
二刀流の特攻をサポートするために、ジム・スナイパーが控えていた。前衛と後衛。前衛は派手に見えたし、実際のところ隊長を本気で仕留めてしまう気でもあったようだが……戦術上で、トドメを刺す役割を持たされていたのは、このジム・スナイパーである。
戦場を見渡す隊長の古強者の瞳は、連邦軍のモビルスーツ・パイロットの戦術を見切っているのだ。
『こ、こっちに来る気かッ!?』
「イージーなターゲットから狩るというのも、時には有効なもんでね」
『くそ!!』
後衛が襲われていることに気がついた二刀流のジェガンが、あわてて背後を振り向いた。
隊長のグフ・カスタムを追撃しようと腰を低く落とし、スラスターの出力に頼ろうとした瞬間―――オーガ4の放った遠距離ビーム・ライフルがスラスターを貫き、バックパックごとジェガンを爆破してしまっていた。
スラスターの燃料にも引火したのだろう、その爆炎の火力は凄まじく……ジム・スナイパーは迫り来る隊長のグフ・カスタムの姿も動きも、僚機の爆炎に塗り潰されてしまっていた。
『み、見えないッ!!』
「そうだろうよ!!」
デザインしていた動きではある。隊長……オーガ1と組んでいるのは、オーガ4である。
前衛と後衛の関係ではあるのだ、戦場を縦横無尽に走り回りながらも、そのコンビネーションのルールは失われてはいない。オーガ1が目立ち、オーガ4が精密に敵を仕留めていくのだ。
「いいコンビネーションだぞ、オーガ4!!」
『人生最後のミッションですからね!!オレだって、隊長に迫るスコアを稼ぎたいんですよねッ!!』
「生意気だな!!だが、それでこそ、オレの二番機だッ!!」
グフ・カスタムが跳び、ジム・スナイパー目掛けて空中から砲弾の雨あられを浴びせていた。
ダルルルルルルルルルルルルルッッ!!
唸る機関から放たれる暴力的な砲弾の群れによって、ジム・スナイパーの装甲が引き裂かれてしまっていた。
爆発は起きない。起きない程度に殺したのだ……破壊したくなかったものも、そこにはあるのだから。
ビーム・ライフル。地上に降り立ったグフ・カスタムの腕が、片膝を突いてその場に沈黙しているジム・スナイパーから、その凶悪な兵器を奪い取る。
隊長はすぐさま後方を振り返ると、3機のジェガンに襲われているオーガ2とオーガ3を援護するために、ジム・スナイパーの高出力ビーム・ライフルをぶっ放す!!
3000メートル先の敵も、隊長の狙撃は精確に射抜いた。そして、すぐさまにビームを放ち、ジェガンをもう一機撃墜するのだ。
ジム・スナイパーも乗り手も死んではいるが、バックパックから繋がるエネルギー・ケーブルは生きている。
動けなくなったジム・スナイパーからエネルギーは送られているのだ、このビーム・ライフルに。連射することが可能なビーム・ライフルは貴重なものだが、機体に搭載しているエネルギーをガンガン消費してしまう。
「死んだ敵から、そのエネルギーを奪うのであれば、問題ないというわけだよ」
隊長はオーガ4の背後に迫っていたジムⅢに、そのビームを浴びせて撃破する。
『ありがとうございます、隊長!!』
「例など要らない、愉しめ!!」
『イエス・サーッッッ!!!』
オーガ4も戦場の鬼となるのだ。エネルギーを使い果たす寸前だった、ビーム・ライフルを交戦中のジェスタのコクピットに突きつけて、暴発させるようなやり方で、ジェスタのコクピットを焼き払っていた。ジェスタのビーム・ライフルを素早く奪い取る。
見事な早業を、オーガ4は見せつけてくれる。そのまま、遠距離射撃により、隊長に迫ろうとしていたジェガンを射貫いていた。
爆炎と断末魔が、あちこちで発生する。太平洋に太陽は沈み、夕闇が青から黒へとその姿を変えていく。隊長は、信号弾を放つのだ。
戦場の上空に輝く、赤い光を見たとき、オーガ隊はその仕組みを解禁する。灰色だった装甲の色が深い青へと姿を変えていく。
色彩を変えただけではあるが……こちらのカラーリングの方が、よりグフらしいし―――何よりも、闇により深く融けることが出来るのだ。
「このまま、闇に紛れて敵を殲滅して回るぞッ!!」
『了解ですッ!!』
『ハハハ。生き残れちまいそうな、勢いだぜッ!!』
『……オーガ3、そんな言葉は不吉だぞ。死を覚悟して、戦おうッ!!』
『ジンクスを信じるか。オレたちには、そういう風習ってのは、無かったハズだぜ』
「……今夜ぐらいは、構わんさ」
『隊長がそう仰るのなら、まったくもって問題はないってことだよなァ……今日は、いつにも増して、自由なもんだぜッ!!』
特別な日であることを、皆が理解している。今夜の戦いを、オーガ隊が生き残れる確率など、皆無なのだ。ここを攻撃すれば、周辺の基地からも援軍が届くことになっている。
ルオ商会が売りつけた、ガラス・ケーブルが地下を走っている。光に近しい通信速度で、その救難信号は届くのだ。ミノフスキー粒子対策である、有線の通信だ。敵は、最初からオーガ隊を二重、三重にも包囲しているのであった。
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