ACT170 『チーム・オーガ』
モビル―スーツによる戦いのコツは、いかに速く敵の数を減らすかと、いかに自軍の数を減らされないかである。
モビルスーツの売りは、その圧倒的な機動力だ。走るだけで時速120キロ、スラスターを使えば300キロは出る。
飛行ユニットがあれば、その数倍で飛び回れるのだ。一撃でビルも破壊する威力を持った兵器が、これだけ動ける。敵の密度がまばらであるのであれば、空間を防御力に転換することで、数的不利を克服することが出来る。
シャア・アズナブルがそれを示し―――彼に続いたパイロットたちが、その事実を証明してきた。速く動き、早く敵を仕留めれば……モビルスーツは数的不利をも克服するのだ。
「動き回れ!!敵の施設を遮蔽物に使えよ!!司令部にも、燃料貯蔵庫にも、砲弾を放つバカはいねえ!!」
隊長はあえてそう叫んだ。通信回線ではなく、反響板をうならせて放つ原始的な拡声器を使ってである。
自分たちが、そういったモノを盾にする戦術を採るのだと、あえて敵に教え込むためであった。
そうすることで、敵のモビルスーツ・パイロットたちは警戒心を強めざるをえなくなる―――事実、重要施設群の周辺に走り込みながら4機のグフ・カスタムたちは戦場を走り回っていた。
うかつに砲撃を行い、もしも外れたら?……基地への大きな被害を発生させることになる。それは兵士という職業人にとっては大きなリスクである。
場合によれば軍法会議にかけられ、禁固刑を言い渡される可能性さえあるのだから。
「……くくく!!どうしたって、雇用の身はキツいよなァ……オレたち傭兵と比べて、貴様らには自由がなさすぎるッ!!新設基地の守備任務に就くようなヤツらだ……マジメなパイロットが、多いんだろうなァッッッ!!!」
元・軍人でもあるた隊長には、地球連邦軍のモビルスーツ・パイロットたちの考え方も分かるし、基地司令という官僚の一種が、どんなことを考えるのかも分かっている。
問題を起こしたくはないものだ。新しい軍事基地に対して被害を出すような不名誉を、基地司令という職業に就いた者は嫌う。
襲撃されたことのない新造基地に配備したいモビルスーツ・パイロットは自我の強い荒くれ者じゃない。連携の取れたマジメな連中だ。
「とくに、連邦軍のヤツらはそういう発想が好きなんだよなァッ!!知っているぜ、オレも地球暮らしが長くなっているんだよ!!……しかしな、そういうマジメで消極的なヤツは、根本的に拠点防衛には向かないんだよッ!!」
隊長は持論を持っている。拠点防衛に向く性格は、人の言うことを聞かない荒くれ者なのだと。予想外なことには連携で対応することは出来ない。
これだけのモビルスーツが配備された大型の基地が襲撃されるなど、彼らは考えもしていなかったハズだ。一応はプランは持っているだろうが……残念ながら、真剣に考えることは難しい状況だ。
ありえないことだ。たった4機のグフ・カスタムで、このハードナー基地を襲撃してくるなんてことは……面白いことに、もっと大勢のモビルスーツに襲撃されていたら、マジメな基地防衛隊は戦術的に機能していた。
どのチームが優先的に対応に当たるのか、そんな下らないことで今は迷ってしまってもいる。
「急場で必要なのは、チーム力じゃない!!愚かで、短絡的で、勇敢なバカが、最強の守護神になれるんだよッ!!」
隊長のグフ・カスタムが宙に舞い上がり、ガトリングの砲弾を周囲にまき散らしていた。それらが狙ったのは、燃料備蓄の大型タンクだった。
火花が散り、穴だらけにされたタンクからは可燃性のガスが噴出して行き……数秒後には爆発と炎上が起こる。
『ハハハハ!!消防隊を出動させろッ!!』
『火を消さないと、次の備蓄タンクにも引火しちまうかもしれないぜ!!』
オーガ2とオーガ3が、冗談めかしに叫んでいた。
『な、なんだと!?』
『どうすればいいんだ!?』
『あ、慌てるな!!誘爆するような仕組みではないッ!!敵は、言葉も使って、我々を混乱させようとしているんだッ!!……冷静に、行動しろッ!!』
「……ご明察。そういう頭が切れるヤツは、オレは好きだぜッ!!」
ギュウオオオオオオオンンッッ!!
グフ・カスタムが唸りを上げながら高速で機動する。気に入った獲物に向けて隊長は愛機を走らせているのだ。その獲物は、ジェスタだった。本来のスペックならば、グフとジェスタのあいだには、絶対的なまでの差が存在している。
グフがジェスタに勝っている部分など、どこにも存在しないのだ。世代が違う旧式の機体ではあるが……チェーンナップと、その機体の癖の全てを知り尽くすことで、隊長はモビルスーツのあいだにある機体性能の差を埋めるのだ。
『くそッ!!オレを、狙うかッ!!』
ビーム・サーベルを抜き放ち、ジェスタが隊長のグフ・カスタムに斬りつけてくる。隊長は獣の貌になりながら、愛機を獣のように動かせる!!
モビルスーツの鋼の体がしなやかにステップを踏む。まるで、踊るような動きで、ビーム・サーベルを回避した。
それと同時に、グフ・カスタムもまた斬撃を放っている。回避と反撃は同時に行われて、ビーム・サーベルを握っているジェスタの右手が、ヒートブレードにより断ち斬られていた。
「斬撃ってのは、こういうのを言うんだ。雑魚め」
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