ACT133 『狂戦士ゼリータ』
シナンジュ・スタインは部下のモビルスーツに多くを期待してはいなかった。
ギラ・ズールのビームなどで落ちるほど、相手が貧弱だとは考えていない。期待していたのは、一瞬の足止めだ。
……私は気がついている。シナンジュ・スタインの演算装置が導き出している。あの瞬間移動の原動力は、燃料でもない、謎の斥力だが―――その謎のエネルギーの中心となり、コントロールしているのは、その翼だ!!
「防御に使っている今なら、瞬間移動はお預けなんだろうって、思うのさァアアアッ!!」
ゼリータ・アッカネン大尉は狂戦士であるが……頭の切れも悪くはない。
衝動的で、戦闘に特化した知性は、それだけに柔軟かつ狡猾な思考を彼女に実装させているのだ。三度、ロケット・バズーカは放たれる。
ビームの乱射を弾いている翼は、今度はあの究極の回避運動を行うことはなく、その装甲にロケット弾の着弾を許してしまっていた。
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンッッ!!
宇宙に真紅の花が咲き狂い、『フェネクス』の体が爆裂の力に負けて飛ぶ。
『当てたの!?』
「ああ、そうだよ!!お前らのおかげだ、エリク!!ギラ・ズールも、使い方ってことだぞ!!」
上出来だ。不死鳥に一発入れることが出来た。無敵じゃない。
光速で移動することが可能でも、瞬間移動にすら見えてしまう速度を出せたとしても……戦い次第では、不死鳥を狩ることは、不可能ではない!!
「不可能じゃないのなら、私がやっちまうってわけさ、不死鳥!!」
シナンジュ・スタインがハイ・ビーム・ライフルで、『フェネクス』を狙う。今度は手加減ナシのビーム放射だ!!宇宙を焦がす奔流が走り、爆発の影響で瞬間移動を使うことの出来ない『フェネクス』を直撃していた。
金色の装甲が、ビームを拡散してはくれるが―――。
「―――完全じゃない。その装甲だって、限度ってものがあるだろう!!世界ってのは、そう都合良く、完全無欠なモノの存在を許してくれないもんだよねえッ!!」
対価がいる。その無敵の防御力だってな……計算していた。シナンジュ・スタインは、自分と繋がる赤い右目に情報を送ってくれる。ゼリータ・アッカネン大尉は理解するのだ。
「ほうら、やっぱり……体に熱が貯まりすぎている!!ビームに貫かれないからといってええッ!!熱まで完全に逃がせやしないってことだ!!」
シナンジュ・スタインが『フェネクス』に突撃していく。ハイ・ビーム・ライフルで至近距離から、オプション装備のグレネード・ランチャーを射撃する!!
加速している『フェネクス』には当たるはずもないが、弱った今なら命中するだろう?……この近距離なら、私たちごと爆炎が包むだろうがな?
そうだとしても、ゼリータ・アッカネン大尉は怯むことを知らない。至近距離にまで迫りながらの、グレネード・ランチャー。『フェネクス』はその想定外の攻撃に混乱していた。
翼での防御を行おうとしていたが、グレネード・ランチャーの砲弾は翼の間から入り込み、『フェネクス』の胴体に着弾し、巨大な爆炎を発生させている。
灼熱の嵐と共に、砲弾の破片が宇宙で暴れるように踊り、その余波をシナンジュ・スタインも浴びる……。
装甲の差は、シナンジュ・スタインの方が劣りもするが―――問題はない。連続してダメージと高熱を浴びせることが出来たなら、こちらの勝ちだ。
機械仕掛けは、熱にも衝撃にも弱い。それは、フル・サイコフレーム・モビルスーツが相手だとしても、同じコトだ。
「……さあて、行くぞ!!……接近戦で、仕留めてやるよ、不死鳥ッ!!」
サイコミュでのマニューバ入力は、接近戦でこそ、その大いなる能力を発揮する。シナンジュ・スタインは、爆撃の連鎖に苦しむ『フェネクス』に対して、ビーム・サーベルで激しく斬りかかっていく。
狙うのは、一つ。
コクピット・ブレイクだけだ。焼けて焦げた装甲に、ビーム・サーベルを叩き降ろす!!焼き払えばいい……本物のニュータイプ?……ありえない奇跡の力を発揮しているニュータイプ?……そんなムカつくヤツは焼き殺して、その翼、私のモノにしてやるんだ!!
バシュウウウウウウンンンッ!!
「……ッ!!」
強化人間の貌が、獣のように歪む。必殺の一撃は、防がれていた。ビーム・サーベル?……いや、ビーム・トンファーだ。
腕の中にハメ込められた『それ』が、水素色の光を放ちながら、光の刃たちは衝突し合っていた。
「受け止めやがったか!!そんな装備もあるってことまでは、地球連邦は教えちゃくれなかったよなあッ!!……でも、そんなものぐらいで、私たちの猛攻は止められやしないッ!!」
接近するために、自分の攻撃の反動まで受けた。不死鳥と一緒に燃やされながらも、この間合いに接近した。逃がしはしない。
私は、お前を狩る!!そして、名誉と……その光速の翼を、もらい受ける!!
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