ACT115 『ストレガ・ユニット/終焉』
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
気合いを叫びながら、ジュナとナラティブは一体化する!!サイコスーツが両者を接続し、ガンダムはジュナのために完璧な斬撃を放つ!!
ビーム・サーベルがオーバーコートを衝突させられたことにより、怯んでいた『ネームレス2』に対して叩き込まれる!!
……しかし。浅い。
ビーム・サーベルの一撃が斬り落としたのは、『ネームレス2』の右腕一つであった。『ネームレス2』は、迫り来るビーム・サーベルに対して、自ずから右腕を振り回し、衝突させることで斬撃の勢いを殺していたのである。
その瞬間に、右腕は斬り落とされてしまってはいたが、回避運動を刻むための極小の時間は確保することに成功していたのだ。
「……クソッ!!」
ジュナは舌打ちする。間合いを取られてしまった……これでは、敵の動きが読めない。見えているモノが真実なのか、サイコ・ジャックが生み出している幻想なのか。判断がつかなくなってしまう……。
『右腕を代わりにして、窮地を脱したというのか……』
『やるねえ。パイロットのテクニック由来の動きだぜ、今の動きはよ……?』
凄腕どもは『ネームレス2』に搭乗しているパイロットの腕を褒めていた。
彼らには、彼女の腕前が、ジュナ・バシュタ少尉よりもはるかに上なことが分かる。機体性能だって、『ネームレス2』の方が上だ……しかし、ガンダムだからだろうか?
『しかし……まさか、あのコートの中身が、ガンダムだとはな……しかも、何だ、あの機体。νガンダムにそっくりじゃないか』
『νガンダム。アムロ・レイが最後に乗っていた機体か。あんなに痩せていたのか?』
『……いいや。もっと大柄だった。あの機体は、フレームが剥き出しだ。そのせいで、華奢に見える』
『問題はないさ。ガンダリウム合金だ、運動性能を支持するための、強固な骨格はある。姉ちゃん、さっきのボクシングの要領で、攻めまくっちまえ!!』
「……言われなくても、分かっているわよ!!」
ジュナはナラティブにマニューバを打ち込む。身軽となったナラティブは、ジェスタに迫るほどの運動性を見せる―――片腕となり、全身の装甲にダメージを負っている『ネームレス2』の動きになら、今ならば十分に競り合えるほどだ。
格闘戦の才能も、ある。上の下というところかもしれないが……短期間の特訓は、ジュナ・バシュタ少尉に眠っていた戦士としての才能を開花させていた。
「ナラティブ、仕留めるわよ、コイツをおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
ビーム・サーベルの間合いを信じて、ジュナはナラティブと共に突撃する!!
斬撃を放ち、放ち、放つ!!荒野の風をビームの残像が焦げ臭く焼き、『ネームレス2』は、その影を幾度となくナラティブの斬撃によって切り裂かれるが―――。
『―――回避されているな』
『サイコ・ジャックは有効みたいだぜ。姉ちゃんには幻が見えてるっぽい動きだ。まあ、相手さんも、姉ちゃんの機体がガンダムだと分かって動揺しているのかもしれない』
『そうかもしれない。あの機体は、連邦軍のモビルスーツ・パイロットにとって……いや、全てのモビルスーツ・パイロットにとって、特別な存在に他ならない』
……イアゴ・ハーカナ少佐はその自前の哲学に対して、まったくの疑問を持ってはいなかった。ガンダム。その存在は、伝説そのものだ。
もしも、自分の目の前に、いきなりガンダムが敵として立ちはだかったら?……それだけで、多くのパイロットは恐怖を抱くだろう。
パイロットが本能的に恐れ敬う存在、それが伝説のモビルスーツ、ガンダムなのである。
……『ストレガ・ユニット』の稼働時間が増えるに比例して、『ネームレス2』の脳細胞への侵害は進んでいる。彼女は、狂い始めた脳で、目の前に現れたガンダムに対して、怯えてしまっていた。
『……ガンダム……ガンダムぅ……っ。アムロ・レイ、アムロ・レイ……っ!!』
『ネームレス2』は畏怖を抱いている。彼女もまた見たのである、かつての第二次ネオ・ジオン抗争の終末に、アクシズの落下を阻止する、アムロ・レイの存在を。
バケモノだと思った。そんなバケモノが……ガンダムが。
νガンダムにそっくりなモビルスーツが、彼女の目の前に敵として立ちはだかっている。恐怖で、体が震えた。
反応速度が遅くなる。だからこそ、ジュナにも付け入る隙を晒すのだ。
『ストレガ・ユニット』にも異変が起きている。それに搭載された子供たちの脳が、何度となくシミュレーションさせられ、模倣を促されるために演算を繰り返して来た存在。最強のパイロット、アムロ・レイ。
ニュータイプを模倣するための装置は、目の前に現れたガンダムにアムロ・レイを感じ取り、脳細胞たちは本能的な怯えを……いや、拒絶を行おうとする。
マルガ上級研究員のデザインに反して、彼女の後継者たちは『ストレガ・ユニット』にいらぬ感情を与え過ぎた。
組織への従順さ。『ストレガ・ユニット』が連邦軍の敵に渡った時を想定して、ガンダム・タイプとのモビルスーツ戦では、ユニットの生態部品に嫌悪感が発生するように再設定が施されている。
動きが鈍る……ジュナ・バシュタ少尉の目からは、幻が揺らぐのだ。
だが……消えかけの幻はリタ・ベルナルの形状を、ナラティブのコクピットに召喚する。苦悶に喘ぐ、十才のリタがそこにいる。首に両手を絡めながら、苦しげに、ぜひぜひ、と呼吸を鳴らす。
「……リタっ」
『ねえ……苦しい。苦しいわ、ジュナ……っ。私のこと……っ。ジュナまで、いじめるの……ねえ、ジュナ……っ!?』
「違うよ。私は、そんなことをするために、宇宙へ行くんじゃない。きっと、お前の苦しみを、終わらせるために行くんだ!!」
翡翠色の双眸に涙をあふれさせながら、ジュナは愛機にマニューバを打ち込む。サイコフレームには頼れない。
心は、拒絶してしまう可能性があるから。
だから、パイロットといしての経験値を頼りにして、機械的にマニューバを手動で入力していたのだ。
ナラティブガンダムはその細身を躍動させて、ビーム・サーベルを放つ。光の刃は闇を切り裂き、『ネームレス2』の……ジェスタの頭部を貫いていた。
そこには、あるはずだった。スワンソン大尉が見つけ出していた、感応波の射出装置が―――。
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