ACT106 『ストレガ・ユニット/装着者』
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッ!!!?」
入って来る!!
入って来る!!
入って来る!!
私のなかに、何かが、入って来ちゃってるっ!!……頭が痛いよう。体も痛いの。気持ち悪いし、吐きそうだ。か、体中が、ぞわぞわしている……っ!!体のなかに、長い虫でも這入って来ているみたい……っ!!コレ、何よ!?コレ、イヤだよう!!コレ……コレ……っ!!
―――HUDに表示される。『殲滅』、『殲滅』、『殲滅』……っ。
「い、言われないでも、わ、わかってる!!だ、だから、這入って、来ないでええええええええっ!!?ひゃ、ぐうううううっ!?」
頭のなかで、何かが、開いたような……頭のなかで、なにかが……はいって、それが、ふくらんで、わたしを……変えてるみたいな……っ。
私の機体の中に、軍が、勝手に『何か』を仕込んでいた……ッ!?……ああ、そんな!!そんな!!そなああ!!……ひどい、ひどい……こんな、こんな気持ち悪いモノを、私に、断りも無く、勝手に取りつけるなんて……っ!!
『殲滅』、『殲滅』、『殲滅』……。
「分かっているって、言ってるでしょう!?殺すから!!殺すから!!殺してやるから、黙れえええええええええええええッッッ!!!」
ジェスタに……いや、『バケモノ』に、肩に装着している大砲を、『ネームレス2』は発射させる。砲弾が、回避運動に入っていた『シェザール2』を狙って飛ぶが、外れてしまう。
「……クソっ。外した!!……っ!?」
ガクン!!
いきなり、『バケモノ』の脚に衝撃が走った。不穏な衝撃―――『ネームレス2』は、理解する。いくら何でも、機体が速く動きすぎているからだ。このパフォーマンスは、機体に対して諸刃の剣なのである。
敵を圧倒的な速度で攻められ分……己までもを壊していく。これは……あんな兵士に使うためのシステムじゃないんだ。そうだ……これ、ニュータイプ用の兵器だ。戦場で、ニュータイプに出会ったら、使うための兵器……っ。
「……私が、壊れても……ニュータイプもどきが死んでも……敵のニュータイプを倒せたら、悪いレートじゃないってことなのね……っ」
合理的……さすが、軍隊。
でも、だからといって、承服しかねる。私が、なんで……頭をこんなにグチャグチャにされなきゃならない!!……そもそも、ここには、いないだろ?……ニュータイプなんて、いない!!
「なのに!!……どうして、出て来やがった、この『バケモノ』がああああああッ!!」
目の前に。
目の前にいた。
『彼女』だ。
第二次ネオ・ジオン抗争のときに遭遇した、地球連邦軍の強化人間。私を見て、私じゃないヤツを感じながら……『久しぶり』って言いやがった、『バケモノ』!!ツギハギだらけの、壊れた体で!!薬物に穢され尽くした心で!!私に、『予言』をした女!!
「出て来るなあああああ!!リタ・ベルナル!!私に近寄るなあああああ!!」
HUDのなかに、彼女がいる。子供みたいに無邪気に笑っている。笑いながら、囁くのだ。その無邪気さからは、あまりにも遠い機械的に合成された声で。
『―――攻撃目標に、サイコ・ジャックを再開。認識を操作します。攻撃目標の状況把握に平均で3,2115秒の遅滞を発生させます。なお、この攻撃は『ストレガ・ユニット』独自の判断で行います。タイミングを指定することは、出来ません』
「……『ストレガ・ユニット』……っ。『魔女』だと……!?くそが!!わけのわからんものを、つけやがってええええええええええ!!」
『パイロットへ、冷静であることを推奨。戦闘時間の無駄な増大は、機体、パイロット、双方への不可逆的なダメージを増大することにつながります』
「わかっている。だから……出て来るなよっ!!私に、つきまとうな、リタ・ベルナル!!私は……お前の友だちなんかじゃ、ないだろうがッ!!」
『ネームレス2』の訓練された心と体は、機械的に動いていた。いかな精神的な苦境に立たされようとも、彼女の訓練は、彼女にパイロットでいさせてくれる。3,2秒があるのなら……それを、利用してやる。
マニューバを刻み、対象の左側へと突撃していく。反応がない。本当に、こっちの動きを認識していないみたい。
『おい!!左だ!!回り込まれているぞ、スワンソン!!』
『スワンソンくん、動け!!動け!!動け!!』
『――――え』
「……隙だらけなのよ、マヌケ!!」
素早く照準して、再び『シェザール2』に対して砲撃を放つ!!
夜の闇を弾丸は低く飛ぶ―――そして、その攻撃はスワンソン大尉の乗る『シェザール2』へと命中していた。爆炎が夜の闇を赤く焦がし―――ジェスタの腕が一つ、宙に飛んだことに『ネームレス2』は気づく。
「……次で、仕留めてやる――――――」
『―――お久しぶり!!』
「……ッッッ!!?」
リタ・ベルナルが囁いていた。ストレガ・ユニットに内蔵されている、彼女の脳の一部が。
かつて、オーガスタ研究所の手術で取り除かれていた、彼女の精神の欠片が……輝くように無邪気な笑顔で、また、その言葉を告げていた。もちろん、『ネームレス2』ではない。今、コクピット内に浮かぶ、幻想の少女は……虚空を見つめていた。
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