ACT088 『ジェガン対ジェスタ その3』
俊敏な動作で宙に愛機を跳ねさせながら、イアゴ・ハーカナ少佐も反撃を開始する。バルカン砲にはバルカンで応えてやるよ!!
バルルルルルルルルルルルルルッ!!
狙ったのは、後方に待機していた二機のジェガンに対してだった。性能差がある。
音が違ったから、正規品のバルカン砲を、あの機体どもは搭載しちゃいないようだが……ジェスタのバルカン搭載スペースの方が基本設計の段階で大きい。オレのバルカン砲の方が、リーチも威力も精度も上だ!!
ドガガガガガガガガガガガガガガッッ!!
固まっていた二機のジェガンに対して、ダメージを負わせていく。バルカン砲はいつ撃たれるか分からない。
威力は高いものじゃないが……シェザール隊仕様の弾丸は、特殊な徹甲弾を使用している。『不死鳥狩り』に備えて、全機に搭載しているのだ。並みの装甲ならば、容易く貫く。
『うわああああああーっ!!』
『くそ、こっちは、爆装しているんだぞっ!?』
「―――だからだよ、ひよっこども」
二機のジェガンがバルカン砲のダメージと、己の武装が撃ち抜かれることに恐怖を感じる。
地上軍装備は、火薬式を好む。何故か?……軍のお偉いさんたちが、地上の大気で精度が揺らぐビーム兵装を嫌っていることと―――贔屓にしている業者が、違うからってのが通説だ!!
イアゴ・ハーカナ少佐はジェスタを前傾姿勢にさせながら、スラスターを使い。牽制射撃に対して、こちらの期待以上も怯んでくれた二機の獲物へと襲撃していく!!
加速し、左にスライドするというフェイントをマニューバし、ジェガンらのビームライフルを回避する。
タイミングと軌道を掌握する。ビームサーベルで斬れる、この二体のうち、どちらか一体は仕留められる。
スワンソンの弔いが出来るというものだッ!!……また、オレよりも先に部下を、オレよりも若い戦友を殺しやがってッ!!
―――死ね、まずは、一人、斬り殺してやるぞッ!!
『ひいいいいいいいいーッ!!』
『こ、殺されるううううッ!!』
「そうだ、まずは一人―――――――ッ!!?」
ドガアアアアアアアアアアンンンンンッッッ!!!
機体に衝撃が走る。投げつけられた飛行ユニットを、サーベルで斬った瞬間、残存していた燃料が爆発してしまったらしい。
あのジェガンだ。あの妙に強いジェガンが、オレが分離させた飛行ユニットをけりやがったのか!!フットボールの真似事を、モビルスーツでやるなんてなあッ!!
「器用なマネをしやがるぜッ!!」
『……まあな』
爆炎の向こうから、ショットガンの弾が飛び込んでくる。しかし、回避のためのマニューバは入力済みだ。
イアゴ・ハーカナ少佐のジェスタは、フレームの強さに依存した足さばきを用いて、機体に降り注ぐはずだったショットガンの弾を躱した。
だが、完全にではない。幾つかの破片が、機体に衝撃とダメージを与えている。全方位が見られるハズのモニターの一部が、映像を失う。機体のあちこちに仕込んでいるカメラが幾つか壊されたのだ。
『……器用なのは、お前さんの方だろ?』
「ふん!!……お前は、誰だ!!」
『誰でもないさ。名前なんて、戦闘中には不必要だろ?……オレちゃんは、ヤベー敵ちゃんに名前をお知らせするようなマヌケじゃない』
「さぞや、名のある男か?」
『いいや。無名でも、お前さんより強いパイロットぐらいいるよ』
「……たしかにな。少し、天狗になっていたかもしれん!!」
ジェスタを加速させる。攻撃ではなく、回避するために。二機のジェスタが、ライフルを撃ちまくっている。
威力を制限しつつ、弾数を増やしている……?器用な装備だが、壊れやすそうだな。
オーストラリアの赤い土を削り上げながら、イアゴ・ハーカナ少佐の愛機は回避運動の舞いを遊ぶように展開していた……。
「雑魚ではないが、中の上といったところか。連携は見事だが、お互いに依存するような射撃。仲間に頼り過ぎていては、真の高機動を実践するモビルスーツには、当てることなど叶わんぞ!!」
『……オレも普段から、そんな風に言っているんだがよ。どうにも、このマヌケなツインズは要領が悪くてね』
『そんなこと、言ってねえぞー!!』
『大尉は、嘘つきすぎるだろッ!!』
『ハハハハ。まあ、心のなかでは、いつもカッコいい言葉で、君らを励ましている。そんなカッコいい大人上司なんだけどなあ!!』
ふざけているのか?……イアゴ・ハーカナ少佐はそう考えるが、すぐに認識をあらためる。冷静さを取り戻させたのかもしれない。
三機の連携は、さっきよりも落ち着いている。明らかに……動きが良くなった。平常心?……たしかに、部下のことを、よく知っている上司なのかもな。あの二人には、お似合いの上司だ。
……どうやら、オレよりも、あのジェガンの大尉は視野が広くて冷静であるようだ。
『……バカども、射撃中止だ!!』
『えーっ!?』
『今、いいカンジになってた!!追い詰められそうだったのに!!』
文句を言いながらも、大尉殿には従うらしい。3機のジェガンは争いを止めていた。
その理由は分かる。オレたちは……ムダな戦いをしている場合ではなくなった。この三機のジェガンは、友軍機だ。
「……ルオ商会の手下だな」
『……フリーランスだ。彼らの飼い犬ではないが、自由とマネーを求めて、必死に生き抜こうとしている』
「気づいているな?」
『ああ。ミノフスキー粒子を撒かれたな……双子ども、よく聞け。オレたちは囲まれつつある。6体のジェスタにな。この機体は、オレたちの仲間。ルオ商会の犬だよ』
「……ただの連邦軍人だ。ルオ商会の犬じゃない」
『そうかい。ともかく、どうだっていい。問題は……ムダな戦いで、かなり消耗しちまっているってことだ』
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