ACT085 『場違いな三人組』
『大尉、マジでここでいいんすかー?』
『荒野のド真ん中で、ムチャクチャ目立つっすよ?』
「……いい的になる。それを心配しているのだとすれば、オレは隊長としてお前ら双子どものモビルスーツ・パイロットとしての成長を喜んでやるとしようじゃないか」
『喜ばれても、昇給の査定にも影響がないっすよねー』
『じゃあ、喜ばれ損っすわ』
「おい、言うに事欠いて、損ってことはないだろ?お前らバカとアホのハイブリッドどもが成長したんだぞ?……ソレは、お前、あれだ。奇跡ってヤツみたいだと思わないのか?」
『教官が悪いんじゃないっすかねー』
『指導するヒトがアレだから、オレたちの成長も遅かったんじゃないっすか?』
「……はあ。お前ら、オレの部下になった日に訊いただろ?……オレは、楽して日々を過ごすことに全力を注ぐタイプだから、熱心にパイロットとしての腕を磨いて出世したいとかいうタイプなら、さっさと配置転換を申し出ろよと?お前らは、オレの部下でいいと言った」
『だって。怠惰な指揮官の下なら、ダラダラ過ごすことが許されると思ったんすよー』
『そしたら、兵隊以外の仕事を手伝わされて、色々と苦労させらましたよね』
「……ちゃんと、分け前は与えていただろうが?……文句言うんじゃねえよ。オレは搾取はしてないぜ。苦労はさせたけど」
『悪徳業者みたいっすー』
『慰謝料とか取れるんじゃねえの、オレたち?』
「難しい言葉を使うな。アホとかバカのヒトには、そういう難しくてややこしい法律は向いちゃいねえんだよ」
『……言いくるめられてるきがするっすわー』
『オレたち、ホント、これでいいのかねえ……』
「……少なくとも、今日はつるんどけ。三人で連携できれば、少しは戦える……あと、見張ってろ。一人頭120度だけでいいんだ。気楽なもんだろ?」
……ジェガン三機で荒野に立ったまま、脱走兵たちは合流時間を待っている。
省電力モードにしながら、電波解析の上では一般の通信施設のそれを放っているのだ。高度な分析をされない限りは、肉眼を用いた索敵でなければ、彼らのジェガンは見つからない。
モビルスーツという存在は隠れることに長けてはいるのだ―――通信施設の電波を回収して模倣し、発信する。古典的なカムフラージュだが、これが存外有効である……。
……とはいえ、完璧からは程遠い。広いから目立たない?アホみたいな安心しか得られないな。
隊長も双子たちと同じように不満を感じてはいた。見晴らしのいい平野部に棒立ち。遮蔽物がなさ過ぎる。
もしも、敵が索敵を始めたら?……敵からは丸見えだ。もちろん、こちらからも敵の接近は見つけやすいという利点は同じではあるが―――戦力が分が悪すぎる。
ジェスタ6機に、こちらは格下のジェガン3機……双子の腕も悪くはないが、倍の戦力で格上の機体と戦うようなことになれば、双子の命を失う可能性は少なからずあった。
オレはともかく、コイツらも生かそうとすると難易度が極端に上がる。
6機のジェスタ……このポイントで合流させられるってことは、オレたちが護衛する予定の連中ってのは、ジェスタと戦うための戦力か―――しかし、討伐隊じゃないわけだよな。ルオ商会絡みの戦力だってことは……。
……何だか厄介で、きな臭いことに巻き込まれているってのは分かる。逆に言えば、それだけしか分からねえんだがな。
どうなっているんだよ、一体……?ルオ商会め、地球連邦軍を自分の都合で動かしている?……ああ、かなりの大物が絡んでいそうだよなぁ。
「……クソ、せめて、早いこと日が沈むか……あるいは、さっさと護衛対象が来ることを祈るばかりか」
『護衛対象に守ってもらおうとしてませーん?』
『だせえっすよ、それ、大尉?』
「……うるせえよ。わざわざ、ジェスタ6機がいるところに向かおうってんだ。丸腰じゃねえはずだ。高性能なモビルスーツがいる……他の護衛機もな」
『そいつらとチーム組むことになるんすかー?』
『初対面のヤツらとチームって、好きじゃねえんすよ、オレ』
「オレだってそうだが……好き嫌いを言っている場合じゃない。オレたちの人生もそれなりに切羽詰まってはいるが……ルオ商会の連中も、マズいことに首突っ込んでいそうだ」
『……オレたち、なんか午前中より状況悪くないっすかー?』
『ホントだよ、大尉のせいで、また状況が悪くなってるような?』
「……考えようだ。天下のルオ商会と縁が出来る。いくらでも金を持っている連中だぞ?そのギャラは大きい。傭兵に転職するのも有りだしな……」
……元ジオンのモビルスーツ・パイロットだって雇うんだ。ルオ・ウーミンって男は器がデカそうだよ。
もしもの時に備えて、暴力をキープしようっていうことかもしれないが……お近づきになりたいような、なりたくないような。微妙なトコロじゃある御仁だろうよ。
どうあれ。
さっさとチームを組みたい。6対3より、もっとマシな数で固まっていたいところだ―――。
『大尉ーっ!!レーダーに感有り!!……やべーっすよ。ジェスタが二機、こっちに向かっている!!』
「……サイアクだぜ」
『大尉、どうするんですか!?』
「……お前ら、援護しろ。場合によっては、オレちゃん、可愛い部下たちのために、2対1で戦ってみるぜ……ひさーしぶりに、本気で戦うしかなさそうだ」
『おお。カッコいいぜ、ひさしぶりにー!』
『大尉がオレたちの盾だぜ!!』
「……ちっ。言っただろ、場合によってはと……アレが、敵じゃない可能性もある。オレたちが護衛する対象の護衛って場合だ」
『……そっかー』
『どうするんすか?……先手を打っていいなら、一機は沈められるぜ?』
「……一応、演技をしてみるよ。あっちの対応次第では……右に見えるヤツを一斉攻撃する。あっちのが、弱いからな」
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