ACT072 『合流』
そういう思想家みたいな発言を、好むヤツじゃなかったよーな……いや、一年戦争の頃は、そんなキャラクターだったかもしれん。若さが前に出ていたからな。
オレ、よく殺されなかったもんだ。『正義』があれば、夢は叶うと考えていた。
「スペースノイドの夢を追いかけていた若者らしく、新たな目標を見つけたのか?」
『……違うな。こいつは、イデオロギーじゃない。ただの、オレの個人的なライフスタイルのハナシに過ぎん』
「生きるに相応しい場所ね?」
『そうだ。そういう場所を求めているだけのことだ。そのためには、少々、血を流す必要がある……そのためには、駒がいる。オレが探していて駒として……お前の腕前は実に相応しい』
「……オレに誰を殺させたいんだろうなぁ」
『どこまでも落ちぶれていく覚悟があるんだろ?』
「……火星に行きたい。人生をそこでやり直したいよ」
『いつかはそこに行くがいい。そのための足を用意してやってもいいが……オレの駒として、しばらく動け』
「……しばらくってのは、いつまでだ?」
『1週間ほどだ。オレの戦争は、それだけあれば、問題なく終わる』
「戦争ね」
『お前みたいな器用な殺し屋が力を貸してくれるのなら、一瞬で終わるかもしれない』
「……関わりたくないハナシだ」
『火星にもジオンの系譜は生えている。そこにお前を紹介してやることは、オレにも出来るぞ。ヘリウム3を現金化することもな』
「……ルオ商会の後ろ盾をくれるか」
『ああ。オレの出来ることを、色々としてやろう―――どうだ?……地球連邦軍に、お前たちの居場所を密告することも、オレには出来るし……ルオ商会に務める、一企業人としては、そちらの方が常識的な反応だ』
「……脅すなよ。お前たちの作戦を潰すぞ」
『潰せるほどの力はない』
「……図星だけど。正論ばかり言ってると、嫌われちまうんだぜ?」
『お前に好かれたいわけではないが、お前の腕は買っている。それで、どうする?選べ。通報されるか、無謀な嫌がらせを実行して犬死にするか……オレと協力関係を築くか』
「……ろくでもない選択肢だな」
『お前の人生が反映されている、自業自得な選択肢だろう。オレを利用したいのなら、お前もオレに利用されるのがスジってもんだろうが』
「……追い詰められている大親友にかける言葉としては、涙が出て来るねえ」
『ふん。ムダ話が過ぎるぞ。どうするんだ?……オレと組むのか?組まないのか?』
……ああ。組むとさらに自分の人生がろくでもないことになるわけだが、この状況で孤立化するのは笑えん。
ヘリウム3を現金化してくれるというのなら、願ったり叶ったりでもある。
大量のヘリウム3を売り渡す相手が、大企業であるのなら……何ともビジネスが楽になる。コツコツと個人営業の店に持ち込んでいくよりは、はるかに楽だ。
それに、宇宙への切符。何なら、火星への切符か。火星ジオン軍に入って、火星人の大金持ちとして生きて行くのも、楽しそうだ。若い嫁をもらって、ガキを四人ぐらい育ててみる人生も、悪くはない。
「……組むぜ、クソ野郎」
『そうか、クソ野郎。歓迎する。オレの野望に、ようこそ』
「素敵な言葉だ。で、クソ野郎。オレはどうすればいい?」
『……お前のことだ、偽装はしているな?』
「ジェガンはオーストラリア配備軍のカラーリングをしている。肩には元気なイルカさんのマークをつけているさ。架空の部隊……『パワフル・ドルフィンズ』だ」
『冗談みたいな名前だな。子供のスポーツ・チームのようだ』
「冗談だったんだよ。上手く隠れて動けば、使う必要のない名前だ。2秒で考えたら、こんなもんだろ」
ネットワーク上にデータとして存在していればいいわけでな。オーストラリア配備の連邦軍に遭遇した時、自軍だと考えてもらえれば、それで良かったんだが……。
「……それで、どうすればいい?」
『指定の場所に迎え。そこで、後から送信する周波数で、接近して来る部隊と連絡を取ればいい。お前たちは、オレの上司が手配した護衛部隊ということにする』
「……ふーん。やって来るヤツらを護衛するのか?そいつらは、何だ?」
『命令の詳細を知らない兵士。よくある仕事だろ。お前は、オーストラリア配備軍の兵士であり、ルオ商会に尻尾を振る軍人の部下ってことだ』
「何も知らない兵隊さんをすればいいのか?……騙すなよ?」
『オレは嘘はつかん。知っているだろ?……騙さないさ。お前は、オレの仕事に必要になるそうな駒なんだよ』
「……了解。信じるぜ、大親友よ。その部隊と合流した後は、エスコートしながら情報を収集、お前に後から報告してやるよ」
『そうしてくれ。場合によれば、戦闘に巻き込まれるかもしれないが、お前なら死なないだろ』
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