十六章 カーラ帝国潜入
「……っう、いってぇ……」
王宮から港まで車で移動、移動はちょっとしたパレードのような雰囲気になり、ダジュールとクラウディアは笑みを作りながら手を振る。
その横で、時折こめかみを押さえながら「痛い痛い」とボヤくダジュールがいた。
「二日酔いの症状ね。薬、飲んでみた?」
「は? これから船出だって時に、みっともないこといえるか」
「酔い止めと二日酔いの薬は別物よ。とにかく、そんな調子で船に乗るなんて無理。船医にすぐ調合していただきましょう」
飛行艇を使い移動した方が時間もかからないのだが、カーラ側がそれを拒んだだめに船旅となってしまった。
船でカーラまで半月ほどだろうか。
クラウディアはいろんな国を旅したこともあり、船にも飛行艇にも乗ったことがあるのに対し、ダジュールはほとんど自国をでたことがない。
当然、船旅は初めてである。
案の定、港を出てそう時間も経たないうちに船酔いに陥ってしまう。
「信じられない。とても穏やかな波なのに? 荒波になったらどうするの?」
「うるさい、少し黙っていてくれ。畜生、アーノルドのやつ。うまく交渉しないからこうなるんだ」
「アーノルドのせいにしては失礼よ。警戒心が強いって言われていたでしょう? 本当なら陸路、汽車で来いと言われても仕方ないのよ」
「むしろ、そっちの方が俺はよかったよ」
「もう、子供みたいなこと言わないで」
「はいはい。それより、昨夜はどこに行っていた?」
「覚えたの?」
「記憶が飛ぶほど酒に酔わされてはいない」
「養父のところ。次会えるのはいつかわからないから。最後になるかもしれないでしょう?」
「……なっ、なにをいうんだ、縁起でもない。俺が守る。おまえだけは絶対にレイバラルに戻す」
「守るって、そんな船酔いをしていて?」
「ばかにするな! こんなもの、すぐに慣れてやる」
などと強がってはいたが、船旅のほとんど船酔いに悩まされたのである。
運が良かったことといえば、波が荒れることなく終始穏やかであったことだ。
※※※
レイバラルを出て半月後、船はカーラ帝国の軍用港に到着する。
物々しい警備の中、優男風の者が先頭に立ち、ふたりの上陸を歓迎する。
「ようこそカーラ帝国へ。レイバラル王ならび王妃様。長旅、お疲れさまです。わたくしはおふたりの通訳・世話係の任を任されましたロナウドと申します。爵位は伯爵」
「伯爵……軍関係ではないのか?」
「他国の王と王妃をお迎えするのに軍人が仕切るなど野蛮というものでしょう。それとも、そちらをご希望ですかな?」
「いいえ、お気遣いありがとうございます。こちらはダジュール=レイバラル王。わたしはクラウディア・レイバラルと申します。滞在の間、よろしくお願いいたしますね」
クラウディアは天使か女神かという笑みを浮かべる。
黄金色の髪がキラキラと輝き、見るものの視線を釘つげにした。
「王妃様の御髪の色は、わが国の色に近いですね。カーラと交友のある国の出ですか?」
「すみません。実はわたし、出身国がわからないのです」
「どういうことでしょう?」
黄金の髪に魅せられたロナウドはさらに踏み込んでくる。
こうなることを予測していなかったため、口裏を合わせてはいない。
あとで綻びがでるような難しい設定にはしたくないが、これといっていい案が浮かばない。
するとダジュールが軽く肩に触れてきた。
「先の戦争で難民を受け入れましてね。その際、親を失った彼女を先代の王のいとこが養女にして育てたのです。そんな経緯ですので、彼女は祖国を知りません。あまり触れられたくないことだと思いますので、これ以上は……」
「それは、とても失礼なことを伺ってしまいました。てっきり、どこかの国の姫君をめとられたとばかり」
「いいえ、今回が特別であっただけで、本来は国同士の友好を深くするために王族の結婚があるものだと思っています」
「そうですか。そうですよね。では、クラウディア妃はとても特例ということですね。だとしてもわかります。とても綺麗な御髪をしてらっしゃる。手元におきたくもなりますね」
ロナウドは自分の失言が許されたことに気が緩み始める。
クラウディアの脳裏に養父であるケイモスの言葉が過ぎった。
たぶん、目の前にいるロナウドは自分たちにとって敵である。
軍人嫌いを設定しているが、王族の結婚観や地位で人を判断する人。
軍人嫌いは偽り、もしかしたら軍人でもあり伯爵でもあるのかもしれない。
「おっとすみません。立ち話ばかりは失礼でしたね。そろそろ移動致しましょう。車の用意があります。今夜は王宮敷地内にある離れの屋敷でお過ごしください。明日、帝王との謁見を調節した後、王宮内にお部屋をご用意させていただきます」
事前にこの日程でと告げてあり、カーラからも了承を得ているはずである。
それなのにまだ調整ができず、それまで離れの屋敷で寝泊まりをしろというのだ。
一国の王と王妃が来ているというのに!
カーラにとって我々こそが世界一であるという自信の現れなのかもしれない。
王宮から港まで車で移動、移動はちょっとしたパレードのような雰囲気になり、ダジュールとクラウディアは笑みを作りながら手を振る。
その横で、時折こめかみを押さえながら「痛い痛い」とボヤくダジュールがいた。
「二日酔いの症状ね。薬、飲んでみた?」
「は? これから船出だって時に、みっともないこといえるか」
「酔い止めと二日酔いの薬は別物よ。とにかく、そんな調子で船に乗るなんて無理。船医にすぐ調合していただきましょう」
飛行艇を使い移動した方が時間もかからないのだが、カーラ側がそれを拒んだだめに船旅となってしまった。
船でカーラまで半月ほどだろうか。
クラウディアはいろんな国を旅したこともあり、船にも飛行艇にも乗ったことがあるのに対し、ダジュールはほとんど自国をでたことがない。
当然、船旅は初めてである。
案の定、港を出てそう時間も経たないうちに船酔いに陥ってしまう。
「信じられない。とても穏やかな波なのに? 荒波になったらどうするの?」
「うるさい、少し黙っていてくれ。畜生、アーノルドのやつ。うまく交渉しないからこうなるんだ」
「アーノルドのせいにしては失礼よ。警戒心が強いって言われていたでしょう? 本当なら陸路、汽車で来いと言われても仕方ないのよ」
「むしろ、そっちの方が俺はよかったよ」
「もう、子供みたいなこと言わないで」
「はいはい。それより、昨夜はどこに行っていた?」
「覚えたの?」
「記憶が飛ぶほど酒に酔わされてはいない」
「養父のところ。次会えるのはいつかわからないから。最後になるかもしれないでしょう?」
「……なっ、なにをいうんだ、縁起でもない。俺が守る。おまえだけは絶対にレイバラルに戻す」
「守るって、そんな船酔いをしていて?」
「ばかにするな! こんなもの、すぐに慣れてやる」
などと強がってはいたが、船旅のほとんど船酔いに悩まされたのである。
運が良かったことといえば、波が荒れることなく終始穏やかであったことだ。
※※※
レイバラルを出て半月後、船はカーラ帝国の軍用港に到着する。
物々しい警備の中、優男風の者が先頭に立ち、ふたりの上陸を歓迎する。
「ようこそカーラ帝国へ。レイバラル王ならび王妃様。長旅、お疲れさまです。わたくしはおふたりの通訳・世話係の任を任されましたロナウドと申します。爵位は伯爵」
「伯爵……軍関係ではないのか?」
「他国の王と王妃をお迎えするのに軍人が仕切るなど野蛮というものでしょう。それとも、そちらをご希望ですかな?」
「いいえ、お気遣いありがとうございます。こちらはダジュール=レイバラル王。わたしはクラウディア・レイバラルと申します。滞在の間、よろしくお願いいたしますね」
クラウディアは天使か女神かという笑みを浮かべる。
黄金色の髪がキラキラと輝き、見るものの視線を釘つげにした。
「王妃様の御髪の色は、わが国の色に近いですね。カーラと交友のある国の出ですか?」
「すみません。実はわたし、出身国がわからないのです」
「どういうことでしょう?」
黄金の髪に魅せられたロナウドはさらに踏み込んでくる。
こうなることを予測していなかったため、口裏を合わせてはいない。
あとで綻びがでるような難しい設定にはしたくないが、これといっていい案が浮かばない。
するとダジュールが軽く肩に触れてきた。
「先の戦争で難民を受け入れましてね。その際、親を失った彼女を先代の王のいとこが養女にして育てたのです。そんな経緯ですので、彼女は祖国を知りません。あまり触れられたくないことだと思いますので、これ以上は……」
「それは、とても失礼なことを伺ってしまいました。てっきり、どこかの国の姫君をめとられたとばかり」
「いいえ、今回が特別であっただけで、本来は国同士の友好を深くするために王族の結婚があるものだと思っています」
「そうですか。そうですよね。では、クラウディア妃はとても特例ということですね。だとしてもわかります。とても綺麗な御髪をしてらっしゃる。手元におきたくもなりますね」
ロナウドは自分の失言が許されたことに気が緩み始める。
クラウディアの脳裏に養父であるケイモスの言葉が過ぎった。
たぶん、目の前にいるロナウドは自分たちにとって敵である。
軍人嫌いを設定しているが、王族の結婚観や地位で人を判断する人。
軍人嫌いは偽り、もしかしたら軍人でもあり伯爵でもあるのかもしれない。
「おっとすみません。立ち話ばかりは失礼でしたね。そろそろ移動致しましょう。車の用意があります。今夜は王宮敷地内にある離れの屋敷でお過ごしください。明日、帝王との謁見を調節した後、王宮内にお部屋をご用意させていただきます」
事前にこの日程でと告げてあり、カーラからも了承を得ているはずである。
それなのにまだ調整ができず、それまで離れの屋敷で寝泊まりをしろというのだ。
一国の王と王妃が来ているというのに!
カーラにとって我々こそが世界一であるという自信の現れなのかもしれない。
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