妖刀、八龍
「・・・」
ユノは、少し驚いたように立ち止まると、ひなのを振り返った。
「・・・そんなことを気にしていたのか?
・・・変な奴だな。もちろん、我々も人間だ」
・・・そっかぁ、人間なんだ。
同じ人間には見えないけどな・・・
大した会話は、しなかった。
向こうも口数が多くないようだし、ひなのも楽しくおしゃべりする気なんて、サラサラなかったから。
そのうち、その城とやらへ着いてしまった。
6階建の古い建造物だ。
門のあちこちに、龍みたいな石像がくっついている。
「・・・着いた」
ユノはそれだけ言う。
分かってる。黙ってついてこいってことでしょう。
城には門番などおらず、中に入っても大して多い人はいなかった。
すれ違う何人かは、ギョッとした目で振り返る。
ひなのは気にしないふりをした。
城の中はぐっと明るく、板張りの床も磨き上げられている。
障子貼りの部屋を通り過ぎ、黒い階段を上がって行った。
つくづく、思う。
私、こんなところで本当に何してるの・・・?
何してるんだろう。未だに夢かもしれないって、淡い期待を寄せてるの。でも、違う・・・よね。
連れて行かれた部屋は4階の、あまりにも広い部屋だった。
「ここでいつも、皆とともに飯を食べる」
聞いてもいないのに、ユノは説明した。確かに、今は誰もいない部屋には長いテーブルが、縦に並べられていた。
五十人くらいは入りそう・・・そんな気がする。
「・・・さて、ここまで黙って連れて来たが」
ユノはずっと前を向いていた顔を、やっと体ごと振り返らせた。
ぶるっと武者震いが走る。
・・・この人、本当に人じゃないみたいですごく苦手だ。
「人がいない場所を選んだ。
確かめたいことがある」
ユノはそう言うと、腰に収めた刀にすっと手を伸ばした。
・・・嘘でしょ!?・・・ここまでついてきて、斬られるの・・・?!何?!なんなの?!
ユノは静かに歩いてくる。
逃げればいいのか、叫べばいいのか・・・
こんな時どうしたらいいのか全然分からない。
・・・きっと私今、人生で一番焦った顔してる。
・・・来る!
しなやかな動きで、刀がバッと動かされた。
とっさに両手で顔を覆った。
・・・これが、斬られる時の私の反応なんだ。
かっこ悪いな・・・
・・・堂々と、まっすぐに立っていれたらー・・・
・・・ん?
「・・・」
「・・・」
「・・・何してる」
ユノはひなのの目の前で、刀を横にして持っている。
一人芝居のように、怯えるひなのにユノは少し呆れたようだった。
「・・・これが見えるか?」
「・・・なんですか・・・?殺されるのかと思った・・・」
絶対寿命が縮まった自信がある。
「これが、見えるのかと聞いている」
ユノの声が少し強くなった。
ちょっと待ってよ、こっちは本当に心臓止まりそうで、まだバクバクしてるのに・・・
「刀のこと、ですか?」
それ以外には何も見当たらない。
目の前に、深紅の柄をした長い刀が一つ。
もちろん、本物の刀なんて人生で初めて見た。
「・・・見えるのか。
どんな刀だ、答えてみろ!」
だんだん、脅迫みたいな声色になってきた。
「どんなって・・・えっと、細くて長くて・・・
持ち手の部分は赤みたいなえんじ色みたいな・・・」
「・・・他には?」
「なんか、桜みたいな花のキーホルダーみたいのが付いてます」
この人、何を言わせるんだろう?
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・あの」
言わせておいて無言ですか?
ユノはただだまってひなのを見据え、終いにはため息をついた。
「・・・そうか。お前がな・・・」
ユノはゆっくりと、刀を鞘に収めた。
「この刀はな、妖刀、八龍(はちりゅう)だ。
操れる者にしか見えん」
「・・・え」
えっと、つまり・・・
「あの、私見えました。でもその刀はあなたの物です」
「そうだ。この世に存在する妖刀は数知れないが、刀一つにつき一人の男と一人の女が操れる。
・・・と言われている。
それ以外の者に、刀は見えん。
皆そうだ」
「・・・」
「・・・」
「・・・ごめんなさい、よく分からないです」
日本語がわからなかったわけではない。その事実、その事情を受け入れられない。わけのわからない話は、やめて欲しいと思った。
「この八龍は」
ユノはひなのの言葉が、聞こえなかったかのように続ける。
「二つの力を持つと言われている。
俺の目に、この刀がどう映るか教えておこう。
・・・黒い柄、黒い刃、ぶら下がる黒い数珠・・・全て真っ黒だ。
お前の見えた刀とは違う・・・この違いが、何だか分かるか・・・?」
本当に、何言ってるのこの人。
何が言いたいの・・・?
私に、何を言わせたいの・・・?
「・・・何が、言いたいのですか?」
「俺にないものを、お前が持っているということだ。
妖刀の、もう一つの力を開花させるものを。
俺の力は、"無感情"。
だからこそ、この刀で人を斬れるし、この町で最強と言われる存在になった。
・・・何もないんだ、俺には。
だから、刀は真っ黒にしか見えない」
・・・あぁ、そう言うこと・・・
だからこの人のこと、すごく嫌だと思ったんだ。
怖いとか、そんなんじゃない。
何も感じないから、冷たくて、静かで・・・
「お前の力を、欲しいと思う。
俺にない力。妖刀のもう一つの力ー・・・」
ユノは、少し驚いたように立ち止まると、ひなのを振り返った。
「・・・そんなことを気にしていたのか?
・・・変な奴だな。もちろん、我々も人間だ」
・・・そっかぁ、人間なんだ。
同じ人間には見えないけどな・・・
大した会話は、しなかった。
向こうも口数が多くないようだし、ひなのも楽しくおしゃべりする気なんて、サラサラなかったから。
そのうち、その城とやらへ着いてしまった。
6階建の古い建造物だ。
門のあちこちに、龍みたいな石像がくっついている。
「・・・着いた」
ユノはそれだけ言う。
分かってる。黙ってついてこいってことでしょう。
城には門番などおらず、中に入っても大して多い人はいなかった。
すれ違う何人かは、ギョッとした目で振り返る。
ひなのは気にしないふりをした。
城の中はぐっと明るく、板張りの床も磨き上げられている。
障子貼りの部屋を通り過ぎ、黒い階段を上がって行った。
つくづく、思う。
私、こんなところで本当に何してるの・・・?
何してるんだろう。未だに夢かもしれないって、淡い期待を寄せてるの。でも、違う・・・よね。
連れて行かれた部屋は4階の、あまりにも広い部屋だった。
「ここでいつも、皆とともに飯を食べる」
聞いてもいないのに、ユノは説明した。確かに、今は誰もいない部屋には長いテーブルが、縦に並べられていた。
五十人くらいは入りそう・・・そんな気がする。
「・・・さて、ここまで黙って連れて来たが」
ユノはずっと前を向いていた顔を、やっと体ごと振り返らせた。
ぶるっと武者震いが走る。
・・・この人、本当に人じゃないみたいですごく苦手だ。
「人がいない場所を選んだ。
確かめたいことがある」
ユノはそう言うと、腰に収めた刀にすっと手を伸ばした。
・・・嘘でしょ!?・・・ここまでついてきて、斬られるの・・・?!何?!なんなの?!
ユノは静かに歩いてくる。
逃げればいいのか、叫べばいいのか・・・
こんな時どうしたらいいのか全然分からない。
・・・きっと私今、人生で一番焦った顔してる。
・・・来る!
しなやかな動きで、刀がバッと動かされた。
とっさに両手で顔を覆った。
・・・これが、斬られる時の私の反応なんだ。
かっこ悪いな・・・
・・・堂々と、まっすぐに立っていれたらー・・・
・・・ん?
「・・・」
「・・・」
「・・・何してる」
ユノはひなのの目の前で、刀を横にして持っている。
一人芝居のように、怯えるひなのにユノは少し呆れたようだった。
「・・・これが見えるか?」
「・・・なんですか・・・?殺されるのかと思った・・・」
絶対寿命が縮まった自信がある。
「これが、見えるのかと聞いている」
ユノの声が少し強くなった。
ちょっと待ってよ、こっちは本当に心臓止まりそうで、まだバクバクしてるのに・・・
「刀のこと、ですか?」
それ以外には何も見当たらない。
目の前に、深紅の柄をした長い刀が一つ。
もちろん、本物の刀なんて人生で初めて見た。
「・・・見えるのか。
どんな刀だ、答えてみろ!」
だんだん、脅迫みたいな声色になってきた。
「どんなって・・・えっと、細くて長くて・・・
持ち手の部分は赤みたいなえんじ色みたいな・・・」
「・・・他には?」
「なんか、桜みたいな花のキーホルダーみたいのが付いてます」
この人、何を言わせるんだろう?
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・あの」
言わせておいて無言ですか?
ユノはただだまってひなのを見据え、終いにはため息をついた。
「・・・そうか。お前がな・・・」
ユノはゆっくりと、刀を鞘に収めた。
「この刀はな、妖刀、八龍(はちりゅう)だ。
操れる者にしか見えん」
「・・・え」
えっと、つまり・・・
「あの、私見えました。でもその刀はあなたの物です」
「そうだ。この世に存在する妖刀は数知れないが、刀一つにつき一人の男と一人の女が操れる。
・・・と言われている。
それ以外の者に、刀は見えん。
皆そうだ」
「・・・」
「・・・」
「・・・ごめんなさい、よく分からないです」
日本語がわからなかったわけではない。その事実、その事情を受け入れられない。わけのわからない話は、やめて欲しいと思った。
「この八龍は」
ユノはひなのの言葉が、聞こえなかったかのように続ける。
「二つの力を持つと言われている。
俺の目に、この刀がどう映るか教えておこう。
・・・黒い柄、黒い刃、ぶら下がる黒い数珠・・・全て真っ黒だ。
お前の見えた刀とは違う・・・この違いが、何だか分かるか・・・?」
本当に、何言ってるのこの人。
何が言いたいの・・・?
私に、何を言わせたいの・・・?
「・・・何が、言いたいのですか?」
「俺にないものを、お前が持っているということだ。
妖刀の、もう一つの力を開花させるものを。
俺の力は、"無感情"。
だからこそ、この刀で人を斬れるし、この町で最強と言われる存在になった。
・・・何もないんだ、俺には。
だから、刀は真っ黒にしか見えない」
・・・あぁ、そう言うこと・・・
だからこの人のこと、すごく嫌だと思ったんだ。
怖いとか、そんなんじゃない。
何も感じないから、冷たくて、静かで・・・
「お前の力を、欲しいと思う。
俺にない力。妖刀のもう一つの力ー・・・」
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