第47話
◇ ◇ ◇ ◇
シールド残量0を知らせる機械音声が、背後から聞こえる。
振り向いてみれば、そこには孟徳さんの拳を小太刀で防ぐ冠の姿。
「孔明、これはどういうことだ」
「…………」
答える代わりに、俺はにやりと笑みを浮かべる。
「にょわ!? 敵!?」
孟徳さんのはるか後方からは、夏口妹の声。
夏口妹には、伏兵のうち、十五名を向けている。
そして、孟徳さんを取り囲むように、二十五名の兵が展開していた。
「……伏兵か。孔明、汚いぞ!」
「申し訳ありません。ですが、これは戦争です。汚いなんてないんですよ」
「……ま、正論だな」
拳を構える。
「だが孔明、約束はどうした?」
「……約束は、また今度達成します。今のままじゃ、どうやっても勝てそうにないですからね」
「……そうか」
「孟徳さまぁーっ!」
突如、包囲していた兵の一角が崩れる。
「鳶姫か」
「はいさい! 夏口鳶姫、華麗に参上!」
「なっ!? ここまでどうやって? 夏口妹の方にも、十五名ほど兵を……」
「あーあの雑魚たち? 倒したわよ? らくしょーらくしょー」
薙刀を振り回しながら、疲れた様子もなく答える夏口妹。
「残念だったな孔明。ま、ここにいる鳶姫も、今部隊の指揮を執っている弦姫も、そして私も、そう簡単にはやられないんだ。鳶姫、孔明以外の雑魚を片づけろ」
「ほいほい! 覚悟してね?」
途端、夏口妹の姿が消える。
「あっ」
と言う間に、
『うわぁつ!?』
『ぬはっ!?』
『んぎもぢぃいいっ!?』
包囲していた兵が、全員倒れた。
「殲滅かんりょー!」
「ご苦労だったな、鳶姫」
「にへへ。ちょろいちょろい」
「さて、とっとと倒れたものは消えろ」
織館の兵士が体育館から去っていく。残ったのは、俺と、孟徳さんと夏口妹の三人のみ。
「さて、形勢逆転だな。どうする?」
「…………」
どさっと、その場に座り込む。
「……今回は俺の負けだ」
「……今回は?」
「ああ。今回は、ね」
「ふむ……それは、次回があったら勝てると言うことか?」
「当然だ」
「……ふむ」
顎に手を当て、何かを考えるようなしぐさをする孟徳さん。
「……鳶姫」
少しの間の後、口を開く。
「ん。あたしはいいよ」
「本当か?」
「うん! 孟徳さまの性格はよくわかってるし。あたしだって、強敵と戦いたいしね。まあ、正直大帝国学園と戦うまでは、消化試合感があったことだし」
「……そうか。このこと、弦姫には」
「だいじょーぶ! お姉ちゃんには言わないから」
「ん。……孔明」
「なんですか?」
「……約束、これからもずっと忘れるなよ?」
孟徳さんが、拳を構え、正拳突きを放った。
『シールド残量が0になりました。討死です』
大分聞きなれてきた機械音声が、体育館内に響き渡った。
えぴろーぐ
『今をもちまして、仲山劉華を正式に生徒会長と認めます』
『はいっ! ありがとうございます!』
全校集会。
校長が、ステージ上で仲山と対面していた。
今日を持って、仲山は臨時ではなく、正式に生徒会長となることが決まった。
生徒の95%が、仲山を支持した結果だ。
「劉華ちゃん、嬉しそうですわね」
「ああ」
一年一組の列に並びながら、俺と冠は喜びを分かち合っていた。
こうして普通に冠と話せるようになるなんて、夢のようだ。
『それでは、新生徒会長として、新生徒会役員を指名します!』
「ま、これからが本番なわけですが」
「だな。頑張らないと」
『生徒会副会長、竹中孔明!』
「はい!」
『生徒会会計、冠美羽!』
「はいっ!」
『生徒会書記、喜多村実里』
「……はい!」
『…………。生徒会庶務、司馬仲達』
「なんか今迷ったよね!? 一瞬迷ったよね!? ――コホン、はいっ!」
『以上四名と、私、仲山劉華が、新たな生徒会となります。みなさま、学校の運営に力を貸してください!』
『『『『『『『 はいっ! 』』』』』』』
こうして、新生徒会は始動し始めた。
◇ ◇ ◇ ◇
「竹中孔明」
「ん……なんだ、冠か」
帰宅しようと下駄箱で靴を履きかえていたら、後ろから声をかけられた。振り向けば、そこには冠の姿。
「どした?」
「……お前、本当に早倉孟徳を倒したのか?」
「……なはは」
「……倒してないのか」
実は、あの時孟徳が放った拳は、俺ではなく、孟徳さん自身に打ち込まれた。
孟徳さんは討死ということになり、生徒会長を倒したので戦争は終了となった。
『今後二週間は攻め入ることができないが、それが過ぎた後は……わかっているな?』
と孟徳さんは言い残して、去って行った。
そんな感じで、勝ちを譲ってもらったようなものなのだが、校内どころか喜多村曰く学園都市中で『竹中孔明が早倉孟徳を倒した』と噂になっているらしい
おかげで俺は一躍ヒーローだ。
「……なるほどな」
「ま、勝ちは勝ちだ」
「ま、たしかにな」
「用事はそれだけか?」
「……いや、これはおまけだ。本題は別にある」
「なんだ?」
「……屋上に行け。劉華ちゃんが、呼んでる」
「……仲山が?」
「ああ。……じゃ、伝えたからな」
言い残して、仲山は昇降口から去っていく。
珍しい、あいつが仲山と一緒に帰らないなんて。
「屋上、ね」
もしやと淡い期待を抱きながら、俺は屋上へと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇
「どした? 仲山?」
「きてくれたんですね、孔明くん」
「ああ」
屋上で、金網に寄りかかりながら俺を待っていたであろう仲山。
その表情は、どこか決意と覚悟が読み取れる。
……まさかな。
「あの、孔明くん。わたし、孔明くんに伝えたいことがあるんです」
「伝えたいこと?」
「はい」
俯く仲山。
そのまま、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「その、わたし、小学校のころから一人ではなにもできなくて……そのせいでいじめられてましたよね……」
「……まあ、な」
いじめがあったのは本当だけど、理由は男子全員仲山のことが好きだったからなんだよなぁ。
「そんなとき、孔明くんが助けてくれたこと、今でも覚えています。あのときは、本当にありがとうございました」
「……ああ」
「わたし、ちゃんとそのお礼が言いたかったんです。転校しちゃって今まで言えませんでしたし、再会したときも言えませんでしたし」
「そっか。ん、どういたしまして、かな」
「はい。それと、もう一つ。この学校に来てから、わたしに力を貸してくれてありがとうございます」
「……いや、これは俺が好きでやってることだから」
「それでも、です!」
「……わかった。どういたしまして」
「はい! その、わたし、まだ明るく素敵で、みんなの中心にいるような女の子になれていません。ですから、約束は待っていてくれませんか?」
「……ああ。いつまでも待つよ」
「はい! ありがとうございます! はふぅ……き、緊張した」
「おいおい、そんなにか?」
「はいぃ……まだ男の子と話すのは慣れてなくて……その、少し休んでから帰るので、先に帰っていてもらえませんか?」
「……ん。わかった。じゃ、また明日な、仲山」
「はい。また明日です」
挨拶を交わした後、俺は屋上を後にする。
「……きです、孔明くん……」
背後から、そんな声が聞こえてきた気がした。
こうして、学園都市に入学して最初の一カ月は終わった。
最初は織館高校での学校生活に不安しか抱いていなかったけど、なんとかやっていけそうだ。
俺も、生徒会役員として頑張っていかないとな。
いつの日か、約束を叶えるために。
《了》
シールド残量0を知らせる機械音声が、背後から聞こえる。
振り向いてみれば、そこには孟徳さんの拳を小太刀で防ぐ冠の姿。
「孔明、これはどういうことだ」
「…………」
答える代わりに、俺はにやりと笑みを浮かべる。
「にょわ!? 敵!?」
孟徳さんのはるか後方からは、夏口妹の声。
夏口妹には、伏兵のうち、十五名を向けている。
そして、孟徳さんを取り囲むように、二十五名の兵が展開していた。
「……伏兵か。孔明、汚いぞ!」
「申し訳ありません。ですが、これは戦争です。汚いなんてないんですよ」
「……ま、正論だな」
拳を構える。
「だが孔明、約束はどうした?」
「……約束は、また今度達成します。今のままじゃ、どうやっても勝てそうにないですからね」
「……そうか」
「孟徳さまぁーっ!」
突如、包囲していた兵の一角が崩れる。
「鳶姫か」
「はいさい! 夏口鳶姫、華麗に参上!」
「なっ!? ここまでどうやって? 夏口妹の方にも、十五名ほど兵を……」
「あーあの雑魚たち? 倒したわよ? らくしょーらくしょー」
薙刀を振り回しながら、疲れた様子もなく答える夏口妹。
「残念だったな孔明。ま、ここにいる鳶姫も、今部隊の指揮を執っている弦姫も、そして私も、そう簡単にはやられないんだ。鳶姫、孔明以外の雑魚を片づけろ」
「ほいほい! 覚悟してね?」
途端、夏口妹の姿が消える。
「あっ」
と言う間に、
『うわぁつ!?』
『ぬはっ!?』
『んぎもぢぃいいっ!?』
包囲していた兵が、全員倒れた。
「殲滅かんりょー!」
「ご苦労だったな、鳶姫」
「にへへ。ちょろいちょろい」
「さて、とっとと倒れたものは消えろ」
織館の兵士が体育館から去っていく。残ったのは、俺と、孟徳さんと夏口妹の三人のみ。
「さて、形勢逆転だな。どうする?」
「…………」
どさっと、その場に座り込む。
「……今回は俺の負けだ」
「……今回は?」
「ああ。今回は、ね」
「ふむ……それは、次回があったら勝てると言うことか?」
「当然だ」
「……ふむ」
顎に手を当て、何かを考えるようなしぐさをする孟徳さん。
「……鳶姫」
少しの間の後、口を開く。
「ん。あたしはいいよ」
「本当か?」
「うん! 孟徳さまの性格はよくわかってるし。あたしだって、強敵と戦いたいしね。まあ、正直大帝国学園と戦うまでは、消化試合感があったことだし」
「……そうか。このこと、弦姫には」
「だいじょーぶ! お姉ちゃんには言わないから」
「ん。……孔明」
「なんですか?」
「……約束、これからもずっと忘れるなよ?」
孟徳さんが、拳を構え、正拳突きを放った。
『シールド残量が0になりました。討死です』
大分聞きなれてきた機械音声が、体育館内に響き渡った。
えぴろーぐ
『今をもちまして、仲山劉華を正式に生徒会長と認めます』
『はいっ! ありがとうございます!』
全校集会。
校長が、ステージ上で仲山と対面していた。
今日を持って、仲山は臨時ではなく、正式に生徒会長となることが決まった。
生徒の95%が、仲山を支持した結果だ。
「劉華ちゃん、嬉しそうですわね」
「ああ」
一年一組の列に並びながら、俺と冠は喜びを分かち合っていた。
こうして普通に冠と話せるようになるなんて、夢のようだ。
『それでは、新生徒会長として、新生徒会役員を指名します!』
「ま、これからが本番なわけですが」
「だな。頑張らないと」
『生徒会副会長、竹中孔明!』
「はい!」
『生徒会会計、冠美羽!』
「はいっ!」
『生徒会書記、喜多村実里』
「……はい!」
『…………。生徒会庶務、司馬仲達』
「なんか今迷ったよね!? 一瞬迷ったよね!? ――コホン、はいっ!」
『以上四名と、私、仲山劉華が、新たな生徒会となります。みなさま、学校の運営に力を貸してください!』
『『『『『『『 はいっ! 』』』』』』』
こうして、新生徒会は始動し始めた。
◇ ◇ ◇ ◇
「竹中孔明」
「ん……なんだ、冠か」
帰宅しようと下駄箱で靴を履きかえていたら、後ろから声をかけられた。振り向けば、そこには冠の姿。
「どした?」
「……お前、本当に早倉孟徳を倒したのか?」
「……なはは」
「……倒してないのか」
実は、あの時孟徳が放った拳は、俺ではなく、孟徳さん自身に打ち込まれた。
孟徳さんは討死ということになり、生徒会長を倒したので戦争は終了となった。
『今後二週間は攻め入ることができないが、それが過ぎた後は……わかっているな?』
と孟徳さんは言い残して、去って行った。
そんな感じで、勝ちを譲ってもらったようなものなのだが、校内どころか喜多村曰く学園都市中で『竹中孔明が早倉孟徳を倒した』と噂になっているらしい
おかげで俺は一躍ヒーローだ。
「……なるほどな」
「ま、勝ちは勝ちだ」
「ま、たしかにな」
「用事はそれだけか?」
「……いや、これはおまけだ。本題は別にある」
「なんだ?」
「……屋上に行け。劉華ちゃんが、呼んでる」
「……仲山が?」
「ああ。……じゃ、伝えたからな」
言い残して、仲山は昇降口から去っていく。
珍しい、あいつが仲山と一緒に帰らないなんて。
「屋上、ね」
もしやと淡い期待を抱きながら、俺は屋上へと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇
「どした? 仲山?」
「きてくれたんですね、孔明くん」
「ああ」
屋上で、金網に寄りかかりながら俺を待っていたであろう仲山。
その表情は、どこか決意と覚悟が読み取れる。
……まさかな。
「あの、孔明くん。わたし、孔明くんに伝えたいことがあるんです」
「伝えたいこと?」
「はい」
俯く仲山。
そのまま、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「その、わたし、小学校のころから一人ではなにもできなくて……そのせいでいじめられてましたよね……」
「……まあ、な」
いじめがあったのは本当だけど、理由は男子全員仲山のことが好きだったからなんだよなぁ。
「そんなとき、孔明くんが助けてくれたこと、今でも覚えています。あのときは、本当にありがとうございました」
「……ああ」
「わたし、ちゃんとそのお礼が言いたかったんです。転校しちゃって今まで言えませんでしたし、再会したときも言えませんでしたし」
「そっか。ん、どういたしまして、かな」
「はい。それと、もう一つ。この学校に来てから、わたしに力を貸してくれてありがとうございます」
「……いや、これは俺が好きでやってることだから」
「それでも、です!」
「……わかった。どういたしまして」
「はい! その、わたし、まだ明るく素敵で、みんなの中心にいるような女の子になれていません。ですから、約束は待っていてくれませんか?」
「……ああ。いつまでも待つよ」
「はい! ありがとうございます! はふぅ……き、緊張した」
「おいおい、そんなにか?」
「はいぃ……まだ男の子と話すのは慣れてなくて……その、少し休んでから帰るので、先に帰っていてもらえませんか?」
「……ん。わかった。じゃ、また明日な、仲山」
「はい。また明日です」
挨拶を交わした後、俺は屋上を後にする。
「……きです、孔明くん……」
背後から、そんな声が聞こえてきた気がした。
こうして、学園都市に入学して最初の一カ月は終わった。
最初は織館高校での学校生活に不安しか抱いていなかったけど、なんとかやっていけそうだ。
俺も、生徒会役員として頑張っていかないとな。
いつの日か、約束を叶えるために。
《了》
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