再び外へ
取り出したのは途中の駅で購入した甘いお菓子だった。
元に戻れたら同じものを弁償するとクロードが約束をしたことで、それ以外を口にしないときめ、検証に入った。
※※※
「これで本当に物語を疑似体験してしまうことになってしまったわね」
「ライザさん?」
「ああ、べつにシャールを責めているわけじゃないのよ? まさかこんな展開で体験することになるなんて……と思っただけ。主人公はなぜ朝食を食べたのかしらね。だって怪しいじゃない。まあ、食べてしまった私たちもだけど」
「食べられるものが目の前にあったら、食べてしまうと思います。飢えは怖いですから」
「シャール……」
「あ、いえ、別に。私もそこまで追い込まれたことはないです。だけど、日々の食事が減っていくのを感じてしまうと、いずれ飢えがくるって思うんです。怖いから考えないようにするのですけど」
乾きと飢えは、銃弾を浴びるよりも身近な恐怖だとハンクがいう。
「日常的かつ、生命の命の源だからな。ただ、俺は飢えよりも乾きの方が恐怖だ」
古来より、水は重宝されていた。
川や湖を巡り、幾度となく戦いが起きている。
「そうなると、今回はそのあたりの心理も責めているのかもしれないわね」
「ああ、そうだな。自滅、発狂、そのあたりが目的なのかもしれない」
「ハンクは本当に心当たりはないの?」
「ケイン以外でか? 軍人や擬神兵ということで敵視はされているだろうが、手段を選ばすしかけられる心当たりはないな」
「……そうよね。で、八方塞がり」
「焦るな、ライザ。結果はふた晩先だ」
「ええ……」
そしてふた晩が明けた朝がやってきた。
※※※
館に入って三度目の朝は、クロードの第一声で始まる。
「ケイン!」
ケインという名にライザが反応し、ベッドから飛び起きる。
「シャール。あなたはここにいて」
小型の護身銃の安全バーを外してから部屋の外に出た。
彼女たちの使っていた部屋は出入り口から一番遠い部屋であった。
下に向かうには階段を使うしかなく、そこまで向かう。
階段のすぐ側の部屋は、クロードとハンクが使用していた。
その部屋の扉は開けっ放しで、中には人の気配はない。
クロードの声を聞き、ハンクも下に向かったのだろう。
ライザは気配を気にしながら階段を下る。
その先はテーブルや暖炉がある場所になるが、そこに人の気配はない。
「ちょっと、どういうことよ。どこにいるのよ」
シャール以外の気配がまったくない。
「ハンクはともかく少佐の気配がないって、どういうこと?」
戦闘要員並の感覚は持ち合わせていないが、訓練を受けていない人よりはある。
とくにクロードとは行動を共にしていた時間は長く、また声は聞いているのだから聞こえる範囲にはいるはずなのに、それが感じられない。
ハンクは意識して気配を消すくらいのことはできる。
それを感じ取れと言うのは無理な注文だ。
そしてクロードの気配を感じ取れないことで導き出される答えはひとつしかない。
「まさか、外に出たの?」
シャールの仮説に同意して、不自然に出現する料理には手を出していない。
彼女の仮説が正しければ、すでに抜けきり幻影から解放されるはずであるが、まだ館の中にいることから解き放たれてはいない。
その状況の中で外に飛び出しているとしたら……
クロードは再び荒野の激戦を目の当たりにし疑似体験しているということになる。
だが気になることがある。
どこで、どのようにしてケインを見たか、だ。
「少佐! ハンク!」
館の中に脅かすような敵はいないと判断したライザは声をあげる。
ここがシャールの見ている幻影で共有状態にあれば、安全であるからだ。
ライザはふたりの名を呼びながら館の中を捜す。
その声にシャールは、ケインが出現したらしいこと以外の不安を抱く。
ここに残るように言われたからには、その指示に従った方が正しいのはわかる。
戦闘に突入してしまっては、いくら銃の腕に自信があっても、シャールは民間人で素人なのだ。
軍人、ましてやケインは擬神兵でもある。
人並み以上の能力の持ち主を相手に、対等に渡り合えるはずがないし、ライザたちの足手まといになるのは確実。
しかし、それでも、シャールはただじっとライザの指示に従って隠れていることはできなかった。
「……ライザさん?」
そぉーと、シャールは部屋から出る。
下の方から声がしたので、階段へと移動、そしてハンクが使っていた部屋の扉が開いていたので覗いてみた。
「ハンクさん? いないんですか? 入りますよ?」
ハンクであれば、多少の小声でも聞き取れているはずであるが、反応がないということはいないのだろう。
であれば、なにも室内に入る必要はないのだが、なぜか気になってしまったシャールはさらに奥へと入っていった。
ベッドは使った形跡がある。
たしかに、少し前までここに人がいた形跡はあるのだが、なぜだろうか……その人の存在がこの世界から消されていくような感じがした。
「ハンクさん! 少佐! ダメです、そっちに行ったら!」
元に戻れたら同じものを弁償するとクロードが約束をしたことで、それ以外を口にしないときめ、検証に入った。
※※※
「これで本当に物語を疑似体験してしまうことになってしまったわね」
「ライザさん?」
「ああ、べつにシャールを責めているわけじゃないのよ? まさかこんな展開で体験することになるなんて……と思っただけ。主人公はなぜ朝食を食べたのかしらね。だって怪しいじゃない。まあ、食べてしまった私たちもだけど」
「食べられるものが目の前にあったら、食べてしまうと思います。飢えは怖いですから」
「シャール……」
「あ、いえ、別に。私もそこまで追い込まれたことはないです。だけど、日々の食事が減っていくのを感じてしまうと、いずれ飢えがくるって思うんです。怖いから考えないようにするのですけど」
乾きと飢えは、銃弾を浴びるよりも身近な恐怖だとハンクがいう。
「日常的かつ、生命の命の源だからな。ただ、俺は飢えよりも乾きの方が恐怖だ」
古来より、水は重宝されていた。
川や湖を巡り、幾度となく戦いが起きている。
「そうなると、今回はそのあたりの心理も責めているのかもしれないわね」
「ああ、そうだな。自滅、発狂、そのあたりが目的なのかもしれない」
「ハンクは本当に心当たりはないの?」
「ケイン以外でか? 軍人や擬神兵ということで敵視はされているだろうが、手段を選ばすしかけられる心当たりはないな」
「……そうよね。で、八方塞がり」
「焦るな、ライザ。結果はふた晩先だ」
「ええ……」
そしてふた晩が明けた朝がやってきた。
※※※
館に入って三度目の朝は、クロードの第一声で始まる。
「ケイン!」
ケインという名にライザが反応し、ベッドから飛び起きる。
「シャール。あなたはここにいて」
小型の護身銃の安全バーを外してから部屋の外に出た。
彼女たちの使っていた部屋は出入り口から一番遠い部屋であった。
下に向かうには階段を使うしかなく、そこまで向かう。
階段のすぐ側の部屋は、クロードとハンクが使用していた。
その部屋の扉は開けっ放しで、中には人の気配はない。
クロードの声を聞き、ハンクも下に向かったのだろう。
ライザは気配を気にしながら階段を下る。
その先はテーブルや暖炉がある場所になるが、そこに人の気配はない。
「ちょっと、どういうことよ。どこにいるのよ」
シャール以外の気配がまったくない。
「ハンクはともかく少佐の気配がないって、どういうこと?」
戦闘要員並の感覚は持ち合わせていないが、訓練を受けていない人よりはある。
とくにクロードとは行動を共にしていた時間は長く、また声は聞いているのだから聞こえる範囲にはいるはずなのに、それが感じられない。
ハンクは意識して気配を消すくらいのことはできる。
それを感じ取れと言うのは無理な注文だ。
そしてクロードの気配を感じ取れないことで導き出される答えはひとつしかない。
「まさか、外に出たの?」
シャールの仮説に同意して、不自然に出現する料理には手を出していない。
彼女の仮説が正しければ、すでに抜けきり幻影から解放されるはずであるが、まだ館の中にいることから解き放たれてはいない。
その状況の中で外に飛び出しているとしたら……
クロードは再び荒野の激戦を目の当たりにし疑似体験しているということになる。
だが気になることがある。
どこで、どのようにしてケインを見たか、だ。
「少佐! ハンク!」
館の中に脅かすような敵はいないと判断したライザは声をあげる。
ここがシャールの見ている幻影で共有状態にあれば、安全であるからだ。
ライザはふたりの名を呼びながら館の中を捜す。
その声にシャールは、ケインが出現したらしいこと以外の不安を抱く。
ここに残るように言われたからには、その指示に従った方が正しいのはわかる。
戦闘に突入してしまっては、いくら銃の腕に自信があっても、シャールは民間人で素人なのだ。
軍人、ましてやケインは擬神兵でもある。
人並み以上の能力の持ち主を相手に、対等に渡り合えるはずがないし、ライザたちの足手まといになるのは確実。
しかし、それでも、シャールはただじっとライザの指示に従って隠れていることはできなかった。
「……ライザさん?」
そぉーと、シャールは部屋から出る。
下の方から声がしたので、階段へと移動、そしてハンクが使っていた部屋の扉が開いていたので覗いてみた。
「ハンクさん? いないんですか? 入りますよ?」
ハンクであれば、多少の小声でも聞き取れているはずであるが、反応がないということはいないのだろう。
であれば、なにも室内に入る必要はないのだが、なぜか気になってしまったシャールはさらに奥へと入っていった。
ベッドは使った形跡がある。
たしかに、少し前までここに人がいた形跡はあるのだが、なぜだろうか……その人の存在がこの世界から消されていくような感じがした。
「ハンクさん! 少佐! ダメです、そっちに行ったら!」
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