接触者
無言で圧を示されると、どのような態度をとれば正解なのかがわからなくなる。
ハンクなら「かまわない」というだろうし。
聞かれて困る内容なら、シャールのいる前で緊急事態とは言わないだろう。
「シャールなら問題はない」
案の定、ハンクはシャールを気にしている者にそう告げ、用があるなら早く言えと急かす。
「それでは、ここだけの話として聞いてください」
つまり、民間人の耳には入れるな……ということなのだろう。
「それでしたら、中に入りませんか?」
シャールが三人の男たちに入るようにいう。
もともとハンクを招きいれるつもりだった。
そのハンクに用があるという軍人、ハンクはシャールの同席は問題ないという。
ならば、全員がシャールの客室に入るのがベストだろう。
「そうだな」
一度は渋ったハンクだが、シャールを囲ってごつい男が三人もいれば不振に思われるだろう。
ハンクはシャールの招きを受け入れ先に入る。
続いて軍人のふたりがはいり、最後にシャールが扉をしめ、あいている椅子に腰を下ろした。
「先にもいいましたが、ここだけの話でお願いします」
「ああ」
口を開くのは最初に声をかけた者だけのようだ。
「そちらのお嬢さんも……」
「はい。わかっています」
「結構。では結論から先に言わせていただくが」
「ああ、かまわない」とハンク。
「荒れ地に突然木々が生える現象があることをご存じか?」
「……いや。はじめて聞く。それが緊急事態なのか?」
「上はそう判断をし、出陣を決定、その現場にウィザース少佐が向かっています。ちようど、この汽車の進路上に出現すると思われます。まあ、多少の誤差はあるかと思いますが」
「ほう。それで? 軍が対処するなら問題はないだろう? 民間乗客に知られることなく対処するってことだ」
「はい。その通りです」
「それで?」
「実は、その現象を起こしているのは擬神兵ではないか……と。情報の提示を求めるとのことです」
ハンクは「なるほど」と相手の言い分はもっともだと受け入れた。
受け入れたことで記憶を遡り、どう答えれば納得してもらえるかを思案する。
なぜなら、エレインが開発した擬神兵のすべてを熟知しているわけではない。
むしろ、エレインがいないいま、擬神兵を束ねているケインの方が詳しいだろう。
研究者や医師ではないハンクには、自分が見聞きしてきたこと意外は想像の範囲でしかない。
想像でいいなら、軍にでもできる。
泳がせている状態のハンクに接触してまで聞き出すことはしないだろう。
ハンクなら知っている……そう結論付けたのだ、軍は。
となれば、知っているにしろ知らないにしろ、納得してもらえるよう説明しなくてはならない。
いま、シャールを残して別行動をとるのは避けたい。
「では俺も、結論から言わせてもらうが、かまわないか?」
「かまいません」
「俺はエレインのような研究者ではないし、開発にも携わっていない。それを踏まえた上での結論だ。俺の知る限り、木々を操る擬神兵はいない」
「……ほう。知らない、ではなくいない。断言ですね」
「そうだ」
「つまり、擬神兵対策をとる必用はないと?」
「逆に聞くが、なぜ擬神兵だと思う? そもそも、擬神兵がなぜ誕生したかを考えれば自ずと結論はでるはずだ。軍は自然開発にも着手しているのか?」
戦争があればその土地は荒れる。
一度荒れた土地を元に戻すのには数年、数十年かかる場合もある。
もともと枯れていた土地を生活できるよう開発していくのは国、政治の分野で軍の管轄ではない。
とはいえ、枯れた土地を開発すれば問題は起き、争いに発展することもなくはない。
警備と称して軍を配備することはあっても、開発に関わることはまずない。
その土地を軍所有にするなどであれば別の話だが。
「……ふむ。たしかに。だが、我々末端が知らないだけで上層部ではそのような話もでているかもしれないとは思わないのか?」
「それこそ問題外だ。軍の末端が知らないことを民間人が知っている方が危険だろう」
「だが、あなたは元軍人で、擬神兵を従えていた隊長だった方だ」
「特殊部隊だったから、なんでも知っていると? 軍の情報部が掴んでもいないことを知っている方が危険ってものだろう」
この戦争はもうすぐ終わる……エレインはその情報を掴んでいたが、ハンクは聞かされるまで知らなかった。
隊長だから知らせるとは限らない。
情報管理はしなくてはならない、だからこそ伝えるべき人物は選ばれる。
ゆえに、隊長でなくても知ることができる者も存在するということだ。
「それも一理ですね。では、ケイン・マッドハウスという人物を加えみても同じことがいえますか?」
「……つまり、そちらはケインの仕業とも思っているわけか」
「危険分子ですからね」
「ケインがやっているのか否かについては断言できない。未知の部分が多い。そちらが掴んでいる情報と大差はないはずだ」
「彼がそれに類似した知識を得る可能性は?」
「どうだろうな。だが、俺よりは長けているんじゃないか? 仲間を出し抜くことができたあいつのやることは俺には理解できん」
ハンクなら「かまわない」というだろうし。
聞かれて困る内容なら、シャールのいる前で緊急事態とは言わないだろう。
「シャールなら問題はない」
案の定、ハンクはシャールを気にしている者にそう告げ、用があるなら早く言えと急かす。
「それでは、ここだけの話として聞いてください」
つまり、民間人の耳には入れるな……ということなのだろう。
「それでしたら、中に入りませんか?」
シャールが三人の男たちに入るようにいう。
もともとハンクを招きいれるつもりだった。
そのハンクに用があるという軍人、ハンクはシャールの同席は問題ないという。
ならば、全員がシャールの客室に入るのがベストだろう。
「そうだな」
一度は渋ったハンクだが、シャールを囲ってごつい男が三人もいれば不振に思われるだろう。
ハンクはシャールの招きを受け入れ先に入る。
続いて軍人のふたりがはいり、最後にシャールが扉をしめ、あいている椅子に腰を下ろした。
「先にもいいましたが、ここだけの話でお願いします」
「ああ」
口を開くのは最初に声をかけた者だけのようだ。
「そちらのお嬢さんも……」
「はい。わかっています」
「結構。では結論から先に言わせていただくが」
「ああ、かまわない」とハンク。
「荒れ地に突然木々が生える現象があることをご存じか?」
「……いや。はじめて聞く。それが緊急事態なのか?」
「上はそう判断をし、出陣を決定、その現場にウィザース少佐が向かっています。ちようど、この汽車の進路上に出現すると思われます。まあ、多少の誤差はあるかと思いますが」
「ほう。それで? 軍が対処するなら問題はないだろう? 民間乗客に知られることなく対処するってことだ」
「はい。その通りです」
「それで?」
「実は、その現象を起こしているのは擬神兵ではないか……と。情報の提示を求めるとのことです」
ハンクは「なるほど」と相手の言い分はもっともだと受け入れた。
受け入れたことで記憶を遡り、どう答えれば納得してもらえるかを思案する。
なぜなら、エレインが開発した擬神兵のすべてを熟知しているわけではない。
むしろ、エレインがいないいま、擬神兵を束ねているケインの方が詳しいだろう。
研究者や医師ではないハンクには、自分が見聞きしてきたこと意外は想像の範囲でしかない。
想像でいいなら、軍にでもできる。
泳がせている状態のハンクに接触してまで聞き出すことはしないだろう。
ハンクなら知っている……そう結論付けたのだ、軍は。
となれば、知っているにしろ知らないにしろ、納得してもらえるよう説明しなくてはならない。
いま、シャールを残して別行動をとるのは避けたい。
「では俺も、結論から言わせてもらうが、かまわないか?」
「かまいません」
「俺はエレインのような研究者ではないし、開発にも携わっていない。それを踏まえた上での結論だ。俺の知る限り、木々を操る擬神兵はいない」
「……ほう。知らない、ではなくいない。断言ですね」
「そうだ」
「つまり、擬神兵対策をとる必用はないと?」
「逆に聞くが、なぜ擬神兵だと思う? そもそも、擬神兵がなぜ誕生したかを考えれば自ずと結論はでるはずだ。軍は自然開発にも着手しているのか?」
戦争があればその土地は荒れる。
一度荒れた土地を元に戻すのには数年、数十年かかる場合もある。
もともと枯れていた土地を生活できるよう開発していくのは国、政治の分野で軍の管轄ではない。
とはいえ、枯れた土地を開発すれば問題は起き、争いに発展することもなくはない。
警備と称して軍を配備することはあっても、開発に関わることはまずない。
その土地を軍所有にするなどであれば別の話だが。
「……ふむ。たしかに。だが、我々末端が知らないだけで上層部ではそのような話もでているかもしれないとは思わないのか?」
「それこそ問題外だ。軍の末端が知らないことを民間人が知っている方が危険だろう」
「だが、あなたは元軍人で、擬神兵を従えていた隊長だった方だ」
「特殊部隊だったから、なんでも知っていると? 軍の情報部が掴んでもいないことを知っている方が危険ってものだろう」
この戦争はもうすぐ終わる……エレインはその情報を掴んでいたが、ハンクは聞かされるまで知らなかった。
隊長だから知らせるとは限らない。
情報管理はしなくてはならない、だからこそ伝えるべき人物は選ばれる。
ゆえに、隊長でなくても知ることができる者も存在するということだ。
「それも一理ですね。では、ケイン・マッドハウスという人物を加えみても同じことがいえますか?」
「……つまり、そちらはケインの仕業とも思っているわけか」
「危険分子ですからね」
「ケインがやっているのか否かについては断言できない。未知の部分が多い。そちらが掴んでいる情報と大差はないはずだ」
「彼がそれに類似した知識を得る可能性は?」
「どうだろうな。だが、俺よりは長けているんじゃないか? 仲間を出し抜くことができたあいつのやることは俺には理解できん」
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