志村妙
この前なんか、見回りから帰ってきたと思ったら。
指名手配中の攘夷浪士を捕えてきたり駐車違反を取り締まったり。
トシに積極的に物事について詳しく聞いている姿勢も見えた。
この江戸を守りたいという立派な志が高まったのだろうか。そういう志を持った立派な若者を育てるのが俺の役目。
俺もトシと一緒になって、いろいろと教えてやろうとしたが
ゴリラには教えてもらいたくないんで、大丈夫です。
と言われ断られてしまった。
勲しょんぼり。
さてさて、私、北条アリス。
今日は土方さんと市中見回りの日。
「今日も、平和ですねー」
「おい、もっとちゃんと目を配れ。一見平和な町並みの中にも、不穏な要素ってのはいくらでも見つかるもんだ」
「不穏な要素ですか……あ、例えばあれですか?」
私は指をさして土方さんに教える。
「なんだ?事件か?」
「総悟がバズーカで店を破壊してますね」
「……」
土方さんは顔を手で覆った後、黙って反対方向へと歩みを進めた。
「あいつ後で始末書……」
土方さんはため息混じりに呟く。
「ほっといていいんですか?」
「ああ……それより、北条。最近、頑張ってんじゃねーか」
珍しく土方さんが褒めてくれた。でも何の脈絡もなく言われたので少し戸惑う。
「え、あ、ありがとうございます。私……強くなりたいんです」
「強く?」
「はい」
深夜にあの男と会ってから、私は自分が何もできなかったことが悔しくて、男の言うように、次に会う時がきたら、真剣で戦ってやろうと考えていた。
私は隊士としての自覚も足りないと思った。無知な私が真選組に所属していることが申し訳なく、最近の私は積極的にいろいろと学んだりしていた。
「強く、か……十分備わっていると思うぜ、俺は」
土方さんは何を言っているんだ。女の私の力じゃ、強くなんてほど遠いというのに。
「そんな、まだまだで……」
「俺が言ってるのは、力とかじゃねー、心だ、心」
心?と首を傾げて聞くと、お前は、女にしては良い侍魂を持っている、と言ってくれた。
「まあ、何を思って強くなりたいと思ってるかはわからんが、無理はすんなよ」
「……はい」
一瞬珍しく穏やかだった土方さんの顔がすぐにいつものクールな表情に戻り、行くぞ、と急かしてきた。
前に、攘夷浪士が私の名前や記憶喪失だということをなぜ知っていたのかは、近藤さんがうっかり喋ったからだと土方さんが教えてくれた。
近藤さんにはもちろん、他のやつらにもお前のことを他言しないように厳重注意した。一応、万事屋にも。
あの攘夷浪士たちも他のやつらには喋ってねーようだから、安心してろ、と言われた。
……あの包帯の男は、なんで私の名前を知っていたんだろう。
やっぱり情報が漏れている?他の人から聞いた?
そんなんじゃ片付かない。
嫌だけど、あの男にはもう一度会う必要があると私は考えた。
今度は何もできなかった弱い私としてじゃなく、強い私として。
「あら?土方さんに、アリスちゃんじゃないですか。奇遇ですね」
ふと考え事をしていた顔を上げると、お妙さんの姿があった。
「こんにちは、お妙さん。あの、そちらの方は……?」
お妙さんの隣には、ポニーテールで、左目に眼帯をしている人が立っていた。
「僕は、柳生九兵衛。柳生家の時期当主だ。九ちゃんとでも呼んでくれ」
顔立ちが整っていて、素敵な人だなぁ。
「じゃあ、えっと、九ちゃん。よろしくね」
九ちゃんが手を差し出してきたので、私たちは握手をした。
凛としてて、なんだか王子様みたいな人だなぁ。
でも、この手。細くてきれいで女の子みたい……
「おい北条、道草食ってねぇでさっさと行くぞ」
仕事中だ、そう言い土方さんは握手をしている私の手を掴んだ。
その時、土方さんの手がわずかに九ちゃんに触れる。
「ぼ、僕に障るなァァァァァ!!」
「うおぉぉぉぉ!!」
土方さんは一瞬のうちにして、九ちゃんにより投げ飛ばされた。
あの土方さんを一撃で……
どうやらお妙さんが言うには、九ちゃんは男に触れられると拒絶反応を起こすらしい。
それにしても、この力はすごいな。
こんな小柄な体格のどこにいったいそんな力が……
「お妙さぁぁぁん!今日も美しいぃぃぃ!!」
ゴリラこと、近藤さんが突然現れ、お妙さんに飛びつこうとしていた。
「お前はどっから沸いて出てきてんじゃあぁ!うらぁあぁ!」
「ひでぶっ」
そんなゴリラに見事な蹴りをお見舞いするお妙さん。
ああ、この人も、こんな小柄な体格で、いったいどこにそんな力があるというのだろう。
その暴力さえなければ、黙っていれば美しいのに。
お妙さんはなんでこうも暴力的なんだろう。銀さんが前に、お妙さんのことをゴリラ女と言っていたことがあったが、今ならわからなくもない。
「あら?アリスちゃん。今、何を考えていたのかしら?」
「ひっ!いえ、何も思ってませんよ、何も。お妙さんがゴリラそっくりだとか、そんな全然、あは、あははは」
笑顔だけど何かが怖いよ、お妙さん。
お妙さんが怖かったので、私は足早にその場を去った。
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