第六十八話 誤解
奇声を上げて委員長代行を誘拐していった城ヶ崎シャーロットは、やがて一人で戻って来た。顔はいまだに赤い。
「どうした?」
「い、いえ。なんでもないです。乙女同士の会話なので、気にしないように……もう、委員長、気にしすぎだよね?……き、昨日のアレは、治療であって、いわゆるお医者さんゴッコってヤツなだけだもんね」
「言い方が良くない気もするぞ」
思春期の生徒たちには、恋バナはもちろん、より具体的な性のにおいを漂わせる単語は好奇心を誘引してしまう行いだ。
「そ、そうだね。ゴッコじゃないもんね。レンレンは、ちゃんと真剣に私に触れてくれたわけで」
「より誤解を生みそうなんだが」
誤解は確実に生まれていた。周囲の生徒たちの行動がやたらと緩慢になり、城ヶ崎シャーロットの発言に対して聞き耳を立てていることは明白であった。
「ちゃんと、痛くなくしてくれたし」
「捻挫の治療がな」
「うん。そうだよ、やさしくて、痛くないようにしてくれたから。安心して身を任すことが出来たというか」
「いい治療だった」
「そうだね。レンレン、いつも私にやさしいから好――――ええっと!?……その、あの……ゴハンを買いに行きましょう!レンレンの作ってくれた朝ゴハンは美味しかったけど、成長期だし、レンレンも昨夜、私のせいで疲れさせちゃっているし!?」
誤解が深まりそうだが……まあ、その状況を楽しめもするのが、雨宮蓮という少年でもある。
勘違いをしている周囲の生徒たちは、その顔を真っ赤にしてしまっているが、当事者である蓮は楽しんでもいる……モルガナがいれば注意をしただろうが、今はモルガナは不在なのだ。
「……ああ。城ヶ崎、昼メシを買いに行こう」
「う、うん。あ……お、おごるね?」
「なんで?」
「朝ゴハンとか、作ってくれたもん」
「そうだったな」
「してもらったから、してあげたくなるんですよ。それでも、いいでしょうか、レンレン?」
「ああ。それでいい。フェアなトレードだ」
「うん。そういう関係がいいなー、レンレンとはね、対等でいたいの。まあ、なんか助けてもらってばかりの私が言えたセリフじゃないけどね」
「―――あ、あのさ」
委員長代行が顔を赤らめた姿で、購買へと向かおうと教室を抜け出そうとしていた蓮と城ヶ崎シャーロットの前に立ちはだかる。
「い、委員長、女同士の会話は済んだはずでしょう!?」
「うん。城ヶ崎さんは、黙ってて」
「ええ……当事者なんですケド、私……?」
「今度は、雨宮くんにお話しがあります。ちょっとだけ、付き合ってもらえますかね?」
「告白か?」
「違います。そういうギャグは、状況を見て言ってくれませんかね?」
「すまない」
「じゃあ、ついて来てくれますね?」
「……城ヶ崎、少し、待っていてくれ」
「う、うん。い、委員長、あまり、レンレンに変なコトを吹き込んだりしたら、ダメだからねー……?シャーさん、怒りますぞ」
「分かってるわよ。邪魔になるようなコトはしません。ただの事実関係の確認です」
刑事みたいなコトを言うなと考えつつも、蓮はその小柄な委員長代行のあとについて連行されてしまう。
一人、教室に残された城ヶ崎シャーロットが、思春期の学生たちから質問攻めにならないか、その結果、さらなるアクシデントが生まれるのではないか。そう考えていると、怪盗の唇は楽しげに笑う。
……普段は閉じられている非常階段がある廊下の端。その人気の少ない場所に連れて来られた蓮に、委員長代行は語るのだ。
「あ、あのですね、雨宮くん」
「なんだ?」
「そ、その……私の名前は小山と言います」
「よろしく、小山さん」
「うん……それでね、率直に言うけど……城ヶ崎さんと親しいですよね、雨宮くん」
「まあな」
「即答!?……や、やっぱり、すでにもう……っ」
「すでに?」
「い、いえ。何でもありません!……と、とにかく。な、なんというか……その……仲良しなのは、問題が全く無いのですが……あ、あまり派手な交友はなさらないようにしてください。城ヶ崎さんは、その純粋な子なので……下手すると、男の子の言いなりになっちゃいそうで、そういうの、何だか怖くて……」
「大丈夫だ。城ヶ崎を言いなりにしたいとか、そんなことは考えていない」
「そ、そうですよね。なんだか、すみません。初対面なのに、色々と不躾な質問をしちゃって……」
「城ヶ崎のことを思っての行動だ、小山さんの行動は正しい」
「……せ、正論ですけど……っ。そ、そうか……こういう態度に、城ヶ崎さんもコロっと……」
「コロっと?」
「い、いいえ!?な、なんでもあしません!!そ、その……城ヶ崎さんのこと、傷つけたりはしないで下さいね?」
「もちろんだ」
「……いいヒトそうだわ、雨宮くん……あ、あのね……実は、私の母は……その、17の時に、私のことを産んでくれたんです」
「そうなのか」
「そうなの……母の人生を否定するわけじゃないけれど、やっぱり高校生で出産とか、言葉に出来ないぐらいの苦労はあったと思うんです……実際、うちはそんなに裕福じゃないですし……あ、あの。だから、その……具体的に言っちゃいますけど」
「ああ」
「……ひ、避妊だけはその……してあげて下さいね……っ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………す、すみません!!今の、何も聞かなかったコトにして下さいッッッ!!!」
「どうした?」
「い、いえ。なんでもないです。乙女同士の会話なので、気にしないように……もう、委員長、気にしすぎだよね?……き、昨日のアレは、治療であって、いわゆるお医者さんゴッコってヤツなだけだもんね」
「言い方が良くない気もするぞ」
思春期の生徒たちには、恋バナはもちろん、より具体的な性のにおいを漂わせる単語は好奇心を誘引してしまう行いだ。
「そ、そうだね。ゴッコじゃないもんね。レンレンは、ちゃんと真剣に私に触れてくれたわけで」
「より誤解を生みそうなんだが」
誤解は確実に生まれていた。周囲の生徒たちの行動がやたらと緩慢になり、城ヶ崎シャーロットの発言に対して聞き耳を立てていることは明白であった。
「ちゃんと、痛くなくしてくれたし」
「捻挫の治療がな」
「うん。そうだよ、やさしくて、痛くないようにしてくれたから。安心して身を任すことが出来たというか」
「いい治療だった」
「そうだね。レンレン、いつも私にやさしいから好――――ええっと!?……その、あの……ゴハンを買いに行きましょう!レンレンの作ってくれた朝ゴハンは美味しかったけど、成長期だし、レンレンも昨夜、私のせいで疲れさせちゃっているし!?」
誤解が深まりそうだが……まあ、その状況を楽しめもするのが、雨宮蓮という少年でもある。
勘違いをしている周囲の生徒たちは、その顔を真っ赤にしてしまっているが、当事者である蓮は楽しんでもいる……モルガナがいれば注意をしただろうが、今はモルガナは不在なのだ。
「……ああ。城ヶ崎、昼メシを買いに行こう」
「う、うん。あ……お、おごるね?」
「なんで?」
「朝ゴハンとか、作ってくれたもん」
「そうだったな」
「してもらったから、してあげたくなるんですよ。それでも、いいでしょうか、レンレン?」
「ああ。それでいい。フェアなトレードだ」
「うん。そういう関係がいいなー、レンレンとはね、対等でいたいの。まあ、なんか助けてもらってばかりの私が言えたセリフじゃないけどね」
「―――あ、あのさ」
委員長代行が顔を赤らめた姿で、購買へと向かおうと教室を抜け出そうとしていた蓮と城ヶ崎シャーロットの前に立ちはだかる。
「い、委員長、女同士の会話は済んだはずでしょう!?」
「うん。城ヶ崎さんは、黙ってて」
「ええ……当事者なんですケド、私……?」
「今度は、雨宮くんにお話しがあります。ちょっとだけ、付き合ってもらえますかね?」
「告白か?」
「違います。そういうギャグは、状況を見て言ってくれませんかね?」
「すまない」
「じゃあ、ついて来てくれますね?」
「……城ヶ崎、少し、待っていてくれ」
「う、うん。い、委員長、あまり、レンレンに変なコトを吹き込んだりしたら、ダメだからねー……?シャーさん、怒りますぞ」
「分かってるわよ。邪魔になるようなコトはしません。ただの事実関係の確認です」
刑事みたいなコトを言うなと考えつつも、蓮はその小柄な委員長代行のあとについて連行されてしまう。
一人、教室に残された城ヶ崎シャーロットが、思春期の学生たちから質問攻めにならないか、その結果、さらなるアクシデントが生まれるのではないか。そう考えていると、怪盗の唇は楽しげに笑う。
……普段は閉じられている非常階段がある廊下の端。その人気の少ない場所に連れて来られた蓮に、委員長代行は語るのだ。
「あ、あのですね、雨宮くん」
「なんだ?」
「そ、その……私の名前は小山と言います」
「よろしく、小山さん」
「うん……それでね、率直に言うけど……城ヶ崎さんと親しいですよね、雨宮くん」
「まあな」
「即答!?……や、やっぱり、すでにもう……っ」
「すでに?」
「い、いえ。何でもありません!……と、とにかく。な、なんというか……その……仲良しなのは、問題が全く無いのですが……あ、あまり派手な交友はなさらないようにしてください。城ヶ崎さんは、その純粋な子なので……下手すると、男の子の言いなりになっちゃいそうで、そういうの、何だか怖くて……」
「大丈夫だ。城ヶ崎を言いなりにしたいとか、そんなことは考えていない」
「そ、そうですよね。なんだか、すみません。初対面なのに、色々と不躾な質問をしちゃって……」
「城ヶ崎のことを思っての行動だ、小山さんの行動は正しい」
「……せ、正論ですけど……っ。そ、そうか……こういう態度に、城ヶ崎さんもコロっと……」
「コロっと?」
「い、いいえ!?な、なんでもあしません!!そ、その……城ヶ崎さんのこと、傷つけたりはしないで下さいね?」
「もちろんだ」
「……いいヒトそうだわ、雨宮くん……あ、あのね……実は、私の母は……その、17の時に、私のことを産んでくれたんです」
「そうなのか」
「そうなの……母の人生を否定するわけじゃないけれど、やっぱり高校生で出産とか、言葉に出来ないぐらいの苦労はあったと思うんです……実際、うちはそんなに裕福じゃないですし……あ、あの。だから、その……具体的に言っちゃいますけど」
「ああ」
「……ひ、避妊だけはその……してあげて下さいね……っ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………す、すみません!!今の、何も聞かなかったコトにして下さいッッッ!!!」
※会員登録するとコメントが書き込める様になります。