第六十三話 ペルソナ使い……?
「……双葉のおかげで、ずいぶんと大昔からの因縁だということも分かったしな」
『……昭和の前半か……ふむ……その子も、飛び降りだったのだろうか』
「そうかもしれない」
『ああ……なんだか、やるせない気持ちになってくるが……状況を解決しなければならんからな。城ヶ崎の命もかかっているんだから』
「そ、そうだね。私、狙われているっぽい……女の子だからかな?」
「……もしかしたら、そうかもしれない」
『可能性は否定できないよな。とりあえず、把握した三件の自殺は、皆、女子だったんだ……それに、我が輩が吉永比奈子から聞いた、天使サマってヤツだ。そいつが、吉永比奈子の怨念に力を与えているのかもしれない……』
「……天使さまかー……色々といるよね。うちの学園は、ミカエルさまを名前にもらっているけれど」
「天使長の名か」
「詳しいの?クリスチャンじゃないのに」
……そういうペルソナを作ったことがある。そんな説明をしても、城ヶ崎シャーロットを混乱させるだけで終わりそうだと考えた。
ペルソナというのは、人類の統合した意識が生み出した不偏なるキャラクターであり、つまりは象徴のような存在らしい。
神々や天使や、伝説を持った魔物や英雄たち―――それらに人々が抱いているイメージが、ペルソナたちの力になるようだ。
ミカエル、天使たちの長として君臨する存在であり、それに対しての祈りや社会的な認知度、そしてイメージから強力なペルソナとして存在していた。
「……色々と雑学には詳しくなったんだよ」
「なるほど!レンレンは喫茶店で修行していたんだもんね」
「そういうことだ」
モルガナにツッコミを入れられることになるのかと予想していた蓮であったが、通学バッグのなかにいるモルガナは沈黙を保っていた。
……吉永比奈子について深く考えているのだろう。蓮はそう判断するし、じっさいのところ、その判断は正しいものである。モルガナは考えていたのだ、憐れな自殺者、吉永比奈子の怨念について……。
『…………ヒトの心が、ペルソナやシャドウ、パレスをも作り出すんだ。我が輩たちが行った世界も、その一種かもしれない』
「生命力にはあふれていないと言ったな」
『……ああ。それはそうだ。たぶん、あの世界は『死者のパレス』みたいなものだ。吉永比奈子の霊が、魂が……残存しながら、世界を呪っているんだと思う……』
「……の、呪われた死後の世界的な存在?」
『そう考えてもいいのかもしれないケド……天使サマってヤツが、吉永比奈子の精神を悪用しているのかもしれない。ペルソナ使いかもってことだ』
「……ペルソナ使いか」
「……そ、それって、レンレンが召喚していたアレ?」
『……ペルソナのことを話すなよ……っても、ゲームのことぐらいにしか、周囲のヤツらには認識されやしないか……まあ、そうなんだよ、城ヶ崎。我が輩と蓮には、不思議な力を持った存在を呼び出すことが出来るんだ』
「ああ、アレはスゴかったよね……私も出来るようになる?」
「……可能性はある」
「そっか。じゃあ、使えるようになりたいな」
『……異世界と、蓮に関わっている子だもんな。城ヶ崎にも、ペルソナ使いの資質があるのかもしれない……』
……思えば、あの異常な異世界においても、城ヶ崎は平然としていたな……我が輩たちでさえも、久しぶりの異世界で疲れてしまっていたというのに、ケロリとして過ごしている…………コレは、本当にペルソナ使いの資質があるということかもしれない。
「……でも、そういう力で……吉永さんを、操っているの?」
『……我が輩の常識の中では、死者の魂だけで、あれほど強いシャドウやパレスが作られるとは思えないんだよ。天使サマってヤツが、ペルソナ使いで、そいつのペルソナが怨念に力を与えるような能力を持っていたりすれば……ああいった現象も起きえるのかもしれない』
「誰かが、ぺるそな……を、使っているということ……?」
『……証拠はない。根拠も示せと言えば難しい。ただの我が輩の勘に過ぎないことではあるが……怪盗の勘は、それほど外れることはないぞ』
「……つまり、人為的な事件だということだ」
「……悪い人がいるんだね」
『……そうかもな。蓮、城ヶ崎。これ以上は、止めておこう。もうすぐ学校に着くし、何よりも、ペルソナ使いがどこにいるか分かったモンじゃない……異世界に触れたペルソナ使いなら、我が輩の声だって聞き届けることが出来る……人前でお喋りするのは、止めた方が良さそうだ』
蓮は怪盗の瞳に力を込めて、バスの内部にいる人々の気配を探っていく―――こちらに意識を向けている人物は、誰一人としていないように見えた。しかし、油断は禁物だ。もしも人為的な事件だとすれば……そいつは、城ヶ崎シャーロットを殺そうとした可能性だってある。
「城ヶ崎が、隣の席になってくれていて良かったよ」
「え?そ、そう?」
「ああ。お前のことを、守りやすいからな」
「……あ、朝から……なんか、胸が、ドキドキしちゃうなー……っ」
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