第五十九話 歴史を探ろう
登校の準備は完了していた。モルガナはいつものように蓮の通学バッグの中に入り、城ヶ崎シャーロットは寝癖を整えた後で制服姿に着替えていた。
「着替えとかは、ここに置いておいていいかな?」
「いいぞ」
「よかったー」
『学校にはそんな大荷物を持って行かないほうがいいよな……ムダに目立つし、単純に手間がかかる』
「そういうこと。それじゃあ、今日こそは遅刻しないようにバスに乗ろうね!」
余裕を持って登校する。見覚えがある近所の道を城ヶ崎シャーロットと共に歩いて、三人はあのバス停にたどり着く。聖心ミカエル学園の生徒の姿は、そこにはいない。サラリーマンと、病院に出かけるのか杖をついた老人がいるばかりだ。
……自転車を使えば早いから、この近所の生徒は自転車通学なのかもしれないな、と蓮は考えていた。
「……さーて。それでさ、調査はどうするの、レンレン?」
「……そうだな。七不思議に詳しい人はいるかな?」
『とりあえず、城ヶ崎、お前はどうなんだ?……我が輩たちが調べた結果としては、屋上から飛び降りた少女の霊……お前が教えてくれた崩れた墓場から見つからなかった唯一の遺骨……そして、本物の腎臓を使っているという人体模型のウワサの三つだ。他は知らない』
「おー。さすがは、怪盗だよね。私が知っているコトぐらい、とっくの昔に調べちゃっているわけだね」
『……つまり、お前もこの三つしか知らないのか?』
「うん。三つぐらいしか知らない。というか、他の四つは聞いたこともないかもね」
「……そうか」
『他の四つはネット上には無かったみたいだしな……どんなウワサでも皆が報告し合うような時代だぜ。それなのに、その情報が無いってのは、どういうことだろうな……ネット環境が整うよりも、前の事案なのかもしれないな、他の四つは……』
「ならば、教師をあたるしかないな」
「教師?」
『いい案だと思うぜ。聖心ミカエル学園は公立の学校じゃなくて、私立だ……教師は転勤とかしないんだろ?』
「そうかも。なら、古くから聖心ミカエル学園にいる先生なら、昔流行ったウワサとか、怪談も覚えているかもしれないよね……?」
「そうだ」
『……しかし、七不思議について嗅ぎ回っている生徒ってのも、何だか怪しい。学校だってブランド商売だ。ブランドに傷が付くようなウワサがあったとしても、教師が素直に教えてくれるとも思えない……』
「そ、そだね……ふざけてそうって思われそうだもんね」
『実際に、『吉永比奈子』は死んでいるようだしな。人死にが出たような事件を蒸し返すなんてことは、学校からすればデメリットしかないだろう……』
「じゃあ、どうすれば……」
『オカルトとか、都市伝説とか……そういうのを調べているヤツとか、知らないか?』
ダメ元で聞いてみたコトであったのだが、モルガナは予想外にいい返事を城ヶ崎シャーロットからもらうことになる。
「……心あたり、一つだけある!……歴史の隈元先生……60代だったと思うし、それにね……新聞部の顧問なんだ」
『60代のじいさんに……新聞部か。利用できそうだな』
「学校のことには詳しそうだ」
『ああ……何なら、新聞部に入部するってのも、早いかもしれないな』
「……すでに帰宅部のオレがか?」
『いや、帰宅部だから入り易いだろ?……新しい学校のことを知りたいとか言ってな。ダメか?』
「目的のためなら、するさ。放ってはおけないしな。あの七不思議は、実際に城ヶ崎を殺しかけたんだ」
「そうだよね……今夜、ぐっすりと眠るためにも、私もレンレンと一緒に新聞部に入っても良いかもしれない。兼任になるけど」
『兼任?他に部活動に入っているのか?』
「う、うん。マンガ研究会……」
「なるほど」
「何故、納得するでござるか、レンレン?」
『そんな言葉遣いしてりするからじゃないか?……とにかく、情報収集に使えそうなら、何だって利用してやろうぜ?ネットの方は双葉が昼までにまとめてくれるって言っていたから、そっちに期待するとして……オレたちは足で調査しよう』
「ああ。現地にいる者の特権だ」
「……むふふ。なんだか、不謹慎だけど、ちょっとだけワクワクしてきたよ、レンレン、モルガナ!」
乙女はその青い瞳をキラキラさせている……昨夜、死ぬような恐怖を体験したばかりなのに。
「城ヶ崎は強いな」
「そ、そうかな?」
『ああ。スリルを楽しめる。それも怪盗の才能だぜ』
「私も、怪盗向き?」
「そうかもしれない」
「やったー。『ザ・ファントム』のリーダーに認められた。仮免・怪盗シャーさん、誕生だね?」
『仮免・怪盗……なんか、スゴくダサい響きだけど、なんか身に覚えがあるようなフレーズだな』
……モルガナの頭に奥村春の姿が浮かんでいた。『家出』をした後で、モルガナは春と二人でコンビ活動をしていた時期がある……どこか、間の抜けた雰囲気の活動ではあったが……。
黒歴史を見つめる猫の青い瞳は遠くを見つめる―――すると、路線バスの存在を目撃するのであった。
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