第四十八話 『ペルソナ』
巨大な骨がマンションの壁を完全によじ登って来る。ジョーカーは仮面をかぶり直し、手袋のズレを直した後で、二丁拳銃を抜く。
「……城ヶ崎!!走れッ!!」
「う、うん!!」
パジャマ姿の城ヶ崎シャーロットが走り始めた時、巨大な骨格もまた動き始める!!
『ぐぎゃろろろろろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!』
乾いた白い骨の指たちが、マンションの屋上を引っ掻くようにしながら、走って来る。ジョーカーはその動きを怪盗の瞳で観察する……四つ足で動く?……だが、人骨を模したモノだというのならば―――その動きを主導している部位は、決まっているな!!
革手袋をはめた指が動く。拳銃の引き金を、怪盗の指が絞る!!
バンッ!!バンッ!!バンッ!!バンッ!!
狙いすました射撃が、宙を駆け抜けていき、『骨の怪物/スケルトン・ジャイアント』の右膝に命中する。
四つの弾丸は、『骨の怪物/スケルトン・ジャイアント』の右脚の骨に、深い亀裂を刻みつけて行く。打ち込まれた威力が、ヤツの乾いた骨を縦に割っていくのだ……。
『いいぞ!!我が輩も、脚を狙うッ!!……やっちまえ、『メルクリウス』ッッ!!』
モナの瞳が必殺の輝きに煌めいて、モナの影から飛び出てきた『メルクリウス』が、翡翠の衝撃と化けて『骨の怪物/スケルトン・ジャイアント』の左脚目掛けて飛翔した!!
ザシュウウウウウウウウウウンンンッッッ!!!
真空の刃が、『骨の怪物/スケルトン・ジャイアント』の左脚の骨を砕いた。
『ぎゃがふううううううううううううううううううううううううううううううううううううんんんッッッ!!?』
両脚にダメージを負わされた『骨の怪物/スケルトン・ジャイアント』は、二人の怪盗コンビに迫って来ていたその巨体を、勢いのままに前倒しにする。
ズシイイイイイイイイイイインンンンッッッ!!!
肉のない乾いた白骨とはいえ、巨大であれば重量もそれなりにあるようだった。そこら中に亀裂が走っているマンションの屋上が、衝撃で揺れていた。
「うひゃあ!?」
退避中の城ヶ崎シャーロットは、その衝撃で転びそうになるが、どうにか持ちこたえる。戦いに慣れている怪盗たちは、その程度の揺れでは、気にも留めない―――むしろ、集中していた彼らは、このチャンスにつけ込むのだ。
『隙が出来たぞッ!!』
「ああ!!ヤツの仮面を、砕いてやるぞッ!!……来い!!『アルセーヌ』ッ!!」
ジョーカーの影から、蒼い炎を伴い『ペルソナ』が浮上する。『アルセーヌ』が召喚されたのだ。ジョーカーは、拳銃を構える。
必殺の気配にあふれるジョーカーに、『アルセーヌ』が答える。
『我が魔力を一撃に込める!!怨霊よ、蒼炎の魔弾を、喰らうがいいッ!!』
引き金を絞る!!
『アルセーヌ』の魔力が込められた、強力な弾丸が撃ち放たれていた!!蒼炎を帯びた弾丸が、『骨の怪物/スケルトン・ジャイアント』の頭部を多う仮面を直撃するッ!!
バギイイイイイイイイイイイインンッッ!!
『よしッ!!仮面にヒビが入ったぜッ!!』
『がごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんんんんッッッ!!!』
痛苦に悲鳴を上げる悪霊がそこにいた。亀裂の入った仮面を守るように、白骨の長い指たちが、『骨の怪物/スケルトン・ジャイアント』の頭を覆い隠そうとする。
『へっへー!!いいカンジだぞ。このまま畳みかけるか!?』
「……いや。構えろッ!!呪怨攻撃が来るぞッ!!」
『……ッ!!』
『マハイエイガオン』。『骨の怪物/スケルトン・ジャイアント』から、津波のように激しい黒があふれて奔る―――モナはその威力に危機を覚える。
自分やジョーカーはともかく、こんなものを城ヶ崎シャーロットが受けたら……ッ。
『連続だけど、行くぞ、『メルクリウス』……ッ!!『マハガルダイン』ッッ!!』
迫り来る黒に向けて、翡翠色の暴風が迎え撃つように放たれるのだ!!
黒と翡翠が正面から衝突して、激しい振動に化けながら、お互いの必殺の威力を相殺していくのだ。
『ぐぐぐううううッッ!!術のクラスじゃ、あっちが、上かも知れねーけどッ。我が輩には、不屈の根性があるんだああああああああッッッ!!!踏ん張れ、『メルクリウス』ッッッ!!!城ヶ崎を、守ってみせろおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!』
翡翠の輝きが一瞬、強まる。
ジョーカーは見抜いていた。黒が翡翠に引き裂かれて、道が再び現れることを。敵へと至る、勝利の道―――ジョーカーの体は、その道を疾風のような勢いで走り抜ける!!
『がしゃあああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!』
威嚇するように放たれた声に、ジョーカーが臆することなどない。
あの一年を戦い抜いた怪盗団のリーダーは、死の暴力にあふれる空間でさえも、どこか背徳的な『狩り』の歓びに血肉を燃やすのだ。
「来い、『ヨシツネ』ッ!!」
影からその『ペルソナ』を召喚していた。長い刀を構える美しい美男の剣士だ。
剣士の斬撃が、雨あられとなって『スケルトン・ジャイアント』へと降り注いでいた。踊るような軌道で暴れる銀色の閃光が、その邪悪なる白骨どもを次から次に斬り裂いてみせる―――。
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