第二十七話 守りたい
あの鐘のことは気にはなったが―――城ヶ崎シャーロットもモルガナも怖がっているようだ。これ以上、深入りするのはやめておくことに蓮は決めた。
『さてと、掃除も終わったんだ。今日は帰るとしようぜ!!』
「ああ。そうだな。モルガナ、こっちに入れ」
『よしきた、蓮、行くぞー』
通学バッグを開き、モルガナを呼び込む。モルガナは素早く走り、そのバッグの中へと入っていた。心なしか、まだ震えているような気もする……やはり、あの鐘のことは話題にするのはよしておこう。
夜中に復讐として、腹や胸の上で眠られるかもしれない。それは、安眠の大敵であるのだから。
モルガナがときどき嫌がらせ、あるいは愛情表現として行う動きであるが、あれはなかなかに重たい。愛情表現としては嬉しくもあるが……寝苦しくて悪夢を見ることもあるのだ。
あれをやられては、たまらない。さっさと、変えるとしよう。モルガナを怒らせると、なかなか長くいじけてしまうのであるし―――。
「帰るぞ、城ヶ崎」
「うんうん!賛成、賛成!!あ、大事なことだから、二つ言いました!」
「分かっている」
「分かられているらしい。ふむ。レンレンは、乙女の心を理解するんだ。さすがは、東京帰りの、そこそこモテモテのレンレンだ」
「まあな」
『まあなて?……とにかく、この場所は……ちょっと気味が悪い。さっきまでとは、少し雰囲気も違う気がする……我が輩たちだけなら、何とでも遭遇したって問題はないが、だって?……今は、城ヶ崎シャーロットがいるんだ。レディを、危険に遭遇させたくはないだろう、蓮?なあ、紳士って、そういうものじゃないか?』
いつになく早口なモルガナがそこにいた。あきらかに言い訳にしか過ぎないのは明白ではあるけれど―――モルガナの言葉には、いつだって一理はあるものだ。城ヶ崎シャーロットを、何かおかしげなことに巻き込んではいけない……。
自分は、そういった星のもとに生まれ落ちているような自覚が、雨宮蓮にはあるのであった。昨年のことを考えれば、そうなってもおかしくはない……自意識過剰ではない。
雨宮蓮の周りには、超常的なトラブルが起きすぎたし―――それは、今後も続いたとしてもおかしくはないのであった。
そもそも、すぐそばにモルガナという不思議な存在がいるわけだし。希望の代弁者のようなモルガナは、ヒトに不幸を招くことはないだろうが……果たして、自分はどうなのだろうか?
雨宮蓮は自信がない。とにもかくにも、凶悪な七不思議の一つを、体験してしまった以上、ここに止まることは避けた方がよいだろう。
自殺した女の子に誘われて、飛び降り自殺……?あまりにも不吉なエピソードだった。シュージン学園でも、飛び降りを目撃してしまった自分としては……もう、そんなシーンを目の当たりにするのはゴメンである。
あんな無力感を感じたことはない。遠く離れた場所から、自分の手が絶対に届かない場所から、彼女は飛び降りてしまった。
もしかしたら?……鴨志田に対して、自分たちの『正義』を執行することが出来ていたら?……彼女は飛び降りることもなかったのかもしれない。
救えたかもしれないのだ。だが……現実はそうではなかった。彼女は鴨志田に深く傷つけられて、追い詰められて……飛び降りてしまったのだ。
命は助かった。だが、色々と大きなものを失った。体には一生、痛みが残るかもしれないし……心の傷は、もっとヒドく彼女を傷つけ続けるのだろう。
自分たちが、もっと早くに心を決めていたら?……救えたのだ。一人の少女のことを。それなのに……ためらってしまってせいで……一人の少女の人生を、深く傷つけてしまった。
救えることが出来たのではないかと、何度も悩んだ。だからこそ、『心の怪盗団』、『ザ・ファントム』を結成することを蓮は躊躇わなかった。
守ることは難しいのだ。とつぜん、容赦もなく襲いかかって来る残酷な運命からは……。
あのとき。
あのとき、もしも、自分の手が、彼女に届くところにいたら、どうするのだろうか……?
雨宮蓮の手は、勝手に動いていた。ゆっくりと動き、そのか弱い白い指を握っていた。
小さな手だった。女の子の小さな手だ。あの日、握ってあげることの出来なかった手も、これぐらい小さかったかに違いないのだ。
……そのとき雨宮蓮の手は、城ヶ崎シャーロットの小さな手をつかんでいた。ぎゅっと、力強く指を絡めていた。
「……っ!?」
彼女がビックリしていることは十分に分かったが……それでも、構うことはない。それなりに鍛え上げた魅力と、慈愛に輝くやさしい心をもって、言葉を紡ぐのだ。
「行くぞ」
「……は、はい……っ」
顔を赤くする城ヶ崎シャーロットがそこにいた。モルガナは、その顔を見れば、からかう気にはなれない。蓮は真剣な表情をしている。
大切な者のために、戦う反逆の戦士の貌だとモルガナは理解していた。
『さてと、掃除も終わったんだ。今日は帰るとしようぜ!!』
「ああ。そうだな。モルガナ、こっちに入れ」
『よしきた、蓮、行くぞー』
通学バッグを開き、モルガナを呼び込む。モルガナは素早く走り、そのバッグの中へと入っていた。心なしか、まだ震えているような気もする……やはり、あの鐘のことは話題にするのはよしておこう。
夜中に復讐として、腹や胸の上で眠られるかもしれない。それは、安眠の大敵であるのだから。
モルガナがときどき嫌がらせ、あるいは愛情表現として行う動きであるが、あれはなかなかに重たい。愛情表現としては嬉しくもあるが……寝苦しくて悪夢を見ることもあるのだ。
あれをやられては、たまらない。さっさと、変えるとしよう。モルガナを怒らせると、なかなか長くいじけてしまうのであるし―――。
「帰るぞ、城ヶ崎」
「うんうん!賛成、賛成!!あ、大事なことだから、二つ言いました!」
「分かっている」
「分かられているらしい。ふむ。レンレンは、乙女の心を理解するんだ。さすがは、東京帰りの、そこそこモテモテのレンレンだ」
「まあな」
『まあなて?……とにかく、この場所は……ちょっと気味が悪い。さっきまでとは、少し雰囲気も違う気がする……我が輩たちだけなら、何とでも遭遇したって問題はないが、だって?……今は、城ヶ崎シャーロットがいるんだ。レディを、危険に遭遇させたくはないだろう、蓮?なあ、紳士って、そういうものじゃないか?』
いつになく早口なモルガナがそこにいた。あきらかに言い訳にしか過ぎないのは明白ではあるけれど―――モルガナの言葉には、いつだって一理はあるものだ。城ヶ崎シャーロットを、何かおかしげなことに巻き込んではいけない……。
自分は、そういった星のもとに生まれ落ちているような自覚が、雨宮蓮にはあるのであった。昨年のことを考えれば、そうなってもおかしくはない……自意識過剰ではない。
雨宮蓮の周りには、超常的なトラブルが起きすぎたし―――それは、今後も続いたとしてもおかしくはないのであった。
そもそも、すぐそばにモルガナという不思議な存在がいるわけだし。希望の代弁者のようなモルガナは、ヒトに不幸を招くことはないだろうが……果たして、自分はどうなのだろうか?
雨宮蓮は自信がない。とにもかくにも、凶悪な七不思議の一つを、体験してしまった以上、ここに止まることは避けた方がよいだろう。
自殺した女の子に誘われて、飛び降り自殺……?あまりにも不吉なエピソードだった。シュージン学園でも、飛び降りを目撃してしまった自分としては……もう、そんなシーンを目の当たりにするのはゴメンである。
あんな無力感を感じたことはない。遠く離れた場所から、自分の手が絶対に届かない場所から、彼女は飛び降りてしまった。
もしかしたら?……鴨志田に対して、自分たちの『正義』を執行することが出来ていたら?……彼女は飛び降りることもなかったのかもしれない。
救えたかもしれないのだ。だが……現実はそうではなかった。彼女は鴨志田に深く傷つけられて、追い詰められて……飛び降りてしまったのだ。
命は助かった。だが、色々と大きなものを失った。体には一生、痛みが残るかもしれないし……心の傷は、もっとヒドく彼女を傷つけ続けるのだろう。
自分たちが、もっと早くに心を決めていたら?……救えたのだ。一人の少女のことを。それなのに……ためらってしまってせいで……一人の少女の人生を、深く傷つけてしまった。
救えることが出来たのではないかと、何度も悩んだ。だからこそ、『心の怪盗団』、『ザ・ファントム』を結成することを蓮は躊躇わなかった。
守ることは難しいのだ。とつぜん、容赦もなく襲いかかって来る残酷な運命からは……。
あのとき。
あのとき、もしも、自分の手が、彼女に届くところにいたら、どうするのだろうか……?
雨宮蓮の手は、勝手に動いていた。ゆっくりと動き、そのか弱い白い指を握っていた。
小さな手だった。女の子の小さな手だ。あの日、握ってあげることの出来なかった手も、これぐらい小さかったかに違いないのだ。
……そのとき雨宮蓮の手は、城ヶ崎シャーロットの小さな手をつかんでいた。ぎゅっと、力強く指を絡めていた。
「……っ!?」
彼女がビックリしていることは十分に分かったが……それでも、構うことはない。それなりに鍛え上げた魅力と、慈愛に輝くやさしい心をもって、言葉を紡ぐのだ。
「行くぞ」
「……は、はい……っ」
顔を赤くする城ヶ崎シャーロットがそこにいた。モルガナは、その顔を見れば、からかう気にはなれない。蓮は真剣な表情をしている。
大切な者のために、戦う反逆の戦士の貌だとモルガナは理解していた。
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