第十三話 紳士的なスマイル
「先輩として、リードさせていただきますからね!!」
城ヶ崎シャーロットは、蓮を追い抜くようにして前に出ると、何だか必死な雰囲気でそう宣言する。
「同級生だ」
「そ、そーだけど。今も言ったように、ミカエルでは私の方が先輩なんだから。レンレンが迷子にならないように、この一本道をエスコートしてリードしてあげるんだ!」
「一本道を迷う方が難しい」
『……だな』
「うう。そーかもだけど。とにかく、急ごう!せっかくパトカーで送ってもらったんだもの。これで遅れちゃったら、お姉ちゃんたちに合わせる顔がないし」
「ああ。じゃあ、行くぞ」
蓮はそう言いながら城ヶ崎シャーロットを追い越していく。シャーロットは、慌てて小走りになり、蓮の前を歩き始める……。
「今日は、私が案内するの!だって、私のがベテランなんだもん!」
『……なんだか、どうでもいい意地を感じるな……』
「……それはいいが、城ヶ崎」
「なに?レンレン?」
「捻挫はどうした?」
「ふえ?……あ、ああ、そうだった……ちょっと、痛いけど……歩けるや」
『さすが、修羅場をくぐり抜けてきた男の応急処置は違うな』
「レンレンのおかげだね」
「そうだな。だが、ゆっくりと歩こう」
「いや。遅れちゃうかもだけど?」
「痛めた足首の方が大事だ。通学バッグを寄越せ。持ってやる」
「……う、うん。レンレン、紳士だなー……も、もしかして……モテモテ……?」
「ぼちぼちだ」
自称・ぼちぼちモテる男は、この一年間で得たやさしさを使い、城ヶ崎シャーロットから通学バッグを預かるのだ―――。
「……っ!?」
やけに重たい。不覚にもそんな表情を浮かべてしまったのか、城ヶ崎シャーロットを慌てさせてしまう。
「ご、ゴメンね。女子のバッグってー、重たいよねー……?」
「そんなレベルじゃない」
「う。そ、そーだね。まあ、本とかも入ってるんだよね……漫画本とかだけど」
ぼそりとつぶやかれた単語を、怪盗たちの耳は聞き逃すことはなかった。
『漫画本?』
「漫画本?」
「うわ、ち、ちがうよー。さ、参考書だった!!」
『……うお。なんて嘘くさい言い訳なんだ……』
「だ、だって。今年は受験生なんだからっ!!」
取り繕うように笑う城ヶ崎シャーロットがそこにいた。蓮は、おそらく参考書でないモノが詰まった重量感のあるバッグを小脇に抱えて、ゆっくりと歩き出す。
「重いよね?」
「ああ。だから、城ヶ崎には返せない」
「……紳士だねー、レンレン……いい人過ぎるぜ?」
「そうありたいとは、思っている。オレは……」
「オレは?」
「なんというか、無愛想だからな。せめて行動でやさしさを示しておきたい」
「あはは。レンレンは、そんなに無愛想じゃ…………」
『……無言で語っているな。まあ、いつもニコニコしている蓮なんて、それはそれで気持ち悪い気がするぞ』
「……っ!?」
「どしたの、レンレン?」
「モルガナに、悪口を言われてしまった」
「まあ。やさしいレンレンに、何を言ったの、モルガナ?」
「オレのニコニコ笑顔は、気持ち悪いらしい」
「そーなの?このシャーさんがチェックしてあげる。ほら、ニーコニコ」
ニヤリ。雨宮蓮は怪盗スマイルを浮かべる……もう少しナチュラルに笑うことぐらい出来たが、城ヶ崎シャーロットをからかってみたくなっていたらしい。
「……う、うん……いいと思うよ。何ていうか、ニヒル?……ダーク・ヒーローみたいな雰囲気があるっていうかー?」
『もっとフツーに笑ってやれよ。城ヶ崎のヤツ、困っているじゃねーか……でも、ダーク・ヒーローか……怪盗には、ピッタリだよな。我が輩も、そういう笑顔を覚えたい』
「と、とにかく。行こう!!あんまり話してたら、遅くなっちゃうよ」
「……そうだな。城ヶ崎の足が痛くならないように、ゆっくりと歩くとしよう」
「……うお」
『……魚か?』
「魚か?」
「い、いや。そーじゃなくて……なんていうか、その。い、今のスマイルの方が、女子ウケはいいと思いますっ!!」
「惚れるなよ」
「ほ、ほれ……ないよーに……努力します……っ」
『……まったく、コイツってヤツは……無節操なことはするなよな……』
「ああ」
「な、なんて言ったの、モルガナ……?」
「城ヶ崎は可愛いって言っていた」
「そ、そーかー……このシャーさんは、たしかに、か、かわいいけど……うーっ。からかわないように!!シャーさん先輩を、からかわないように!!大事なコトだから、二度言ったんだからね!!」
「わかった、わかった」
『……大事なことだから二度言ったわけか……お前ら、いちゃついてないで、さっさと歩けよ?……いや、足首を痛めているから、ムリはさせられないし……』
「足が痛くないように歩こう」
「うん。そーする……はー、なんだか、顔が赤くなっちゃうよー……」
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