ACT149 『強化人間対策』
三人のベテラン・パイロットたちは、お互いの操縦哲学を語り合った。どんなパイロットなのかを理解するためでもある。攻めるタイプなのか、守るタイプなのか。火力を重視するのか、精度を重視するのか。
戦いを構成するための概念は、幾つもあった。モビルスーツ・パイロットたちは、己がどんなことを考えながら鋼の巨人たちで遊んでいるのかを、ニヤニヤしながら語り合う。
それで事足りることもあるのだ、ベテランは……技術の道の行き着く先には、それほど多くのバリエーションがあるわけではない。
大きな軸が作られて、それに枝葉が生えたようなものだ。モビルスーツの歴史は短く、ヒトが発明した操縦アイデアは、それほど多くはないのである……。
たかだか二十年だ。その歴史のなかで作られたモビルスーツのほとんどが、幾つかの主流の系統樹のなかに所属してしまうものだ。
ザク、ジム、ガンダム……量産される、次世代機が作られるほどの上出来なデザインを持つモビルスーツも、そう多くはない。モビルスーツの戦闘技術は、まだまだ発展途上の存在なのである。
「……まあ。おおよそ、分かったよ。オレちゃん、スワンソンくんの代役を務めることも出来そうだ」
「だろうな。アンタは、やっぱり器用だよ。昨日、思い知らされていたけど」
「へへへ。褒めても、やれる缶ビールはないぜ……まあ、この病室に酒を運んでって、オーダーでも出せば、すぐに駆けつけてくくれるんだろうけどさ……?」
「ルオ商会だもんな……少佐は、いりますか?」
「いや。オレはそろそろやめておこう。明日に酒を残すわけにはいかないからな」
「……良いこと言う少佐サンだよ。オレちゃんも、見習って、もうこれ以上は呑まないことにしておこう」
「それがいい。少し、飲み過ぎているようにも見えるからな」
「呑みたくなるときだってあるさ……今回はオレちゃんみたいな人間でも、考えさせられるからな……ニュータイプとか、強化人間とか……ヒトってのは、ホント、残酷なもんだ」
「そうだな」
「……ちょっと、つまんないこと言ってもいいかな?」
「……いいぞ。聞きたい」
「そっか。少佐サンも物好きだ……オレちゃん、さっきのデータの『ガンダムもどき』とやらせて欲しい」
「……さっき、勝てないと言っていたぞ?」
「相性が悪い。オレちゃんのトリッキーな攻撃に、『彼女』はハマらないだろう」
「……『彼女』か。アンタもそう思うわけだ」
「少佐サンもか……そうなんだ。細かいトコロは数字だけど、分かる。女のモビルスーツ・パイロットってヤツらは、突撃するんだ。平面的な認識で、素早く食いついて来るのが上手い。男より、モビルスーツの加速に鈍感というか、恐れがないから鋭さが出る」
「……そんな動きに見える。なんというか、偶然かもしれないが……」
「……似ているよ。ジュナ・バシュタ少尉に……彼女も、突撃することを恐れない。あの二人は、戦わせないほうがいい。噛み合ってしまう。どっちも死ぬかもしれないが、あっちの方が、確実に一枚上手だ」
「……バシュタ少尉が死ぬと、どうにもならんだろうしな。彼女を守り、『フェネクス』に届ける……それでいいわけですよね?」
「ああ。『フェネクス』の光速に対応することが出来るのは……ナラティブの高機動装備に頼るしかない。『フェネクス』が、シェザール7に食いついてくれるなら……リタ・ベルナル少尉が、幼なじみに反応してくれるのなら……光速を緩めてくれるかもしれない」
「……少尉ちゃん同士を一対一にしてやるために、オレちゃんは……やっぱり、あの『ガンダムもどき』と戦うよ。勝つのは難しいが……時間稼ぎをするぐらいは、多分やれると思う……時間稼ぐからさ。その間に、少佐サンが敵を蹴散らして、数的有利で挑もうぜ」
「……悪くないが、オレが挑ませてもらいたい」
「アイツは、強いぜ?」
「オレも強い。宇宙でのブランクがあるアンタには、荷が重い……死ぬ気か?」
「……オレちゃんが、一番、つまらん男だからな。死ぬ可能性がある以上は……順番を守るべきかもしれないってな」
「一番、年上だからかい?」
「いいや。多分、一番、罪深いからだ。撃墜数で……オレを超えてるヤツは、いない。公式記録は少ないけどね」
「……撃墜数を『売っていた』というヤツか」
「そう。ヒト殺しの数なんて、売り買いしているようなヤツは……皆の盾になって、死地に飛び込む方がいいような気がしたんだよ……たぶん、今、酔っ払っているからな」
「おいおい、酔っ払っているときに、重要なことを決めるべきじゃないんだぜ」
「……そうだな。それも、酒を呑むときの基本だろうな…………ダメだわ。そろそろ、酔いが回ってきた。イアゴ・ハーカナ少佐、頼むぜ……死ぬなよ。オレよりは、きっと罪深くないんだから」
「……任せろ。『ガンダムもどき』ぐらい、オレが撃墜してやる」
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