ACT144 『アナハイム・エレクトロニクス経由の情報』
「……ああ、やっぱりさー、多分そうだろうと考えてはいたんだけど……オレたちもっすかー?」
「正直言うと、宇宙ってのは、少し苦手なんだが……ぶっちゃけ、適性も高い方じゃないんだよなあ」
「人手不足なのよ。使えるパイロットは、一人でも多い方がいいし……可能なら、情報は秘匿しておきたい。アンタたちは並以上だし、それに大尉殿はモンスター級のパイロットなんだから。欠員が出そうな、シェザール隊の代役はしなさいな」
「あー。大尉が、スワンソンさんぶっ殺しかけたからか」
「そのせいで、オレたち、とんでもない怪物モビルスーツと戦うことになるっぽい」
「何でもかんでもオレのせいにするなよ。それに、スワンソンくんだって、すぐに良くなる……そもそも、オレの与えたケガよりも、あの女パイロットにやられた傷の方が深刻なはずだぞ」
バカはすぐに魔女狩りを始めるんだ。アイツのせいで、こうなった……ってな。生来のトラブル・メーカーでもある大尉の人生には、大尉に対しての魔女狩りがよく行われて来た。大尉は、その魔女狩りをのらりくらりと躱すのが上手な男であった。
しかし、今回ばかりは相手が悪そうだ。ルオ商会の『裏の中心』。そんなものが作戦に使うはずだった歯車の一つを、オレはぶっ壊しちまった。その『代償』をオレの命で支払えってことか。怖い姉ちゃんだ、このべっぴんさんは……。
ミシェル・ルオはアフリカの三人組を見ることもなく、端末を操作した。
……戦闘の再現が始まる。
星のように小さな点が―――モビルスーツを現しているその星が、ゆっくりと動き始めるのだ。6機ほどが空中を動き始めるが、その仲でも1機だけが、ずいぶんと突出している。
「……バカが一人いるな」
組織戦の連携を重んじるイアゴ・ハーカナ少佐からすれば、その一機のモビルスーツの動きは、あまりにも傲慢すぎるものだった。
「僚機を置き去りにしているし……そもそも、数の有利を使えない。いい行動とは、呼べないな」
「……そうだな。私も、そう思う。コイツは……かなりワガママで、ガキっぽいヤツだ。きっと……自分の力を見せつけようとして躍起なんだよ」
ジュナ・バシュタ少尉は冷静に分析した。イアゴ・ハーカナ少佐はシェザール7の考え方を気に入っていた。何故なら、ほとんど同じことを考えていたからだ。
「いいマニューバだし、素晴らしい加速性能ではあるな……他の機体は……速度と、遅れ方。そして……編隊の組み方している…………『袖付き』っぽいな、たしかに。ギラ・ズールのチームだ。一機は、違うがな」
「……ん。えーとー。ギラ・ズールってことは……」
「コイツら……ネオ・ジオンの『袖付き』……」
「さっき話していた部隊よ。コイツらが、『フェネクス』と戦ったと言われている連中ね……」
「どうして、そんなものを持っているんだ、お前……?」
「アナハイム・エレクトロニクスから流れて来たの。マーサ・ビスト・カーバインを確保していることと、元々の大株主でもあることから……彼らは、私の側に協力的なのよ」
「……そうだとしても、誰が、アナハイム・エレクトロニクスに、『袖付き』だかネオ・ジオンの戦闘データを渡したんだ?」
「当事者しか持たない情報だから。この戦闘に参加していた者の誰かが、上司か誰かに報告して、その上司がアナハイム・エレクトロニクスに提供していたんでしょうね」
「……『袖付き』……もしくは、ネオ・ジオンがっすかー?」
「闇を感じるぜ!!陰謀っぽい!!」
「……そのどちらでも無かった方が、もっと根が深い闇だとオレは思うぜ……」
大尉はそんなセリフと共に、杏仁豆腐を食べ終えた。ちょっくら集中することになりそうだ。
スワンソンくんの代わりをするとすれば……命がけの任務になる。そうでなくとも、何か別の厄介事を『親友』から渡されそうでもあるしな。
ちょっとは本気を出さなければ、死んでしまうかもしれん。光速で銀河の中心へ向かって飛ぶような、『非科学的な存在』を相手に戦えば……命がいくらあっても足りない。ちゃんと、作戦と連携を使うべきだ。そうでなければ、とても狩れるようなシロモノじゃない。
……空中のなかで、一機がどんどん突出して行き、赤い光と遭遇する。
ジュナ・バシュタ少尉が、切ない震えを伴う声でつぶやくのだ……。
「……リタ……っ」
「ええ。この赤い点が、ターゲット。つまり、ユニコーンガンダム3号機、『フェネクス』よ。そのテストパイロットは、リタ・ベルナル少尉……」
攻撃が開始される。戦艦の主砲のような熱量を用いた攻撃―――ビームによる砲撃で、『フェネクス』が隠れている場所を焼き払った。
その後は、撃ち合いに接近戦に、同士討ちの危険性もある、無茶な戦術を用いて……一機で突出していたパイロットは、『フェネクス』と引き分けていた。
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