ACT140 『ジュナとミシェルと……』
……ミシェルとこんな形で再会することになるとはな。
いや……そう言えば、私はどんな形でミシェルと再会したかったのだろうか―――ティターンズがエゥーゴに負けて、ティターンズが解体されて、色々なヤツが戦争犯罪者として裁かれて……。
ミノフスキー粒子の散布とか、空爆とか、モビルスーツの戦闘なんかでグチャグチャになってしまった地球で、実在しない経歴を作り上げて、地球連邦軍に入隊した。リタを探すため?……そうでもあるし、生き抜くためには、それしか道がなかった。
私たちの多くには障害が発生していたし、精神病も多くの連中が患っている。オーガスタ出だと知られたら、仕事ももらえやしなかった。
あまりにも大勢が死に過ぎてしまって、人手不足だった地球連邦軍にでも転がり込むしか、私に選択肢なんてなかったんだよ……適当な書類でも、認めてくれるぐらい……あの時は、人手が足りなかったんだろうから。
……ミシェルは、野良犬みたいな私と違い……ルオ商会にいたわけだ。そこで命の心配をすることはなく、暮らしてこれた。それなりに、苦労はしたのだろうし……リタや私を探し続けていたことも、真実だろう……。
……リタを助けることまでは、間に合わなかったがな……いや、そもそも、あの日、リタが頭を開けられて、脳を壊された日―――全ては、あの日、終わっていたのかもしれない。
私たちが追いかけているのは、本物のリタ・ベルナルから、どれぐらい違う存在になってしまっているのだろうか…………くそ。こんなことを考えて、迷っていたりする場合じゃないだろうに。
「……なあ。ミシェル」
「……何かしら、ジュナ?」
「……メシは食ったよ。だから、『不死鳥狩り』のハナシをしようぜ」
「そうね」
「リタは、どこにいる。いや……『フェネクス』か」
「民間コロニー群の一つで、大暴れしていたみたいね。それが、最新の目撃情報よ」
「まさか、コロニーを襲ったというのか!?」
そう声を荒げたのはイアゴ・ハーカナ少佐であった。彼は眉間に深いシワを寄せている。怒っているようだが―――リタ・ベルナルという人物に起きた、残酷な悲劇の一端を知ってしまった彼は、その怒りに対して抑制がかかってしまうらしい。
その結果、なんとも複雑な表情をしている。正直な人物だなと、ジュナ・バシュタ少尉は考える。良い大人だ。ヒトの悲劇に対して、同情してやれるのだからな……。
社会の暗い面を見ながら生き抜いて来たジュナ・バシュタ少尉にとっては、その善良さを維持したまま大人になれた彼のことが羨ましくもある。
ミシェル・ルオは、そんな善良なモビルスーツ乗りを、じーっと細くした瞳で見つめながら、ゆっくりと首を横に振っていた。
「ちがうわ。リタ・ベルナルに、そんなことをするつもりはないのよ」
「そ、そうか……うむ……善人だし…………ニュータイプだもんな」
「……ええ。私たちの幼なじみは、殺戮を好むような性格はしていない。だからこそ、中立地帯である宙域に逃げ込んだのかもね」
「……なるほど。パイロットらしい発想かもしれない。自分が、連邦軍にもジオン側にも追いかけられると、気がついているのか……」
「そうよ、少佐。リタは、おそらく両軍に捕獲されることも、両軍と戦うことも拒んでいる。だからこそ、その軍事目標が何も存在しない場所に逃げ込んだ」
「パイロットの意志が反映されているというわけか。ならば、君たちの幼なじみの意識は……まだあるとうことなのか?……その、リタ・ベルナルの」
「15ヶ月のあいだ宇宙を光速だか、それに近い速度で跳び回っていた。銀河の中心を目指していたのかもしれないわね……」
「15ヶ月ってー……それ、死んでね?」
「おい。滅多なこと言うなよ……姉ちゃんたちの幼なじみなんだぜ?」
双子はそういう。後者の方も、フォローになっているようで、なっていない。言わなきゃいい?……そうかもしれないが、ヤツもまたリタ死亡説には反論がないようだった。
……しかし、ならず者の大尉は反応する。
「……相対性理論ってヤツに、期待しているのか」
「……ええ。光の速さに近づいていたのよ。時間の流れが遅くなっていた可能性もある」
「物理学上の理論が正しかろうとも、実際に、起こりえるのか……?15ヶ月間も、光速状態を保てるのかね……いや、彼女たちにとっては、そう長い時間ではないのかもしれないが……ふむ。どうなんだろうかな……」
「サイコフレームの能力は、底が知れないわ。とくに、ニュータイプのような存在がそれに絡んだ時はね。進化するのよ、サイコフレームは、ニュータイプの能力や発想を、フレーム内部にある多量の小型サイコミュに、保存してしまうの」
「サイコミュに、ニュータイプの能力をコピーさせている……?」
※会員登録するとコメントが書き込める様になります。