ACT122 『悪意在る世界にて』
激闘から一夜が明けて、ジュナ・バシュタ少尉たちを乗せた一行は、建設途中の宇宙港へと辿り着いていた。
偵察兵として先行してくれた、大尉と双子たちからの情報を無線で受信ながら、イアゴ・ハーカナ少佐はアゴ髭をいじっていた。
「……無人と来たか」
『ああ。無人だぜー。誰もいなーい!フリーダムを感じる!!』
『不用心だな、事務所泥棒とか怖くねえのかよ?』
『放射性物質の汚染もそれなりに深刻な地区の中央だ。除染はしているかもしれないが、風が吹けば幾らでも有害な物質は飛んで来る……もともと、自動化されていた気もする。いたとすれば、最小限の人数だっただろう』
「……なるほど。とにかく、安全なんだな?」
『安全だ。地雷も何も仕掛けちゃいない。監視カメラの映像も、一般企業レベルのものだった。すっかりと無効化してやったよ。警備会社には連絡が行くだろうが……』
「逃げてしまえば、後の祭りということか」
『そういうことだ。だが、本当に来てくれるのか、ルオ商会の連中は、内輪モメしているんだろう?』
「……ミシェルさまは、この任務を曲げることはありません。必ずや成し遂げる。そのためには、あらゆる困難を排除しようとするでしょう」
ブリック・テクラートはモビルスーツ運搬用の、大型トレーラーの操縦室で断言した。イアゴ・ハーカナ少佐は、再びアゴ髭をかく。ブリックの鋭い視線が、眼鏡の下で動く。
「……信用なさっていないのでしょうか?」
「いや。シェザール7の友人なんだろ、ミシェル・ルオは?」
「幼なじみ……『奇跡の子供たち』の一人です。ジオンのコロニー落としを予言した、三人の子供の一人。昨夜、貴方は二人にお会いした」
「ジュナ・バシュタと……リタ・ベルナル―――後者は、何というか、『一部』だったようだがな」
「ええ。それでも、ジュナ・バシュタ少尉は『対話』を果たした。ニュータイプとして、覚醒しつつあるのでしょう」
「本人は、ニュータイプではないと否定したがっているようだが?」
「そう呼ぶに相応しい力を、すでに発揮されています。死者との対話を果たした。『ストレガ・ユニット』との接合をせずに……感応波で、やり取りをしたのでしょう」
「……よく分からんハナシになるな。ニュータイプの力ってのは、神秘なところがある。完璧に、オカルト染みているが…………オレは、アムロ・レイが星を動かす虹を呼んだのを見たからな」
「その経歴も、ミシェルさまが貴方がたを選ぶための要素となったのですよ。貴方は、ニュータイプが起こした奇跡の目撃者だ。ニュータイプを救う任務なら、モチベーションも高まるでしょう」
「あー。何でもご存じなんだな……ルオ商会の特別相談役の、ニュータイプさんは……」
自分の過去を探られる。あまり心地よくなる行為ではない。しかし、たしかに、この不可思議な任務に対しての適性には、なるのかもしれないと少佐は納得することにした。
「……オレたちに献身的に働いて欲しいと?」
「その必要は出て来るでしょう。実力だけで、どうにかなる相手ではありません。死力を尽くしていただくことになりますから」
「……光速に近い速度で、地球圏から離脱するフル・サイコフレーム・モビルスーツ……しかも、ガンダムタイプであり、操縦者はニュータイプか」
「……強化人間としての処置を受けている以上、彼女は元・ニュータイプの強化人間という存在なのかもしれません」
「脳を……弄られているんだったな」
「一部は切除されて、除去されたようです。機械と繋ぐためには、過去はいらない」
「……くそ。ヒドいことしやがる……」
「そうですね」
「……昨夜のパイロットは、どうなっているんだ?」
「メディカル・スタッフによると、脳内にはそれなりに深刻なダメージが見られると」
「バシュタ少尉は……鼻血となって、自分が流れ出て行くと言っていたが?」
「痛ましいですが、経験則であるのならば……正しい表現なのかもしれませんね」
「……あのパイロットは、社会復帰出来るのだろうか?」
「記憶障害が残る可能性は高いそうです」
「彼女も、記憶を失ってしまったのか……?」
「その方が、『ストレガ・ユニット』と接続しやすいのかもしれない……詳細は、不明ですがね。我々が、破壊してしまったので」
「……正しい選択だった。むろん、アフリカ戦線には、それらがまだ残っているのかもしれないが……いや、宇宙にだって、あるのかもしれん」
「……今まさに、世界のどこかで、新たな被害者が生まれているかもしれない。サイコフレームだって、表向きは封印されてはいますが……有効な兵器です。地球連邦側はもちろん、ジオン共和国側も―――ネオ・ジオンなどと通じることで、秘密裏に研究を行わせているでしょう」
「大きすぎる力は、あまりにも危険だ。それ故に、封印することに同意したハズだってのにな……」
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