ACT077 『ブラックボックスの中の差別主義者』
『ニュータイプ・デストロイヤーは、その名のとおり、ニュータイプを殲滅するための特殊オペレーション・システムです』
「……どういうシロモノだ?」
『……提供元はアナハイム・エレクトロニクス。オリジナルの製造元はビスト財団です。その仕組みは解明されてはいない。ほとんど全てがブラックボックスと言える』
「ふむ。で、どういうことだ?」
『複雑かつ精密な上……このシステムのエビデンスは乏しい』
「エビデンス……科学的根拠が示せない?」
『そうです。おそらくは、かなりオリジナリティの強い発明でしょうな……具体的に言えば、ビスト財団の一部が……『ニュータイプを殲滅』するためだけに創り上げたんです。おそらくは、莫大な研究資金が投入された、単独の研究室で、長年にわたる研究をしたあげくの発明です』
「……オリジナル過ぎて、他の人がついていけないってことか?」
『恣意的に言えば、そんなところです』
どこかシンプルな解釈をしすぎて、バカにされたような気持ちになるが―――今はチームでモメている状況じゃない。ジュナは黙っておくことにした。
『このシステムを理解することは、あまりにも難しいのですが……模造することには成功していますし、使えばどういう結果が起きるのかについては、少ないながらも実績が報告されています。我々は、その情報をアナハイム・エレクトロニクスから提供されてもいる』
「……仲良しなんだな」
『さあ。微妙なところですが……あちらさんにも、私たちが運用したデータをお渡しする予定でしたから、研究成果を相互に得る。フェアなトレードです』
「『運用』ね。私を使ってか」
『……ええ。申し訳ございません。少尉に、NTDの詳細を話せば……ナラティブから取り除けと言い出すに決まっていましたので……』
「ミシェル・ルオの指示で、言わなかった。そうだな」
『……はい』
「説明の続きを頼むわ」
リタを殺すための装置。私が、リタ相手に躊躇ったら、そのシステムを使うつもりだったのか。合理的だな……私よりも、考え方がパイロットに向いているんじゃないのか。
分かっている。15ヶ月、宇宙を漂流した機体が……たとえ、光速で飛んでいたとしても……パイロットは……リタ・ベルナルが生きている可能性なんて、万に一つもない。私は、それでも万に一つを求めてしまう。
だが、その賭けは……あまりにも確率が低いってことぐらい、分かってはいるんだ……。
『……NTDは、『ジオン・ズム・ダイクンの提唱したニュータイプ』をターゲットにした装置です。宇宙で進化した新しい種類の人類ですな』
「……どういうことだ?ニュータイプに反応するっていうのか?」
『よく分からない仕組みの一つです。NTDのターゲット選択は、ニュータイプあるいは強化人間に対してのみ、働くようです。わずかなニュータイプ能力や、その可能性を持つ者に対しても、NTDはターゲットとして認識するそうですよ』
「……私には?」
『もちろん、動いています。地球生まれのニュータイプにも、反応するみたいですな。どこかいい加減な仕組みじゃありますよ。そこがまた、エンジニア泣かせです』
「……何だか分からんな。どうやって、それらを判断しているのか……」
『……個人的な考えなんですけど、これって、一種の人格移植かもしれません。AIに対して、個人の思考パターンを模倣させる。そうすれば、回収した情報に応じて、その個人を模倣したAIが、判定を下す』
「……ジオン・ダイクンが嫌いなヤツらしいな」
『あるいは、彼の政治、思想、哲学などに、異常なまでの恐怖を抱いていた人物でしょうなあ。あるいは、怒りとか焦り……劣等感とか?』
「負の感情ではあるだろうな。特定の人種を差別的に攻撃しようってんだ。ずいぶんと不寛容な『男』が主犯だろう」
女は嫌いなヤツを除け者にはするが、殺そうとまではあまりしない。人種差別的な憎しみにも、男女の違いがある。
『また性別判定ですか、少尉?……エビデンスは?』
「あるわけないだろ。ただ、そんな気がするだけなんだよ。いいか?私は、モビルスーツ・パイロットで、ニュータイプもどきの一人だ。科学者なんかじゃない。だが、想像はつくよ。嫌いな人種に、それだけ熱を上げられるのは、女じゃない。男だろ?」
『どうでしょうか。熱心な人種差別主義者の女性も少なからずいると思いますけど。でも……そうですね……今回は、少尉の勘を信じます。エビデンスはいりません。貴方とはチームですし、少尉のニュータイプとしての能力は、本物だと感じているからです』
「NTDに反応してるから?」
『いいえ。NTDは実に多くの人物に興味を示す。気ほどの可能性を感じれば、ブラックボックスの中の『男』は、排除すべきと感じるようだ。こんなものは信じられません。私たちは、少尉がアムロ・レイとνガンダムに迫れたことを、評価しているんです』
「……モビルスーツの操縦が、大して上手くもない私が、伝説の英雄さまといい勝負したのって、ニュータイプ能力でもないと、あり得ないってことね」
『ええ。あなたは、地球生まれのニュータイプの一人ですよ、ジュナ・バシュタ少尉。宇宙に上がれば、まだその能力は拡張するかもしれません』
「真空にさらしたぐらいで、そうヒョイヒョイと能力が増えるとか思わないけど、期待はしておく。それで、NTDのターゲット選定が差別的なことは分かったけど、起動したら、どうなるってのよ?」
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