ACT069 『もう一組の逃亡者』
大尉は考える。モビルスーツの残した足跡だ。見覚えがある……実機じゃなくて、資料でだがな―――。
「―――いいか、母親の腹から同時に生まれ落ちてしまったマヌケども、よく聞け。コイツは、ジェスタの足跡だ」
『……はあー?』
『ジェスタって、あれっすよねえ。あのジェガンの上位機種の?』
「そういうことだ。オレたちの乗っているモノより、かなり高性能。性能だけなら、あのνガンダムさんの90%近い能力だとか、そうじゃないとか」
まあ、メーカーや技術屋の主張なんて信じられねえんだけどなぁ。ヤツらも自分の商品に対しては、嘘をついてハナシを盛りがちだもんよ。
νガンダムの90%ってのは、さすがに持ち上げ杉なんじゃないか?……ガンダムよりも、どっちかというとジム臭いっていうかな……。
そもそも、昔の機体だから弱いだとか、新しい機体だから強いとか、そんなものはメカニックのエゴみたいなもんだ。
使いやすい機体に、多くの有効な戦術を研究させて、そのことを理解しているパイロットが乗れば、機体の世代差なんてものは、すぐにくつがえせるってもんだぜ。
すぐ故障する。最新鋭機の最大の特徴だな。古くて安心感の漂っている武器の方が、ホンモノのパイロットには相応しいよなあ……。
まあ、こんな二流の残念ツインズどもには、そういう玄人的な意見を理解する知性はないだろうがな。なんで、オレの部下なのに、いつまでも馬鹿面さらしているんだろう?
……オレの部下だからか?まさかな……。
『ガンダム級ってマジー?』
『量産機のくせに、かっこつけやがって』
「バカ言え、オレたちの乗っているジェガンよりも製造数は極端に少ないハズだ。エースさまにのみ与えられる、カッコいい名馬みたいな存在だ」
『大尉は、与えられなかったんすねー』
『マジ受ける』
「うるせえよ。バカども。オレは楽して暮らしてえから、大尉止まりだったんだよ。マジメな性格していて、上司に降りまくる可愛げのある尻尾でも生えていたら、大佐ぐらいにはなれていたよ」
『大佐ー?』
『似合わねえ』
「……オレだって、言いすぎたかもしれんと思っている。でも、実際のところ、パイロットとしての腕だけで出世させてもらえるんなら、それぐらいにはなってるよ」
自信はある。ほとんどのパイロットには負けないだろう。アムロ・レイと、シャア・アズナブルとか……ああいう頂点にいそうな連中以外には、まず勝てちまうさ。
『大尉は、アホみたいに強いっすもんねー』
『大尉、強化人間説がありましたよね』
「……こんなチャーミングなオレを、根暗な強化人間だと?……仕事より、趣味優先で生きているじゃねえかよ」
『そんなクズ野郎みたいな生きざまなのに、どーしたもんだか、パイロットとしての腕がいいんですもん』
『大尉のせいで、若いヤツらはやる気なくすんすよ。ああ、努力なんてムダなんだ。ぜんぶ、才能なんだって』
「……若手がヘタレなのはオレのせいじゃないよ。きっと、教育とかが悪かったんだろうさ」
『……でー』
『このジェスタって?何で、ここにいるんすかね?』
「いい意見だな」
何故、こんなところにジェスタが歩いている?……超がつくほどの高性能機だぞ。
オレたちを追いかけて来たってんなら、ともかく。コイツは先行していた……こんなクソ広い荒野で、同じ進路……目的地は一つ。
「……密航して、宇宙に逃げるつもりだな。オレたちと同じように、アフリカから逃げて来たバカがいるようだ。しかも、そいつらジェスタを盗んだ」
『悪党っすねー。お高いんでしょ、ジェスタって?』
『ガンダム並みってんなら、ガンダリウム合金が入ってそう。『袖付き』のヤツら、アレにはムチャクチャにいい報酬を用意してたっすもんねえ』
「笑ってる場合じゃないな。コイツらは、大悪党。しかも、6機もいる……ネオ・ジオンへの亡命希望者かもしれんな。ジェスタのカスタム機体なら、ガンダム盗むほどのインパクトはなくても、かなり相手さんからは喜ばれる」
ただし。二度と連邦の土を踏むことは出来なくなるだろうがな。永遠に、裏切り者あつかいとされるだろう……。
『……オレたちみたいに、コソコソとパーツちょろまかすだけじゃないんすねー』
『そいつらってクールだぜ。大尉が、カッコ悪く見えるよね』
「うるせえ。オレだって、ジェスタぐらい盗もうと思えば盗めるが……足がつく。コイツらには、スゲー刺客が放たれているハズだぜ……」
『じゃあ、どうするんすかー?』
『この方角、例の打ち上げ基地っしょ?』
「……ああ。ジェスタ6機とドンパチするには、オレさまとバカ双子だけでは、いくらなんでも敵が多すぎる。オレはともかく、お前たちは死ぬだろ」
『ほらー。大尉だけ生き残りそうって、自覚があるんだ!』
『いっつもそう。なんか大尉だけ、ズルいんだよな』
「うるせえよ……まあ、オレたちの機体をぶっ壊して、そいつらに殺された風に見せかけるのも、悪くない。互いのコクピットをビームで撃ち抜けば、死体は融けちまったとか思われる。逃げることは出来るが……ヘリウム3は、遠くなる」
『じゃあ、やっすよー』
『他の案を下さいよ、大尉なら何かあるんでしょ、ずる賢いんだから』
「……まあ、あるけどなあ……連絡取りたくないヤツでもあるんだが―――背に腹は変えられないか」
……ジェスタが得られるかもしれないなら、ヤツも乗ってくれそうだ。
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