四十七章 歴史
同じ種族同士の戦いが絶えなくなった頃、大地は人の行いを嘆き、ひとつの大陸が分裂してしまう。
大きな土地がふたつ、そして数々の小さな土地。
それがカーラ帝国とレイバラル大国のはじまりで、小さな土地を巡り小さな部族、集落、町などが取り合いをはじめるようになるが、たったひとつだけ離れ小島となり争いとは無縁の存在となる。
他国に力を借りればまた争いに巻き込まれてしまうことを嘆き、彼らは自国だけでやり抜こうと決意をする。
それがカルミラ国の祖先になる。
もともとは自給自足で生きていこうと決めた者たちの集まりのため、職人の技が発展、加工技術がさらに特化していき鉱山という資源にも恵まれ産業といえばカルミラとなった。
しかし時代の流れとともに、一国だけで生き抜くことが難しくなる。
自国にないものを補ってくれる存在、それを求め和平という名の下傘下に下り、そして世界は再び二分化して終わりの見えない争いが続く。
カルミラ国で黒いダイヤの原石が見つかったのは、まだ世界がそれぞれの主張で争いを続け、カルミラだけが争いと無縁の国づくりをしていこうと決めた頃。
とても珍しかったので国宝にしようと考えた。
大切に祀り、神の加護のもと、それは国民ひとりひとりのほこりにもなりる。
しかし、それをよしと思わない者も当然でてくる。
珍しいものは我が手に……その野心で黒ダイヤに触れた者には神の罰が下る。
たまたまだったかもしれないが、そけがきっかけで黒ダイヤにいわくつきという噂が広がる。
それでも黒ダイヤは国宝だと信じる者たちは圧倒的に多く、それを象徴するように、いつの頃からか王と王妃がそれを印として受け継ぐことになる。
だが、時代は日々移り変わり、カーラの属国になることが決まり始めた頃、政治のために引き裂かれた王族がいた。
ひとりは敵国に人質として、もうひとりは帝国に従う意志の現れとして生け贄のような扱いで連れ出されてしまう。
そのふたりを不憫に思ったひとりの聖職者が、ひとつの黒ダイヤをふたつにわけ、それぞれに持たせた。
いつかひとつになれることを希望に……
しかし、その願いは叶わない。
それぞれの黒ダイヤはそれぞれの遺品としてカルミラに戻ってくる。
だが、それを機にカルミラには世にも珍しい黒いダイヤがあるという噂が広がり、それを奪いに、それを掘り起こしに、野心に満ちた者たちが現れ出す。
ところが、黒いダイヤに触れると不可解な死を遂げるなどまたいわくつきな噂が広がり、事態を重くみた当時の司祭が、神の加護下に奥のがよいと進言。
滅多なことでは外に出さないようにしていた。
「なぜ、それなのに、外に出したのですか?」
黙って話を聞いていたクラウディアが聞く。
「あなたが持ち主であるからですよ、リリシア。あなたは政治のために引き裂かれた女性の魂を受け継ぐ者です。そしてダジュール王、あなたがそのもうひとりの魂を継ぐ者です。黒ダイヤが黙って盗まれたのではありませんわ。あえて盗まれてくれたのです。あなたにあうため。あなたとシシリアを引き合わせるためにです。さらにいえば、あなたがたがこうして生を受け生きている今は、黒ダイヤがふたつに分かれてちょうど二千年。節目の年なのです。しかし、そういう年には必ず諸悪の根元も目覚めます。それがあの男です」
マリアンヌはどうしてもその根元を見張る必要があったのだという。
娘と天秤にかけることじたい間違っているとわかりながら、自分は授けられた使命を選んだ。
母と思わなくてもいい、ただ、あの男を葬ることには手を貸してほしいと、この時、はじめてマリアンヌは本心を語った。
※※※
マリアンヌから二千年の節目であると聞かされた司祭は、残されている古い文献を確認してみるといい、席を外す。
ルモンドもまた二千年前と言われたことで、自分の中にあるカーラの歴史を思い返し始めた。
「ああ、たしか、カーラ始まっていらいの暴君王がいたとか、そんなことを言われたことを思い出した。なんでもすぐ粛正してしまうので、これでは自国の民がいなくなってしまうと懇願したとも。だがどうにもならず、クーデター……ああ、なるほど。余のパターンと同じというわけか」
「そうではないでしょう、ルモンド。あなたとあの男は違います。あの男はやたらと黒いダイヤを恐れていました」
「カーラにある古い文献を確認すればあるかもしれないな。だが、もう手だてはない」
「ですから、諦めないでください。歴史でよろしければレイバラルの文献でもよいのでは? 長きにわたり争ってきていたのですから、互いにスパイを送っていたのではないでしょうか。軍機密のようなものがあれば、詳しく残っているのではないでしょうか」
黙って成り行きを見守っていたダジュールが口を開く。
「ならば、その役割は俺がやろう。一度帰国しなくてはいけないと思っていた」
だがクラウディアが納得しない。
「ダメよ。レイバラルに戻ったらカーラにいるあの人が網を張って待ち伏せしているかもしれないわ」
大きな土地がふたつ、そして数々の小さな土地。
それがカーラ帝国とレイバラル大国のはじまりで、小さな土地を巡り小さな部族、集落、町などが取り合いをはじめるようになるが、たったひとつだけ離れ小島となり争いとは無縁の存在となる。
他国に力を借りればまた争いに巻き込まれてしまうことを嘆き、彼らは自国だけでやり抜こうと決意をする。
それがカルミラ国の祖先になる。
もともとは自給自足で生きていこうと決めた者たちの集まりのため、職人の技が発展、加工技術がさらに特化していき鉱山という資源にも恵まれ産業といえばカルミラとなった。
しかし時代の流れとともに、一国だけで生き抜くことが難しくなる。
自国にないものを補ってくれる存在、それを求め和平という名の下傘下に下り、そして世界は再び二分化して終わりの見えない争いが続く。
カルミラ国で黒いダイヤの原石が見つかったのは、まだ世界がそれぞれの主張で争いを続け、カルミラだけが争いと無縁の国づくりをしていこうと決めた頃。
とても珍しかったので国宝にしようと考えた。
大切に祀り、神の加護のもと、それは国民ひとりひとりのほこりにもなりる。
しかし、それをよしと思わない者も当然でてくる。
珍しいものは我が手に……その野心で黒ダイヤに触れた者には神の罰が下る。
たまたまだったかもしれないが、そけがきっかけで黒ダイヤにいわくつきという噂が広がる。
それでも黒ダイヤは国宝だと信じる者たちは圧倒的に多く、それを象徴するように、いつの頃からか王と王妃がそれを印として受け継ぐことになる。
だが、時代は日々移り変わり、カーラの属国になることが決まり始めた頃、政治のために引き裂かれた王族がいた。
ひとりは敵国に人質として、もうひとりは帝国に従う意志の現れとして生け贄のような扱いで連れ出されてしまう。
そのふたりを不憫に思ったひとりの聖職者が、ひとつの黒ダイヤをふたつにわけ、それぞれに持たせた。
いつかひとつになれることを希望に……
しかし、その願いは叶わない。
それぞれの黒ダイヤはそれぞれの遺品としてカルミラに戻ってくる。
だが、それを機にカルミラには世にも珍しい黒いダイヤがあるという噂が広がり、それを奪いに、それを掘り起こしに、野心に満ちた者たちが現れ出す。
ところが、黒いダイヤに触れると不可解な死を遂げるなどまたいわくつきな噂が広がり、事態を重くみた当時の司祭が、神の加護下に奥のがよいと進言。
滅多なことでは外に出さないようにしていた。
「なぜ、それなのに、外に出したのですか?」
黙って話を聞いていたクラウディアが聞く。
「あなたが持ち主であるからですよ、リリシア。あなたは政治のために引き裂かれた女性の魂を受け継ぐ者です。そしてダジュール王、あなたがそのもうひとりの魂を継ぐ者です。黒ダイヤが黙って盗まれたのではありませんわ。あえて盗まれてくれたのです。あなたにあうため。あなたとシシリアを引き合わせるためにです。さらにいえば、あなたがたがこうして生を受け生きている今は、黒ダイヤがふたつに分かれてちょうど二千年。節目の年なのです。しかし、そういう年には必ず諸悪の根元も目覚めます。それがあの男です」
マリアンヌはどうしてもその根元を見張る必要があったのだという。
娘と天秤にかけることじたい間違っているとわかりながら、自分は授けられた使命を選んだ。
母と思わなくてもいい、ただ、あの男を葬ることには手を貸してほしいと、この時、はじめてマリアンヌは本心を語った。
※※※
マリアンヌから二千年の節目であると聞かされた司祭は、残されている古い文献を確認してみるといい、席を外す。
ルモンドもまた二千年前と言われたことで、自分の中にあるカーラの歴史を思い返し始めた。
「ああ、たしか、カーラ始まっていらいの暴君王がいたとか、そんなことを言われたことを思い出した。なんでもすぐ粛正してしまうので、これでは自国の民がいなくなってしまうと懇願したとも。だがどうにもならず、クーデター……ああ、なるほど。余のパターンと同じというわけか」
「そうではないでしょう、ルモンド。あなたとあの男は違います。あの男はやたらと黒いダイヤを恐れていました」
「カーラにある古い文献を確認すればあるかもしれないな。だが、もう手だてはない」
「ですから、諦めないでください。歴史でよろしければレイバラルの文献でもよいのでは? 長きにわたり争ってきていたのですから、互いにスパイを送っていたのではないでしょうか。軍機密のようなものがあれば、詳しく残っているのではないでしょうか」
黙って成り行きを見守っていたダジュールが口を開く。
「ならば、その役割は俺がやろう。一度帰国しなくてはいけないと思っていた」
だがクラウディアが納得しない。
「ダメよ。レイバラルに戻ったらカーラにいるあの人が網を張って待ち伏せしているかもしれないわ」
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