二十一章 クラウディアの素性
「答えられないか。ならば覚えておくといい。答えられない、是非すら言えないのはな、それを無言で認めているということだ。とすれば、おまえの意思に関係なく、おまえはリリシア・カルミラだと持ち上げている者がいるということだな。誰だ? それくらいは言えるだろう? 言えばおまえへの疑惑は少しだが晴れる。さらにこれ以上辛い思いをしなくていいのだからな。誰だ? 言え!」
ここは違うと言うべきだったらしい。
まさか担がれていると思われるとは……
養父の名を出せばここに残っている家族にまで危害が及ぶかもしれない。
ケイモスは自身がカーラにいた頃の帝王はルモンド・カーラ二世だと言っていた。
今、クラウディアの目の前にいるのが当時からの帝王。
ケイモスの名を出せばすぐに知れ渡ってしまう。
また裏切ったケイモスを絶対に許さないだろう。
彼がいるレイバラルに引き渡しを要求か、もしくは問答無用で開戦宣言をするかもしれない。
「……ちがっ……」
「ん?」
「違います……わたし、担がれてなんていません」
「ほう、では認めるのか、おまえがリリシア・カルミラであると」
「いいえ。わたしには故郷はありません。ずっと各国を旅して戦争に巻き込まれて、それでレイバラルの人に助けてもらって」
「ああ、王の親戚筋に助けられ養女となり、ダジュール王に見初められたらしいな。ずいぶんと都合のいい話だ。貴族が小汚い難民を養女にするものか。するとするなら、おまえがカルミラの正当な継承者であると知っていたからだ。見返りなしに人が手助けなどするものか」
「そんな……人はそんな人ばかりではありません。見返りなど求めず手をさしのべる人の方が多いはずです」
「綺麗事だな。内心はわからん」
「あなたは、他人を信じられないのですか?」
「当然だ。信じられるのは俺自身のみだ」
「……そんな……」
「おまえは見返りなしに親切にされていると思っているのだな。勝手にそう思っていればいい。だが、ここで夫以外の男と関係を持ったと知れたら、どうだろうか」
「……え?!」
「誰彼かまわず足を開く姫となり、おまえを利用しようとする者は後を絶たなくなる。その最初が俺だな」
「……やっ」
「俺はな従順な女が好きだが、おまえのように拒む女を手なづけていくのも好きなんだよ。俺好みの女に躾てやろうか? クッ、そうだな、それがいい。恨むなら母親を恨め。マリアンヌをカルミラごときの島国に嫁がせた当時のおろかな政治を恨め!」
「やっ! やめて! 言っていることがめちゃくちゃだわ!」
「そうか? マリアンヌはな、俺の親戚筋の娘だった。幼い頃から気品あふれる女でいつかはモノにしてやろうと思っていたのに、あいつらは島国に追いやった。いつか奪い返そうと思っていたら解任したとか……だったら根こそぎめちゃくちゃにしてやろうって思ったのさ」
「ちょっと、なにを言っているの? 帝王、あなたが嫁がせたのでしょう。手元に置いておきたければ権力を行使すればいいじゃない」
「ああ、そうだ。だから水面下で動いて力を行使したんだよ。おまえばバカか? クーデター、起してやったんだよ、この俺が、俺様が!」
カーラ二世がクーデターを起こした張本人?
ではケイモスが言っていたカーラ二世は誰なのだろう?
まさか二十人格の持ち主であるというオチなのだろうか。
それとも、そっくり入れ替わっている?
そんなことがでくるだろうか。
顔を隠すわけでもなく、これほど似ている者を捜すことができるだろうか。
カーラ帝国は軍力だけでなく医学も発達していた……ということは……
クラウディアはこのことを早く外に知らせなくてはと、抵抗する力を強めた。
「抵抗するか。どこにそんな力が残っていたのだろうな。まあいい、抵抗し続けていろ。それに対し、俺がするのはこれだ」
なんと、カーラ二世は剣を抜き、クラウディアに振り下ろす。
しかし殺すつもりはないようで、着ているものだけが切り刻まれていく。
クラウディアははだけた胸を隠すこともしない、また下半身が露出しても恥じる様子はない。
それはカーラ二世にとっては以外でもあり、またある確認に近づくものでもあった。
「やはり、リリシア・カルミラなのだな。生きていたか」
「違うと言っている!」
「いや、違わないな。なぜだか教えてやろうか。今日の俺は少し気分がいい。なぜなら、マリアンヌの忘れ形見を犯すことができるんだからな。いいか、よく聞け。高貴な者ほど裸体を見られても羞恥とは感じないんだよ。体を洗うのも着替えるのも、自分ではしない。みなメイドや召使いがやるからだ。体を見せることを恥じていては由緒正しい貴族や王室などでやっていけないんだよ!」
それは違うとクラウディアは思ったが、反論するほどの余裕がなくなっていた。
息があがり、わずかな反応の遅さでも薄皮が切られるくらいにまでなっている。
「ほらほら、しっかり逃げろ。でないと肉まで切ってしまうぞ」
旅をしていたクラウディアにとって、川や湖での水浴びは日常的だった。
大衆向けの風呂に入ったこともある。
見られて恥ずかしいと思っていては、旅を続けられない。
それに本当に恥ずかしいのは裸体を見られることではないことを、知っているからだ。
クラウディアは壁際まで追い込まれ、そしてカーラ二世の手に落ちる。
ダジュールの時の行為も辛いものがあったが、カーラ二世の方が比べものにならないほどだった。
憎しみと快楽とそして相手を虐げることへの高ぶりに満たされ、その対象となってしまったクラウディアには女性としてではなく人としての価値をも奪われる。
彼女はただ性欲を満たすためだけの肉の塊以外のなにものでもなかった。
自分の腕を噛み声を息を殺し、ただ相手が満足して手放すのを待つことしかできない。
何度も意識が途切れそうになる中、逃げるチャンスだけは逃してはならない、それだけの思いが失いそうになる気力を保っていた。
ここは違うと言うべきだったらしい。
まさか担がれていると思われるとは……
養父の名を出せばここに残っている家族にまで危害が及ぶかもしれない。
ケイモスは自身がカーラにいた頃の帝王はルモンド・カーラ二世だと言っていた。
今、クラウディアの目の前にいるのが当時からの帝王。
ケイモスの名を出せばすぐに知れ渡ってしまう。
また裏切ったケイモスを絶対に許さないだろう。
彼がいるレイバラルに引き渡しを要求か、もしくは問答無用で開戦宣言をするかもしれない。
「……ちがっ……」
「ん?」
「違います……わたし、担がれてなんていません」
「ほう、では認めるのか、おまえがリリシア・カルミラであると」
「いいえ。わたしには故郷はありません。ずっと各国を旅して戦争に巻き込まれて、それでレイバラルの人に助けてもらって」
「ああ、王の親戚筋に助けられ養女となり、ダジュール王に見初められたらしいな。ずいぶんと都合のいい話だ。貴族が小汚い難民を養女にするものか。するとするなら、おまえがカルミラの正当な継承者であると知っていたからだ。見返りなしに人が手助けなどするものか」
「そんな……人はそんな人ばかりではありません。見返りなど求めず手をさしのべる人の方が多いはずです」
「綺麗事だな。内心はわからん」
「あなたは、他人を信じられないのですか?」
「当然だ。信じられるのは俺自身のみだ」
「……そんな……」
「おまえは見返りなしに親切にされていると思っているのだな。勝手にそう思っていればいい。だが、ここで夫以外の男と関係を持ったと知れたら、どうだろうか」
「……え?!」
「誰彼かまわず足を開く姫となり、おまえを利用しようとする者は後を絶たなくなる。その最初が俺だな」
「……やっ」
「俺はな従順な女が好きだが、おまえのように拒む女を手なづけていくのも好きなんだよ。俺好みの女に躾てやろうか? クッ、そうだな、それがいい。恨むなら母親を恨め。マリアンヌをカルミラごときの島国に嫁がせた当時のおろかな政治を恨め!」
「やっ! やめて! 言っていることがめちゃくちゃだわ!」
「そうか? マリアンヌはな、俺の親戚筋の娘だった。幼い頃から気品あふれる女でいつかはモノにしてやろうと思っていたのに、あいつらは島国に追いやった。いつか奪い返そうと思っていたら解任したとか……だったら根こそぎめちゃくちゃにしてやろうって思ったのさ」
「ちょっと、なにを言っているの? 帝王、あなたが嫁がせたのでしょう。手元に置いておきたければ権力を行使すればいいじゃない」
「ああ、そうだ。だから水面下で動いて力を行使したんだよ。おまえばバカか? クーデター、起してやったんだよ、この俺が、俺様が!」
カーラ二世がクーデターを起こした張本人?
ではケイモスが言っていたカーラ二世は誰なのだろう?
まさか二十人格の持ち主であるというオチなのだろうか。
それとも、そっくり入れ替わっている?
そんなことがでくるだろうか。
顔を隠すわけでもなく、これほど似ている者を捜すことができるだろうか。
カーラ帝国は軍力だけでなく医学も発達していた……ということは……
クラウディアはこのことを早く外に知らせなくてはと、抵抗する力を強めた。
「抵抗するか。どこにそんな力が残っていたのだろうな。まあいい、抵抗し続けていろ。それに対し、俺がするのはこれだ」
なんと、カーラ二世は剣を抜き、クラウディアに振り下ろす。
しかし殺すつもりはないようで、着ているものだけが切り刻まれていく。
クラウディアははだけた胸を隠すこともしない、また下半身が露出しても恥じる様子はない。
それはカーラ二世にとっては以外でもあり、またある確認に近づくものでもあった。
「やはり、リリシア・カルミラなのだな。生きていたか」
「違うと言っている!」
「いや、違わないな。なぜだか教えてやろうか。今日の俺は少し気分がいい。なぜなら、マリアンヌの忘れ形見を犯すことができるんだからな。いいか、よく聞け。高貴な者ほど裸体を見られても羞恥とは感じないんだよ。体を洗うのも着替えるのも、自分ではしない。みなメイドや召使いがやるからだ。体を見せることを恥じていては由緒正しい貴族や王室などでやっていけないんだよ!」
それは違うとクラウディアは思ったが、反論するほどの余裕がなくなっていた。
息があがり、わずかな反応の遅さでも薄皮が切られるくらいにまでなっている。
「ほらほら、しっかり逃げろ。でないと肉まで切ってしまうぞ」
旅をしていたクラウディアにとって、川や湖での水浴びは日常的だった。
大衆向けの風呂に入ったこともある。
見られて恥ずかしいと思っていては、旅を続けられない。
それに本当に恥ずかしいのは裸体を見られることではないことを、知っているからだ。
クラウディアは壁際まで追い込まれ、そしてカーラ二世の手に落ちる。
ダジュールの時の行為も辛いものがあったが、カーラ二世の方が比べものにならないほどだった。
憎しみと快楽とそして相手を虐げることへの高ぶりに満たされ、その対象となってしまったクラウディアには女性としてではなく人としての価値をも奪われる。
彼女はただ性欲を満たすためだけの肉の塊以外のなにものでもなかった。
自分の腕を噛み声を息を殺し、ただ相手が満足して手放すのを待つことしかできない。
何度も意識が途切れそうになる中、逃げるチャンスだけは逃してはならない、それだけの思いが失いそうになる気力を保っていた。
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