十五章 カーラ帝国の内情
ケイモスは自分の知る限りのカーラに関する内情を話し出した。
本来であれば王にも在籍して頂きたかったというが、あの状態のダジュールをこの場に連れ出すのは困難だろう。
王か王妃、どちらかが囮にならない限りは王宮からでることはできない。
それくらい、まだ対立が続いている。
王や王妃にこれ以上余計な情報を入れるなと躍起になっている者もいる。
自分たちに都合のいい情報しかあげないようにしているところもある。
「ではクラウディア、おまえがしっかりと記憶に残しておくように。なにがあっても何かに書き記したりするな。誰が見てしまうかわからないからね」
「わかったわ。でもこの手紙は?」
「大丈夫だ。それはみる人が見なければただの挨拶の手紙にしか見えない」
つまりはタリア以外にはわからないように書いてあるらしい。
「わかった。じゃあ、教えて」
クラウディアはひと呼吸してから、耳を研ぎ澄まし、頭の中から余計なものが入ってこないよう集中力を高めた。
「私がまだカーラにいた頃の帝王はルモンド・カーラ二世といって、分家から本家の養子になった方だった。軍力も大事だがこれからの時代は産業が世界を制すと思っていた方なので、私にカルミラの技術を盗むように依頼してきた。ところが当時のカーラ内部は、本家派・分家派・中立派の三つ巴で、分家派としては自分たちの血筋から帝王がでたのは喜ばしいことで、現状維持を推奨。しかし軍事力こそが国の反映、世界統一と信じている本家は、なんとかして分家の帝王を引きずりおろしたい。が、自分たちの中に帝王となれる歳の男はいなかったことから、本家の一部が加担している中立派を取り込もうという動きはあった。ようはどちらにも争いは好まない、その時その時にあった政治をすればいいという考えだな。それに加担している本家の中に、帝王即位して長く続きそうな年頃の男が数人いた。だが、彼らがクーデターに加担するとは思わない。となれば、帝王は今も変わらずルモンド・カーラ二世なのではないだろうか」
「ケイモス殿のその話が真実と仮定しますと、疑問点もあります。あまりにも政治体制・外交体制が変わりすぎています。和平を唱えていますので、本家ではなく中立が握ったのでは?」
「和平を唱えても軍事力は圧倒的なのでしょう? 水面下で動いているのでしたら、やはり本家かと。今の帝王は名前だけ。実験を握っているのは本家派の貴族や後援者でしょう。地位ほしさに下った可能性があります。そもそも公の場に帝王が顔出ししたことがありますか?」
「……いや、ないですね。いつも大使か代行で貴族の誰がです」
「そうですか。クラウディアの母、マリアンヌ様はカルミラ国との末永い良好な関係を願って嫁がれてきました。分家派の血筋の方です。あの日、他国になりすましたカーラ軍はマリアンヌ様と生まれたばかりのクラウディア様を必死に捜されたはずです。滅ぼそうとしている国の血縁者が生きていては再建させられてしまうからです。しかし、クラウディア様を見つけることができなかったため、マリアンヌ様を始末できないでいるのでしょう。最後のひとりまで確実に血筋を絶やしたいと思っているのであればです」
「つまり、見つけた娘と王妃の関係性を立証するためにも片親は生かしていなくてはならない」
「そうです。おそらく、王はもう生きてはいないでしょう。再建させないよう、見せしめに殺したか、首を晒したか。クラウディア、よく聞きなさい。優しく近寄ってくる人ほど疑いなさい。おまえの素性を知るなり手のひらを返したような態度にでる者を疑いなさい。そして出来ればカーラでマリアンヌ様、お母様を捜しなさい。すべての鍵はマリアンヌ様が持っているのではないでしょうか。ダジュール王が知りたがっている父王の死の真相も」
ケイモスは最後にクラウディアを強く抱きしめ、黒ダイヤの入っているケースを手渡した。
「これはお守りだ。きっとおまえ以外が触れればなにかが起きる。いざという時に手にする以外は、ケースの中に入れて置くこと。身につける時も布袋などに入れておくこと。黒ダイヤはきっと正当な持ち主であるクラウディア……いや、リリシア・カルミラを守ってくれる」
リリシア・カルミラ。
そう養父が口にしたのはどれくらいぶりだろうか。
過去に一度だけ、クラウディアの素性を終えたときに口にした依頼である。
「リリシア・カルミラ。それが姫の正式名なのですね」
アーノルドが敬意を表すように膝をつき、手の甲に接吻をする。
「この件が終わるまでの間、私、アーノルドはあなたの盾となり刃となりましょう」
「ありがとう。でも、わたしは大丈夫。リリシアの名はまだ伏せて置くわ。わたしではなく、養父を時々気にかけてください。それじゃあ、養父さん、行ってきます。きっと養父さんのご家族にも会えるよう頑張ってみるから」
少し、後ろ髪をひかれる思いをしながら、クラウディアは王宮へと戻った。
戻るとなぜかダジュールが部屋のソファーで寝ている。
外で倒れていたのを発見したものの、王妃が眠っているであろう寝室へと運ぶのをためらい、ここに寝かせたのだと思われる。
本来であれば王にも在籍して頂きたかったというが、あの状態のダジュールをこの場に連れ出すのは困難だろう。
王か王妃、どちらかが囮にならない限りは王宮からでることはできない。
それくらい、まだ対立が続いている。
王や王妃にこれ以上余計な情報を入れるなと躍起になっている者もいる。
自分たちに都合のいい情報しかあげないようにしているところもある。
「ではクラウディア、おまえがしっかりと記憶に残しておくように。なにがあっても何かに書き記したりするな。誰が見てしまうかわからないからね」
「わかったわ。でもこの手紙は?」
「大丈夫だ。それはみる人が見なければただの挨拶の手紙にしか見えない」
つまりはタリア以外にはわからないように書いてあるらしい。
「わかった。じゃあ、教えて」
クラウディアはひと呼吸してから、耳を研ぎ澄まし、頭の中から余計なものが入ってこないよう集中力を高めた。
「私がまだカーラにいた頃の帝王はルモンド・カーラ二世といって、分家から本家の養子になった方だった。軍力も大事だがこれからの時代は産業が世界を制すと思っていた方なので、私にカルミラの技術を盗むように依頼してきた。ところが当時のカーラ内部は、本家派・分家派・中立派の三つ巴で、分家派としては自分たちの血筋から帝王がでたのは喜ばしいことで、現状維持を推奨。しかし軍事力こそが国の反映、世界統一と信じている本家は、なんとかして分家の帝王を引きずりおろしたい。が、自分たちの中に帝王となれる歳の男はいなかったことから、本家の一部が加担している中立派を取り込もうという動きはあった。ようはどちらにも争いは好まない、その時その時にあった政治をすればいいという考えだな。それに加担している本家の中に、帝王即位して長く続きそうな年頃の男が数人いた。だが、彼らがクーデターに加担するとは思わない。となれば、帝王は今も変わらずルモンド・カーラ二世なのではないだろうか」
「ケイモス殿のその話が真実と仮定しますと、疑問点もあります。あまりにも政治体制・外交体制が変わりすぎています。和平を唱えていますので、本家ではなく中立が握ったのでは?」
「和平を唱えても軍事力は圧倒的なのでしょう? 水面下で動いているのでしたら、やはり本家かと。今の帝王は名前だけ。実験を握っているのは本家派の貴族や後援者でしょう。地位ほしさに下った可能性があります。そもそも公の場に帝王が顔出ししたことがありますか?」
「……いや、ないですね。いつも大使か代行で貴族の誰がです」
「そうですか。クラウディアの母、マリアンヌ様はカルミラ国との末永い良好な関係を願って嫁がれてきました。分家派の血筋の方です。あの日、他国になりすましたカーラ軍はマリアンヌ様と生まれたばかりのクラウディア様を必死に捜されたはずです。滅ぼそうとしている国の血縁者が生きていては再建させられてしまうからです。しかし、クラウディア様を見つけることができなかったため、マリアンヌ様を始末できないでいるのでしょう。最後のひとりまで確実に血筋を絶やしたいと思っているのであればです」
「つまり、見つけた娘と王妃の関係性を立証するためにも片親は生かしていなくてはならない」
「そうです。おそらく、王はもう生きてはいないでしょう。再建させないよう、見せしめに殺したか、首を晒したか。クラウディア、よく聞きなさい。優しく近寄ってくる人ほど疑いなさい。おまえの素性を知るなり手のひらを返したような態度にでる者を疑いなさい。そして出来ればカーラでマリアンヌ様、お母様を捜しなさい。すべての鍵はマリアンヌ様が持っているのではないでしょうか。ダジュール王が知りたがっている父王の死の真相も」
ケイモスは最後にクラウディアを強く抱きしめ、黒ダイヤの入っているケースを手渡した。
「これはお守りだ。きっとおまえ以外が触れればなにかが起きる。いざという時に手にする以外は、ケースの中に入れて置くこと。身につける時も布袋などに入れておくこと。黒ダイヤはきっと正当な持ち主であるクラウディア……いや、リリシア・カルミラを守ってくれる」
リリシア・カルミラ。
そう養父が口にしたのはどれくらいぶりだろうか。
過去に一度だけ、クラウディアの素性を終えたときに口にした依頼である。
「リリシア・カルミラ。それが姫の正式名なのですね」
アーノルドが敬意を表すように膝をつき、手の甲に接吻をする。
「この件が終わるまでの間、私、アーノルドはあなたの盾となり刃となりましょう」
「ありがとう。でも、わたしは大丈夫。リリシアの名はまだ伏せて置くわ。わたしではなく、養父を時々気にかけてください。それじゃあ、養父さん、行ってきます。きっと養父さんのご家族にも会えるよう頑張ってみるから」
少し、後ろ髪をひかれる思いをしながら、クラウディアは王宮へと戻った。
戻るとなぜかダジュールが部屋のソファーで寝ている。
外で倒れていたのを発見したものの、王妃が眠っているであろう寝室へと運ぶのをためらい、ここに寝かせたのだと思われる。
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