妖刀、村雨
・・・」
(どう思ってる、か・・・
人間の女、八龍のもう一人の使い手。
しかしそれはー・・・
ただの「立場」の説明か。
俺の気持ちとは何だー・・・?)
「俺は、まだその気持ちがわからんが、お前のその気持ちは嬉しい。
・・・ひなの、お前が元気になるまで、ここにいよう」
そう言って、ユノ様は23時ギリギリまで、私と一緒にいてくれた。
23時になると、人斬りの人々の人々指揮をとるため、部屋へ行っちゃったけど。
「1班、空牙さんの代わりに、外へ出ます。今日は1~5番街を回ってきます」
「2班、麗憐の代わりに俺が班長を勤めます。同じくあっちの町に。
扉の見張りも、うちから出します」
班長達がユノの前に並び、順々に出発の報告を上げていく。
そこには、鬼優の姿もあった。
五人の班長が敬礼をして解散した後のこと。
鬼優は一人、ユノの元へと残っていた。
「ユノ様、ひなのさん、貸してくれませんか?」
「何だ?」
「八龍も手にした事ですし、今日は僕と一緒に見回りしたらどうでしょう」
「・・・あいつは、人斬りではないからな・・・」
「もちろん、同じ仕事はさせませんけど。でも、彼女ずっと仕事もなくいるだけじゃ、つまらないと思いますよ」
(・・・っていうのは、口実かもしれない。
空牙や麗憐、そしてユノ様までも変えたひなのさん・・・
一体どんな人なのか、僕も興味があるんだ。
一緒にいたら、分かるかもしれない)
「あいつが行きたいと言うなら構わんが、近頃は反乱分子が多い。
特に人間のあいつは、すぐ餌食になる・・・
気をつけてくれ」
(ユノ様がこんな風に、人間の女の子を心配するなんて)
「はい、僕が付きっ切りで案内しますよ。夜の平和町も、場所によっては良いところですから」
ひなのの知らぬ間に話が進み、部屋のノックがかかったのはその後すぐのこと。
「あれ、鬼優。お仕事、行かないんですか?」
「行きますよ、今から。
あなたを連れてね」
「はい?」
「もう、元気になったでしょう?
ここに来てこの方、夜出歩くこと無かったと思って。
僕と一緒に、外に出ましょう」
「え、今からですか?」
・・・もう、23時過ぎなんだけど・・・
「夜の町を案内したいです。ユノ様も、ひなのさんが良ければいいと言っています」
・・・うーん・・・
夜の人斬りの町って、めちゃくちゃ怖いんだけど・・・
・・・でも、確かに元気になったし・・・それは、鬼優のおかげだもんね。
「そっか。じゃ、せっかく誘ってくれたから、行こうかな」
そうして、すぐに鬼優と共に外に出ることになった。
「見回りの仕事って、いつも何してるんですか?」
「見回りです」
「それはわかります」
・・・この人、面白いな。
「まぁ、人斬り同士の斬り合いとか、弱者の排除・・・
そんなところですか。
あ、でも今日は僕はそれしませんよ。ひなのさんを連れているから。
ただの、夜の散歩だと思って下さい」
「それ、サボりですか?」
「内緒です」
そんな鬼優の回答に、ひなのは思わずふふっと笑った。
この人はまた、空牙とも違うキャラだけど、なんだか話しやすいな。
「ごめんね、ひなのさん。ソフトクリーム屋はもう閉まってますけど」
「え、全然大丈夫!こんな時間に、ソフトクリーム食べないから!」
なんか、ソフトクリーム大好きな人みたく思われてる・・・
「じゃ、昼間に出かける機会があったらで。
今日は、他に連れて行きたいところがあります」
「どこですか?」
「・・・光の見える所です」.
暗い中だったが、鬼優が微笑むのが分かった。
「光・・・?」
「そう。好きそうなので」
何だろう。星が綺麗な丘でもあるのかな。
「そういえばひなのさん、八龍は置いてきたんですか?」
「あ、はい。ユノ様の部屋に置いてきました。あれから触ってなくて」
「そうですか。じゃあ、僕から離れないで下さいね」
鬼優って、少年みたいな顔してるし細いけれど、何か頼もしいな。
やっぱり、班長っていうだけあるのかも。
「ねぇ、鬼優の刀はなんて言うんですか?」
僕の妖刀は、【村雨(ムラサメ)】です。
力はー・・・"執着"です」
「執着・・・?何に対する執着?」
「"生"に対する執着・・・かな。
そのせいか、村雨は僕に異常なまでの回復力と、免疫力を与えてくれてます」
「だからか!その力で、治療してくれたんですね。
私てっきり、医者かなんかかと思っちゃった」
「人斬りの町に、医者なんかいませんよ」
・・・そうなんだ・・・
「鬼優なら、なれそうです。ね、医者の第一号になったら?
すごいいいと思う!」
我ながら名案じゃん!と思ったが、鬼優はかなり意表を突かれたのか、目をぱちくりさせていた。
「医者・・・ですか。考えたこともなかったです」
絶対良い!と連呼するひなのを連れて、鬼優は裏道を進んで行った。
自分を守り生かすための力を、誰かのために使い続けろと言う。
医者になれとはそういう事だ。
そんなひなのの言葉が、人斬りの鬼優にどう響いたか・・・。
ひなのには、分からなかった。
「!」
そのまま少ししてからの事。
「ぅらァ!!貴様ァ!」
「どけっ、斬り捨ててやる!」
「やれ!」
「かかれェ!」
裏道を行く途中、何やら怒鳴りあう声が聞こえてきた。
ひなのはビクッとして、身を固める。
どこか近くの道で、人斬りがやりあっているようだ。
「鬼優・・・!」
「大丈夫、僕がいます」
鬼優はひなのの前を、堂々と歩きながら振り返った。
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