第二十四話 『モルガナの機能』
城ヶ崎シャーロットの食いしん坊属性のおかげで、早めのランチは早めに完結することとなった。水筒からコーヒーを取り出して、蓮とシャーロットは食後のコーヒーを楽しんでいた。
モルガナは、城ヶ崎シャーロットに引っ張られて、彼女の膝の上に抱かれる。まんざらでもなさそうだ。機嫌良さそうな顔をしているのが、蓮にはよく分かった。
「うららかな、春の日差しパワーのせいでさー……眠っちゃいたいなあ。お腹も、レンレンのお手製サンドイッチさんのおかげで、いっぱいだしー……はあ、幸せモードだよ」
「そうか。たしかに、眠くなるな」
「だよねー……」
「このまま寝るか?」
「うん。それも有りっちゃ有りだよねー」
『いや。ダメだろ?……学校の案内はともかく、教会の掃除には行けよな?……一応、お前たちは二人とも遅刻したんだ。神代先生のペナルティを受けろよな?』
「んー。モルガナがむずがってる……?そっか。きっと、私とレンレン、叱られてるね」
「正解だ。眠たいが……そろそろ、教会に行こう」
「えへへ。男のヒトに、そういう言葉使われるの、けっこードキドキもんだ」
「どうしてだ?」
『……絶対、分かってて訊いてるだろ、蓮……』
「秘密だよーん。シャーさん七つの秘密の七つ目だー」
「秘密の多い子なんだな」
「うん。そーなんだよ。魅力的なミステリアス・ガールさんでーす……ふわああ!……眠いなー……レンレン、手、引っ張って起こして」
『甘え過ぎ……っていうか、他に誰もいないからって、いちゃつき過ぎだろ……まあ、別にいいんだけどよ。とにかく、教会に向かうぞ!神代殿を、待たせてはいけないからな!』
「モルガナ、はりきってるなー」
「神代先生がタイプらしい」
『べ、べつにそうじゃないし……わ、我が輩みたいな大人の紳士には、彼女みたいな大人な淑女が相応しいとか、そんなこと考えてはいないわけだしな……ッ』
考えているようだ。モルガナは分かりやすい。城ヶ崎シャーロットは、蓮に手を引かれてイスから立ち上がる。
「足首は?」
「ほとんど痛くなーい。今なら、100メートルは20秒ぐらい走れそうだよ」
「……あまり、速くはないな」
「一般女子高生だからね。サイボーグとかだったら、その十分の一で走れたんだけど。残念でした、シャーさんは赤い自転車に乗っていないと、それなりなのでござーる」
「そうでござるか」
『……ほら。ふざけてないで、行くぞ』
蓮はモルガナをいつものようにバッグに入れて、肩に担いだ。
「じゃあ。行こうか、城ヶ崎?」
「うん。レンレンと教会に行くね……えへへ。なんか、素敵な響きー……でも、現地で待ち受けているのは、地味なお掃除ターイム……青春って、素敵と現実が一緒になって融け合ってる、カフェオーレ的な……ふわあああ。眠いなあ」
『……長いセリフとか使えなさそうだな、城ヶ崎は』
「……ふー……何かカッコいいセリフを言っていたはずなのに、忘れちゃったよ」
「大丈夫だ。それほどカッコいいセリフでもなかった」
「あう。シャーさん、ショックだよ……っ」
「ほら。行くぞ、城ヶ崎」
「ラジャー……って。私が先頭じゃないの?捻挫しちゃってHPが減少しているから、最後尾的な戦術でありますか?」
「そういうことだな」
「ならば、よし。シャーさんは、戦術によく従うタイプの、ベテラン・魔法使いなのだー……ふわーあ」
あくびする城ヶ崎シャーロットを引き連れたまま、蓮は校内を歩いて行く。
校内のあちこちでは新入生たちがキョロキョロしながら、列を成してどこかに向かっている。校内の案内を受けているのかもしれないし、荷物を抱えているところを見ると、学生生活で必要な品を購入しているといったトコロなのだろう。
『新入生かー……まあ、蓮もこの学校では新人だがな』
「そうだな」
『お前は器用だから、すぐに慣れるさ。仲良しの友だちも一人作れたしな。いい学校生活が送れそうだ。シュージン学園は、ヒドい学生生活だったもんな……勉強が出来るトコロを見せると、ドン引きされていたりしたよな』
「気にしちゃいない」
『……だろうな。蓮は強いから。だが、それでも我が輩としては、お前が楽しげな学生生活を過ごすことが望ましい……楽しい日々を過ごしてくれ』
「モルガナも一緒にな」
『へへへ。そーだな。もちろんだ。我が輩も一緒に、このミカエルでの日々を楽しむとするぞ!!……そのためにも、我が輩のアイドル、神代殿に会いに行くのだー!!』
モルガナがバッグから飛び出して、素早い歩調で走り始める……神代先生に発見されるつもりらしい。フツーの野良猫のフリをして、彼女と仲良くなるつもりなのだろう。
「……策士だな」
「……ん。モルガナ、脱走したの?」
「いいんだ。モルガナは、単独行動もこなせるタイプの、賢い猫型生物だ」
「……なるほど!……よく分からないケド、モルガナは万能ってことだね!」
先行するモルガナは学園内を風のようなスピードで駆け抜けていった。蓮と城ヶ崎シャーロットは、それほどではないスピードで、ノンビリと春の学園内を歩くのだ。
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