第六話 新たな出会い?
「焦っても、仕方がないこともある」
蓮は遠ざかるバスを見送りながら呟いていた。モルガナは、はふー、とため息を吐いた。この相棒は、いつもながらマイペース過ぎるというか……。
『……そうかもしれないが……まあ、たしかに、次のバスを待つしかないか―――』
モルガナがそう呟いた瞬間、二人の前に一台の自転車が現れる。もちろん、その乗り手も共にだが。
「……おはーよ!……その制服、うちの学校だよね?ミハエルの?」
自転車のブレーキをかけて目の目に止まったのは、金色の髪をポニーテールにまとめた少女だった。
『外国人だー!!しかも美人!!』
モルガナがそうはしゃいでいる。杏に対してもだが、モルガナは金髪の美少女に興味があり過ぎるのかもしれない……。
「ミハエルの子じゃないの?」
大きな青い瞳をした少女は、ゆっくりと頭を傾げてみた。ミハエル。たしかに自分が今日から通う予定の高校の名前である……蓮はうなずいた。
「そうだ。今日から、ミハエルの子になる」
「ん。新入生……じゃないよね、校章が3年生バージョンだし……?」
「編入したんだ。東京の高校から、こっちにな」
「そっかー。じゃあ、東京のヒト?」
「いや。元々は、こっちが地元なんだ。だが、色々とあって、一年ほど東京に通っていた」
傷害事件のレッテルを貼られて、東京に『島流し』にされた。その事実については語らなくても良いだろう。誤解を生む可能性があるからな。
「そっか。とにかく、ミハエルの子なんだよね……?バス、遅れちゃったんだ」
「……ああ。走ったが、勝てなかった」
「あはは!そりゃ、勝てないよー。この『シャーちゃん』&通学チャリさんでもムリだもーん」
『シャーちゃん殿かー……』
通学バッグに身を潜めているモルガナが、しずかにそう呟く。なんだか、一年前を思い出してしまう。金髪少女に弱いらしい、モルガナは……しかし、シャーちゃんか。
「面白い名前だな」
「ん。ああ、違うよ?本名じゃなくて、あだ名ね」
「そうなのか」
「うん。そうなのだ!……本名は城ヶ崎シャーロット。ハーフなんだ」
「そうか。雨宮蓮だ。よろしく」
「うん。よろしくー」
『モルガナです……』
「ん。あれれ?……なんか、猫さんの鳴き声しなかった?」
『……っ』
「何だか、君のバッグ、動いたような……?」
「バッグは動かない。気のせいだろう」
「そう?」
「ああ。もしかしたら、中身の弁当がズレたのかもしれないな」
「なーる。でも……そんなカンジの動きじゃなかったよーな……?」
城ヶ崎シャーロットは、蓮とその肩に担がれた通学バッグを、じーっと見つめてくる。蓮は少し困る……本当のコトを教えようか?……モルガナは喜ぶ気もするし。
だが、シャーロットは、ああ!と叫んでいた。
「このままじゃ、遅れちゃうね!!……じゃあ、君……このシャーさんの自転車に、乗りたまえ!!」
「自転車を貸してくれるのか?」
「ちがう!!そーじゃなくて、二ケツするの!!二人で、自転車に乗って、レッツゴーだよ!!そしたら、二人とも遅刻しないで済むし!!」
「……なるほどな」
「ほら。荷台のところに乗るんだ、レンレン!!」
「頼んだ」
『……え?……二ケツは危ないけどって、そもそも、それやるとしたら、男のお前がこいだ方がよくないか?……ていうか、男として、そーあるべきじゃないのか?』
「シャーロットはやる気だ」
『……そ、そーかもしれんが。え?それで、いいのかな……?』
「猫さんの声が、聞こえる気がするなー……私、猫幽霊にでも取り憑かれているのかな」
「安心しろ。幽霊に取り憑かれてはいない」
「え?見えちゃうヒトなの、レンレン?」
「目力には、自信がある」
「ほ、ほー。うーむ……たしかに、鋭いというか、深みがあるというか……」
シャーロットはその青い瞳で、蓮のダテ眼鏡の下にある黒い瞳を見つめてくる。目力勝負なのかと、連はじーっと見つめて返す。あふれ出る魅力があるせいか、シャーロットは顔を赤らめて、目を反らしたしまう。蓮は、勝利したようだ。
「あ、朝から見つめ合っててどーする!?……ていうか、ちょっと急がないと?さあ、このシャーちゃんの後ろに乗れ、地元民なのに東京帰りのレンレン!!」
「わかった」
蓮は赤を基調としたシャーロットの通学自転車の荷台に乗った。
「この赤いシャーロット号は、並みの自転車よりも、三倍は速く走れるのだー!!」
『そんなばかなことあるわけねえ……』
「行くぞ、しっかりとつかまっておきたまえ!!」
シャーロットは自転車をこぎ始めていた。ゆっくりと前に進み始めていた。3倍速い。ふむ、期待してみたいところだが……かなり、ふらついている。
「う、うむ。あれ、パワー不足かな……っ?あ、危ないから、つかまっているよーに」
「どこにだ?」
「え。そ、そだなー。あ、あまり、エッチじゃないところにして……って……っ!?」
「っ!?」
自転車がフラリと傾いて、シャーロット号は二人を乗せたまま、豪快に地面に倒れてしまう……。
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