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鍵を拾った少年

ジャンル: ホラー 作者: ファンシーホラー
目次

第六話

先輩は、まじめな顔で、こういった。
「学校の四大話………そこそこ古いってことは、知ってるな」
友人は、答える。
「そうっスねぇ………二十年前って、聞いたっス」
まだ十三~十四歳の少年たちにとって、二十年とは大昔である。
しかしながら、学校の長い歴史にしてみれば、少し昔の不祥事である。
不祥事を探り当てた転校生を処分して、その処分を取り消したという話し。
尾ひれがついて、四大話。
怪談に変化するのは、学校らしいといえるだろう。
四年で卒業していく子供達が、面白おかしく実話を伝え、伝えていくうちに伝言ゲームで今の姿になっても、おかしくないのだ。
それが、真相の答え。
不祥事と、探り当てた転校生が、不当に扱われ、許された話。
二十年も昔のことなら、もう過去のこと。
この話は、おしまいだと。
違うと、先輩は知っているようだ。
「本当の始まりは、五十年前だ。そして、『その四、帰ってきた、転校生』の話が、二十年前なんだよ」
一同、息を呑む。
噂話であるために、異なる話が合わさることも、あるだろう。伝言ゲームなのだ。無責任に尾ひれが加わって、なにがなんだか分からなくなる。しかしながら、噂をたどれば一本につながるものだ。あるいは、元の話らしいものの形がみえる。
今回の、本当の真相は違うらしい。
「今から、噂の本当の順番を教えてやる。きっと『第四資料室』の噂の再現が、俺たちだろうからな」
そう言って、先輩は現れた扉を見た。
『第四資料室』――と、古びた標識があるだけだ。
何も知らずに見れば、ただの古い部屋の入り口。
だが、この場の少年達には、それは怪奇現象の入り口だと、理解していた。
月明かりが、不気味の度合いを、上げていた。
「これは、俺が先輩から聞いて、先輩も、さらに先輩から聞いて、代々聞き継いできた話だ」
学校に伝わる怪談。
それは、どこかで読んだ、聞いた、あるいは考えた話が、この学校で起こったものとして伝わって、伝説になっている物語に過ぎない。
だが、そうした物語に、真実が隠されていることもある。
その学校にしかない物語が、それである。
四大話として、一部で継承されていた。

その一、開かずの体育倉庫。
その二、第四資料室
その三、気付けばいる、転校生
その四、帰ってきた、転校生

「この学校には最初『第四資料室』の噂しかなかったんだ。そして、『その一、開かずの体育倉庫』が、実は一番新しい、後付の話なんだ。噂の真相が、つまらない真相だって俺たちに思わせるために、付けられたんだよ」
先輩は、真相を教えてくれると言った。
だが、その真相を理解するまでに、しばし時間が必要だった。
学校の不祥事を転校生が解決した。
それが話の真相だと、友人は話を集めて、結論も集めていた。
「………先輩、じゃぁ、オレが昼間集めた噂話と、ついでに教えてもらった真相って言うそのものが………」
「あぁ………俺たちをこの、本当の『第四資料室』から、遠ざけるためだ」
なぜ、連れてきた。
訊ねたかったが、真相を知りたい誘惑が、今は優先だった。
「本当にあるとは、思わなかった。だけどな、代々伝わってる話だから、おまえ達にも教えておこうって思ったんだ。俺も先輩からここに連れてきてもらって、真相を知ったんだから」
代々伝わっている。
知ることが、義務のような言い方だと、少年は思った。
今は、ただ話を聞くことにした。
教えてもらった話は、こうだ。
存在しないはずの、第四資料室の噂が、本当の始まりである。
五十年前、生徒が一人、消えたという。
実際には数人だとか、もっと大勢だとか、このあたりは分からないという。
実際には、五十年よりもっと前かもしれない。
分かっているのは、その後に、不思議な転校生が現れたということ。
「その転校生って言うのが、不思議なんだ。気付けばクラスに一人、増えてたんだ。そしてなぜか、転校生だって、誰もが思ってるんだよ。教師も含めて………」
それは正に、怪奇現象である。
目の前の扉のように、ないはずのものが、あるのだ。
それは人も、同じらしい。
いったい自分達はどうなるのか、なぜ、ここでそんな話しをしているのか。
少年はただ、手に入れてしまった鍵について、知りたかっただけなのだ。
いいや、今まさに、その話を聞いている、と言うことなのだろうか。
「後付で、学校の不祥事が加わったって、話したろ。どうやら、大人の側がでっち上げて、広めたらしい。目的は達成され、真相は闇の中………いいや、この扉の向こう………かな」
選択肢は、消えていた。
先輩はどうやら、『第四資料室』の再現を覚悟したようだ。
いいや、覚悟せざるを得ないだろう。
少年が、改めて鍵を見せる。
「………五十年前も、この鍵を拾った生徒がいたって………ことですかね」
「やめようぜ、先輩も、もういいじゃないっスか。真相が実際にあったって、確かめられたんだから、おまえも、そんなヤバそうなの、捨てちまえ」
友人が、一番常識的だと、少年は思った。
だが、少年も覚悟は出来ていた。
怪奇現象には、巻き込まれるしかないのだと。
あきらめさせるためだろうか、より絶望的な話をした。
「捨てたって、たぶん無理だよ。だって昨日、ボクの部屋の洗面所の扉………こうじゃないけど、あっちにつながってたから」
友人は、恐怖で引きつった顔をした。
さすがの先輩も、覚悟を上回っていたようだ。
しかし、いまさら引き返すこともできない、そんなお顔だった。

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